結束新たに
*ライガー* 健康
筋肉:D(成長傾向)
体力:C(成長傾向)
知能:F
運命:A
【憑依体】【格闘家】【悪役覚醒】
【根性】【慈愛】
『なんだかごちゃっとしていますわ』
「筋肉が成長傾向です!」
ロザリーは新しく手に入れた"右手"と長耳を器用に使い、スマ本を読んでいる。
ライガーは相変わらず筋トレに勤しんでいた。
『さあ。眠りこけているあの娘のも見てやるのですわ』
*ベティ* 状態異常:虹[メイジブラスター]
筋肉:C
体力:C
知能:C
運命:S
【ヒロイン適正】【ベビーフェイス(先天)】
【熱血願望(潜在)】【ベッドメイキング】
『……どこから突っ込めばいいのかしら』
<あらかた閲覧が終わったようですね。順に説明させていただきます。まず、名前の隣に表示されているこちらですが。>
状態異常と書かれた文字が光る。
<その方の健康状態を表します。ベティさんは 【虹[メイジブラスター]】となっていますね。>
『え、ええ。そうなっていますわ』
<【虹】はランダムでステータス異常を起こす効果があります。今回は【メイジブラスター】ですね。【メイジブラスター】は魔法使いにだけ効果が働く特殊なバッドステータスなのですが、運の悪い事にベティさんはベッドメイキング系統の魔法の使い手でした。>
ロザリーは恐る恐る背後を振り返る。
虹色のベッドがごそごそと動いているのを見て、ちょっとだけ申し訳ない気持ちになった。
『運命力とは……』
<はい。筋肉体力知能はその名の通りですが、運命力は単に運の良さを示しているわけではありません。サイコロを三つ振った時に全ての目が6になるのも、1になるのも、どちらも高い運命力に因るものです。>
「おいしい人という事ですね」
<まあ端的に言えば……。ヒロイン適正が強く影響しているようですね。>
『なんだか羨ましいような恐ろしいような……』
<根っからの主人公あるいは勇者タイプといったところです。>
「という事は……! ベビーフェイスというのは容姿を指している訳ではないのですね!」
『急にテンション上げてきましたわね……』
<はい。善玉のヒーローという意味です。>
にっこりと微笑むライガー。
「ふふふ……。これは今後の成長が楽しみですね」
それから少し時間が過ぎた。
すっかりスマ本にハマっているロザリーと、黙々と筋トレに集中するライガーをよそに、虹色のベティが起き出してきた。
「ふぁ〜、皆さんおはようございます! お陰様でよく寝ました。寝すぎたせいか、なんだか身体が固い気がしますね!」
『……ご、ごきげんよう!』
「……はい」
<……。>
虹色のベティから微妙に視線を逸らす二人。なんとなくスマ本にも気まずい雰囲気が伝播していた。
「うーん、特に左手が重いような……あれ? 私、なんだか虹色になってませんか!?」
『もはや隠しきれませんわ……。ベティさん、これを』
ロザリーはベティの目の前まで移動してスマ本を見せた。
「虹ってなんですか……メイジブラスターってなんですかー! 運命Sとはいったい……」
<左手に異常を感じるのですか?>
「本が喋った!?」
『ベティさん、そのへんのくだりは一通り済みましてよ』
「えー……。 えっと……身体は左手が重い以外は特に変な感じはしませんね」
<ぐーちょきぱーは出来ますか?>
「はい。ぐー、ち……あれ? 指が……指が動きません!」
<どうやら石化が始まっているようですね。メイジブラスターの影響です。>
ベティの左手は他の部分と比べると、虹色の色彩が少し欠けていた。それは左手の先端、指の先へ行くほど暗くなっている。
『始まっているという事は、このままだと?』
<はい。石になります。石化が心臓に到達した時、ベティがどうなるかは分かりません。>
「いやああ! どうすれば助かるんですか!」
<検索してみます。がががが。ぴー。>
スマ本の頁が勝手にパラパラとめくられていく。めくられた頁が片っ端から消滅し、すぐさま新たな頁が表れてはめくられていく。薄い本の元々少ない頁がいつまでも送られていく光景に、その場にいる全員の目が奪われていた。
<出ました。金ピカの針、高濃縮エーテル、スペル【ンマディ】で石化は治ります。>
「そ、それらを手に入れる手段は!?」
<金ピカの針と高濃縮エーテルはダンジョンの外に出なければなりません。スペル【ンマディ】は使用できる術者が20メートル以内に入れば分かるのですが。>
『今はお手上げって事ですわね』
「そんなぁ……」
重たい空気がそれぞれにのしかかる。
すると、場違いに元気な声と、爽やかな風が部屋の入り口から吹き込んできた。
「話は聞かせてもらった!」
「スライム君……!」
『ええ? この人が? 形かなり変わってませんこと?』
入り口に仁王立ちしていたのは、どう見ても人間の少年だった。
野性的な長い銀髪が片方の目を覆い、自身に満ち溢れた残りの目がこちらを見ている。
「ふふふ、ボクだって常に進化しているんだよ」
そう言うとスライム君は目を隠していた前髪を持ち上げた。
「に、虹色です!」
「かっこいいぞスライム君!」
スライム君は部屋の中まで大股で歩いて入ってくると、ベッドの上にどかっと座った。
「結論から言うね。 どのアイテムを探すより術者を探す方がはやいよ。そして、そいつはひとつ下の階層にいるんだ」
「なんですって!」
「彼は魔法のエキスパートらしいからね。ボクが直接会ったわけではないんだけど、おやつが教えてくれたのさ」
スライム君は小悪魔っぽく笑うと自分のお腹をぽんっと叩いた。
『やっぱりちょっとおっかないですわ……』
ぶるぶると震える人魂ロザリー。今となっては彼女がスライム君に一番近い存在である。
「さあ! さあさあ! すぐにでも出発しましょう」
ベティがいそいそとベッドなどを片付け始めた。
右手で何度か叩くだけでその場から寝具が忽然と消えていく。
『貴方のそれ、さり気なく使ってるけどとんでもない気がしますわ……』
部屋はあっという間に殺風景なものとなってしまった。
「と、というわけで……ボクも行ってもいいよね?……せ、先生」
「ああ。スライム君の好きなだけ側にいるがよろしい! だが筋トレには付き合ってもらうぞ」
ライガーに背を叩かれ、スライム君は嬉しさと照れで顔が真っ赤になった。
「う……うわ、へへへ」
結局、仲間は四人と一冊。
大きな運命のうねりが一つの方向に動き始めていた。




