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つかのまの昼休み

 


「スライム君……!」


 仲間達がスライム君の座る切り株へと駆け寄る。


『なんだかまた形が変わりましたわね!』

「ああ、 こんなに小さくなって……でも無事で良かったです!」


 スライム君は親指ほどのサイズになっていた。


「うん。無事だったかというとちょっと微妙だけどね? こんなに小さくなっちゃったもの!」


 言葉とは裏腹に切り株の上を元気に跳ね回るスライム君。


『なんだか可愛らしいですわ』

「もう元の大きさには戻れないんですか……?」

「いや。栄養とってればまた戻るよ。消化に時間かかるから、一瞬で回復ー! なんてのは出来ないけどね」

『不思議な生き物……』

「ロザリーさんも結構不思議に見えますけど」

『まあ! わたくし、貴方を見ていると目が痛くなりますのよ』

「ひどいですー! こんな派手になったの誰のせいだと……ハッ」


 二人はただならぬ気配を感じたが、振り向く勇気は出なかった。


「そうそう。ボク達はまたゴブリンに会いに行く必要があるよ。呪術に長けてそうなやつがあいつらの中に居るのを見つけたんだ」

「結局避けては通れないのですね……」

「ゴブリンシャーマンぢゃな。やつらのリーダー格ぢゃ。ところで比較的地味なアンタ、作戦があると言うとったか?」


 長老がライガーに問いかける。


「ええ。闘争好きなら断れない話だと思います。あくまで交渉なので作戦とは違いますが」

「ふむ……? ワシらに出来る事は?」

「はい。出来るだけ精鋭を集めてください」

「なんぢゃ、結局やる事は変わらんのかい」

「そうですね」

「まあ加勢してくれるのなら何よりぢゃ。夕刻に鐘が鳴ったら入り口に集合するんぢゃよ」


 そう言うと長老は広場のさらに奥の方に去って行った。


『長老は解呪の魔法は使えないのかしら』

<ありませんでした。土を増やしたり、植物の成長を促すスペルの使い手のようです。>

「便利なような、そうでもないような……」

「ボクが植物だったらなぁ」


 夕刻までの間、一旦ライガー達は解散して各々自由行動をしていた。


 ロザリーはスマ本片手に果樹園を見学したり──


『この果物はなんですの?』

<ドラゴンフルーツですね。一口かじるとあまりの辛さに炎を口から噴射できるようになります。>

『食べようかと思ったけどやめましたわ……』


 ベティとスライム君はひたすら焼きしいたけを食べていたり──


「さあさあスライム君! もっと食べないと大きくなりませんよ。まだ一個も食べきってないじゃないですか」

「いやちょっと待ってよ、自分より大きなものをそんなにすぐ食べ切れるわけがないでしょ」

「ほっほー! でも虹の人、明らかに自分の体積を超える量食っとるんぢゃが」

「ベティもたいがいだよね……」

「ひどいですー! ひょいぱく。 腹ペコだったんですー! ひょいぱく」


 ライガーは相変わらず筋トレをしていたり──


「ふっ……ふっ……」

「うわあっお客人! そんな高いところで何やっとるの!?」

「む。トレーニングですが」

「蔦が切れて落ちたら危ないぢゃろはよ降りてこんか!……というかどうやって登ったの?」

「すみません。頭に血が登って動けなくなりました」

「だれかー! マットをもってくるんぢゃー!」



 ――休息と呼ぶにはあまりにも短い時間であるが、それぞれがリラックスした時間を送っていた。


 そして、大広場に差す光は茜色になり、集合の合図である鐘の音が鳴り響いていた。


「皆の衆、 よおく集まってくれた! これからワシらはワシらの国を護るために戦いに行く! もし怖気付いたなら今ここでこっそり居なくなっても文句は言わんぞ」

「誰が逃げるものか! ゴブリンなぞしいたけの肥やしにしてくれるわ!」


 正門前では長老がノーム兵を煽り、指揮を高めているところだった。


「おおやってるねぇ! 妖精の戯れ事かと思ったけど中々気合い入ってるじゃん」

『でも皆装備が木製ですわ……』


 ノーム兵の武装は木製の丸盾に木剣という簡素なものだった。


「でもゴブリン達は素手と金属のナイフ持ちが半々くらいでしたよね。ややノームさん達の方が有利に思えますよ」

「ボクたちも武器持ってないから他所のこと言えないけどねぇ。お、進軍始まった」


 長老が吹く笛にあわせてきびきびとノーム兵達が進軍していく。動物的なゴブリン達とはまた違うしっかりと型にはまった統率された動きであったが、それは道半ばになると殆ど崩壊していた。


「それでアンタあの虹の人、どれだけ食ったと思う?」

「うーん。あれ結構腹に溜まるものなぁ。三つくらい?」

「いやそんなレベルじゃないよその十倍はゆうに超えとったよ」

「なんと! あの大食漢の長老でもそんなにはいかんぢゃろうて」

「ほうよ。それでその後どっか行ったなと思うとったらまたひょっこり戻ってきて――」


 足音はてんでばらばらになり、雑談があちこちで始まっていた。

 長老も諦めたのか笛を吹かなくなってしまっている。


「ま、緊張するのは敵の前だけでいいよねって思うんぢゃ」

『殆ど私達の話題……というかベティさんの大食いの話題ですわ』

「並だとおもうんですけど! 皆さん食事を摂らなくていい人ばかりだから浮いて見えるだけで……」

「はい。たくさん食べられる体。羨ましい限りです」

『わたくしも別に少食ってわけではないのだけれど』


 自分達の作物を食べてもらうのがとても嬉しいらしく、行軍中でも焼きしいたけが配られた。結局その殆どはベティの胃袋に収まっていった。


 そしてようやく、一行は国境付近に到着した。


『あ、見えてきましたわ……緑の川』


 本当の意味での川などそこには存在しない。

 緑色の残虐な妖精ゴブリン、それの成す群れが作り上げる悪夢のような光景である。


『うーん、でもちょっと減量中?』

「おっ! どれどれ、ボクも見てみたいな」

「前に出ましょうか」


 ノーム達を押し分けて最前列に入ると、確かにこちら側と比べて物足りない数のゴブリン達がいた。


「くくっ。減ってる減ってる! なんでだろうねぇ?」

「ア! アノ肩に乗ってるヤツ……」

「ギャ! 光線野郎ダ……ドウスル?」

「ダ、大丈夫ダ! あんなに小さくなっテル」


 ベティの肩に乗るスライム君を指差してゴブリン達が騒然としていた。


『なんだかずいぶん怖気付いているようですわ』

「これは好機……と見て間違いなさそうぢゃな? よし! では全軍、とつ――」

「お待ちください」


 ライガーが手を挙げて号令を制止する。


「ええ? なんぢゃ?」

「確かに今ぶつかれば勝てるかもしれませんが、この戦争の根本的な解決にはなりません。先ほど許していただいた "交渉" を私にさせていただきたい」


 ライガーが両手を大きく広げてゴブリン達の前へと一歩踏み出した。

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