第二層へ
『まだ寄り道しますの~?』
地下二層を目指していた一行であったが、道中でしいたけが群生している部屋を見つけたので、ベティの提案でしいたけ採集を行なっている。
「急ぎたいのは山々だけど、私たちの食料も集められる時に集めておかないと。さっさと進んだ先で皆で残り少ない食料を見て後悔……なんてのは最悪です」
虹色のベティはすぐ下の第二層に解呪の手がかりがあることを聞いて、少し冷静さを取り戻していた。
「ボクはしいたけはもう食べ飽きたから要らないけど、ロザリーってその辺どうなってるの?」
『さっきはぺこぺこでしたけど、ライガーがご飯を食べたらわたくしもお腹いっぱいになりましたわ』
<私も周囲のマナを時折つまみ食いしていますので大丈夫です。>
「じゃあ結局、ライガーさんと私の二人ぶんの食料で済むんですね!」
そう言いながらもしいたけを摘む手を緩めないベティ。
あっという間に部屋中のしいたけが袋に詰め込まれてしまった。
「ちょっと採りすぎたかも……」
「私が持ちます。あといくつかこの部屋に残しておきましょう。またお世話になるかもしれません」
ライガーは殆ど自分と同じくらいの大きさになった大袋を背負う。
「ボクと交互に持とうよ、先生」
「では私が倒れて動けなくなったら頼むよ」
『それでは遅いですわ……』
賑やかに道を進む一行は、この薄暗いダンジョンにあっても確かな心強さを感じていた。
「あっ、そこ誰かが仕掛けた罠。危ないよ」
『え?』
かちっ、と音が鳴ると何処からともなくタライが飛んできてベティに直撃する。
「ぎゃー!? なんで私がー! というかロザリーさん浮いてるならわざわざ罠を踏み抜かないで下さい!」
『お、おほほ。ごめんあそばせ』
<ヒロイン適正ですね。>
ロザリーは内心、戦慄していた。この娘は今までどんな人生を送ってきたのだろう。そしてこの先どんな運命が待ち受けているのだろう、と。
「おーあったあった。二層に続く階段だよ」
先頭を歩いていたスライム君が指をさす。
暗くてほとんど見えなかったが、ロザリーが先行して辺りを照らすとしっかりとした石造りの階段が見えてきた。
「では早速! ……念のため私はちょっと後ろからついていきますね」
階段は綺麗なもので、足場が悪くなっていたり滑りやすくなっている様子はなかった。
一段一段が人間が降りるための均一の歩幅で出来ていて、かなり人工的な設計を感じさせる作りである。
「このダンジョンは一体誰が作ったのでしょうか」
「さあ。ボクは一層から動いたことが無かったからその辺はさっぱりだよ」
<私のデータベースにも情報はありません。>
階段はまだまだ続く。
『……そういえば。ちょっと話が変わりますけれど、スライム君とスマ本は知り合いではないの?』
「ううん? さっき会ったばっかりだよ。 なんで?」
『虹色の宝箱にスマ本がありましたのよ。宝箱はスライム君の置いていったものと聞きましたわ』
「ああ。確かに宝箱を置いていったけど、あれはおやつを食べてる内に長い年月をかけて身体に溜まっていった排泄……副産物だよ。中身がどうなってるのかは分からなかったんだ」
「ライガーさんが勝ったのでご褒美みたいなものだと思って持ち帰ったのですが……こんな罠があるなんて」
『最後っ屁ってやつかしら! 排泄物だけに』
「ひ、ひどい……」
「ふふ。仲良しで結構」
ライガーはロザリーとベティを見比べると、ニッコリと笑った。
「お、階段おわり〜」
スライム君は一段飛ばしでぴょんぴょんと階段を下り、続けてロザリー、ライガー、ベティが第二層へと到着する。
『まだ火の新しい松明がありますわ』
階段を降りてすぐの部屋は明るく、壁には松明がかけられていた。
「でもこの松明、妙に低くないですか」
周囲の松明はちょうどベティの腹ほどの位置にかけられている。
「子供サイズだねぇ」
『とにかく、最近まで人がいたという事ですわ。スマ本さん、何か反応はありまして?』
<半径二十メートル以内に生体反応はありません。常に監視は続けていますので、先を進んでみましょう。>
今度はスマ本を抱えたロザリーが先頭を行く事になった。
通路はやや狭く、人が三人並ぶと肩が壁に当たってしまう程度になっている。そういう理由で、一行は自然と一列になって歩くようになっていた。
途中の別れ道でライガーが二手に分かれる提案をするが、当然のごとくそれは却下された。
<生体反応あり。ゴブリンです。>
『話し声が聞こえてきましたわ!』
二人がほぼ同時に反応を示す。
「ゴブリン! あの邪悪なゴブリンですか!?」
<はい。三匹……五匹……。どんどん情報が更新されています。>
「ちょっとこの辺で止まりましょう。相手は人間の敵です。危険ですよ」
ベティはトーンを落としたヒソヒソ声になり、スライム君の腕をぐいぐいと引っ張った。
「ん?ああ、分かったよ。作戦会議だね」
スライム君が前を歩くライガーの腕を引っ張る。
「む。了解」
ライガーは前方の丸い人魂を見て考える。引っ張れる場所はどこなのか。
うさぎのような長い耳を観察する。昔、猫の耳を触ったらかなり痛い方の猫パンチをもらった記憶が蘇った。却下。
尻尾もいけない気がする。でも先端は右手の形状をしているから……と視線を移したところで選択肢は無くなった。右手はスマ本を持っているのだ。
ならば直接胴体を引っ張るのか。そうなると摘むような形をとってしまう、これは最悪だ。
ライガーは高速で考える。
なぜなら早くしないとロザリーだけが先に行ってしまうからだ。そうなるとゴブリン達に見つかった場合、悲惨な結果が待っている。
「やむなし」
『ふぎゃー!?』
結局、尻尾の付け根を引っ張った。
「すみません。ベティさんからの伝言で」
「えっ!」
『全部しっかり聞こえてましたわ! だから止まるつもりだったのに……この泥棒猫! 間女! 八方美人!』
「ええー! そんな風に思ってたんですか! ひどいです……ぐすっ」
『それよ! 何が ぐすっ ですか。全然泣いてないではないの! あのダメ王子こんな娘にひっかかって……』
「ふぇえ~。つらいよ~~。虹色になるしロザリーさんは私にタライぶつけてくるし」
ライガーは二人のやり取りを見てにっこりと笑った。
彼の頭の中では有名なことわざが浮かび上がっていたからだ。
『……やめましょう』
「……は、はい」
ライガーの満面の笑みを見て、ピタッと静かになるロザリーとベティ。
バツが悪いというよりも、気味が悪いという意味で二人の気持ちは通じ合っていた。
「ケケケ! 声が聞こえたぞ! ノームの迷子か? 八つ裂きだ!」
「ケケケー!」
今度はその場にいる誰もが聞こえる声が聞こえた。
<ゴブリン個体数増員中。七……八……。>
『あああ! ばれてしまったではないの!』
「あはははは! お姉さんたちやっぱり面白いね。ボクはいつでも戦えるよ」
「いたしかたなし!」
「ああえらいこっちゃ! えらいこっちゃ!」
<ゴブリンの平均的な能力値を読み上げます。>
*ゴブリン*
筋肉:C
体力:C
知能:F
運命:F
【チームワーク】【妖精】【残虐】




