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絶滅危惧種少女群  作者: 色派にほ
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第1章 蛯名いずほ ⑦

 冬は日没時間が本当に早い。まだ夕方の4時過ぎだというのに、空はオレンジ色で東側にはもう一番星が輝いている。

 無料で開放された企業ビルの最上階にある展望台からは、都心方面にあるビル街も反対側にある高尾山もオレンジ一色に彩られている。

「夕日きれいだね、俺こんなきれいな場所あるって知らなかったわ」

「でしょ?東京にいると山が見えないから、実家の山思い出して時々恋しくなってここに来るんだ」

「確かに、東京って本当に平坦だよな。遠くをみてもビルしかみえないし。なんか窮屈になる」

「……ねえ、伊達くんは私の誕生日知ってる?」

「え?ごめん知らない」

「12月12日」

「え、それって!」

 彼は目を丸くして驚く姿に私は目を細くする。あの頃と一緒だ。

「そうだね、伊達くんの誕生日の1日前」

「すげえ!ってか、俺の誕生日覚えてくれてたんだ〜」

「……4回目」

「え?」

「この会話、4回目」

「え?どういうこと?」

「伊達くん覚えてない?私と誕生日1日違いだねって会話、小学校の時も中学校の時も、高校の時もした」

 正確には、小学6年生の時の誕生日会の時、中学2年生の体育祭の片付けの時、高校2年生の健康診断の時。同じ会話をして、あなたは同じように目を丸くしてはじめてききました!とばかりのリアクションをした。

「ごめん……全く覚えてない」

「伊達くんってさ、私のこと興味ない?」

「え?なんで?」

「小学校の時さ、リコーダーのテストで私の2人、居残りした時あったでしょ?」

「ああ!うん、それ覚えてる!俺、前日に練習するために持って帰って、テスト当日に忘れちゃってさ〜」

「そう、それ。私も同じように、家に練習するために持って帰って忘れちゃったの」

「本当!?そうだったけ?」

「いや、同じクラスだったし、忘れた理由聞かれた時、私も同じように答えて、次の日の放課後居残りテストした」

「まじか、俺、忘れてたみたい……ごめん」

「思い出せない?川場先生が職員会議中に居眠りしてるのを2人で教室から見たの」

「川場居眠りしてたんだ。ダメじゃん。あ、ごめん、あんまり俺、覚えるの得意じゃなくて」

 やっぱり、リコーダーの居残りの時、放課後教室で私も忘れた事実を同じ授業を受けたのに気づいていなかった。誕生日だって私はこんなに覚えているのに、あなたは悪気なくすっかり忘れていた。悪気が全くないのが辛い。でも、これが現実だということをぐっとこらえて口を開く。

「まあ、仕方ないよ。自分に興味ないものを覚えるの難しいもんね。私も人の誕生日覚えるのは得意なんだけど、英単語は何度やっても覚えられなく__」

「興味がないわけじゃない!」

 彼は私の腕をぐっと掴み、吐息が聞こえるぐらいの距離まで引き寄せる。

「海老さんのルーツが秋田県にあるとか、チーズが嫌いだったとか、俺はじめて知った。知ったから、もう忘れない。絶対に忘れない」

「でも忘れちゃうでしょ?いつもみたいに」

「いいや。だって、俺、今日めっちゃ楽しかったもん。ピザ、いつもあそこで食べるけど、いつもより美味しかったもん。これからだって、チーズみるたびに、君のバカみたいなエピソード思い出して笑っちゃう。誕生日だって、カレンダーをみるたびに前日は君の誕生日だって思い出す」

「でも誕生日忘れてたでしょ?」

「それは過去のことだろ?俺はそのころは、正直興味なかった。ただのクラスメイトだった。だから忘れてしまった。覚えていなかった。けど、今は違う。こうやって話を共有して、クラスメイトじゃない、蛯名いずほっていう人間を知った。まだ知らない君を知りたいと思った。過去のことじゃない、これから、君のことを知りたいんだ」

 私はもしかしたら過去のことに捉われすぎていたのかもしれない。あのころの気持ちが恋だったのか好きだったのかって。過去の感情は結局、記憶にしか残っていなくて、自分の捉え方でいい思い出にも悪い思い出にも変えることができる。そんな不確かな事実に捉われて、私は今の自分の気持ちを置いてけぼりにしていたのかもしれない。今のこの感情から逃げてしまったら、私はまたこの先この感情はなんだったのかについて考え、後ろしか見ることができない時間を過ごしてしまう。前を向いて、進まなきゃ。

「私ね、伊達くん」

 今の精一杯の感情をぶつけるよ。

「私、伊達くんと友達になりたい……」

「うん、俺、はじめてだからわからないけど喜んで!」

「……」

「……」

「ん?」

「え?」

 無言で見つめ合う時間が流れる。

「ええ、っと、蛯名さん。僕と友達になりたい?」

 かすれた声で彼が聞いてきた。彼の反応と先ほどの言動を遡り、はっとした。

「え、もしかして告白かと思った?」

「思うもなにも、だってこんな場所で改まって話すから、それしかないかと思ったじゃん。もう期待させんなよ〜」

 彼は恥ずかしいと顔を真っ赤にして手で顔を隠す。

「俺、なんとなくそうかもしれないって朝からずっと期待してたんだぞ……」

 確かに突然、元同級生の女の子がSNSで近づいてきた。それで二人きりでご飯を食べて、いい感じのカップルスポットにきた。そして改めて話し出したら……。

「うわああああ、恥ずかしい」

 自分のやってきた行動を思い返してしゃがみこむ。最初はそういう下心もあってあわよくば付き合えるかなとか考えていたのは自分で、こっちから近づいたくせに、いろいろ考える中で自分は友達として好きだったことに気づいて、自分の思いのたけをぶつけた。なんて自分勝手なんだ、死ぬほど恥ずかしい。

 しゃがみこんだまま彼の顔を見ようと顔をあげると、彼も同じように真っ赤な顔を手から覗かせてぱっちりと目があった。

「なんかこの光景おかしくね?」

「たしかにわたしら何してるんだろ」

 若い男女2人が、展望台の床にしゃがみこんで笑いあっている姿がどんなに滑稽だっただろうか。でも彼と笑っている時間、周囲のことなんてどうでもよくて、ただこの時間が1秒でも長く続きますようにって願ったのは、ここだけの話。


「いいよ」

 帰り道、立川駅の改札前で、雑踏で轟く声や音に紛れて彼の声が私の耳に届く。

「え?」

「俺ら友達からはじめよう」

「うん」

「だからその代わり……」

 声がすっと消えた。横を見ると彼の姿がない。あれ?と後ろを向くと彼が俯いていた。

「伊達くん?」

「今は友達かもしれないけどさ、俺さ、多分、好きに……いや、また遊ぼ。また、とか、いつか、とかじゃなくて、具体的に。来週の週末とか暇?」

 多分彼が考えたいたことはわかった。それは私も同じことを思っていたから。今は友達として好きだし、これからどうなるかわからない。多分、今好きじゃないのは君を知らないから。だから、友達としてまずは君を知ろうと思う。


「あなたたちは恋をまだ知らないんだから恋愛ごっこはやめなさい」


「恋はね、遺伝子の戦争なの。好き!ってただ脳が騙しているわけじゃないの。脳が騙して全身の細胞が遺伝子が好きな人を求め出すの」


 彼女たちの言っていたことは、それぞれ正しい。彼女たちの恋愛観の中では。でもそれが必ずしも私の恋愛の中で正しいかと言われるとそうじゃない。

 感情に言葉をつけて共有するのは間違っているのかもしれない。私は他人の言葉に縛られただけなのだ。どれが恋で、恋愛ごっこだとか、それを決めるのは私だ。

「うん、来週末暇だよ。土曜日とかどう?」


恋がはじまる、気がするの。


第1章 エビちゃんターン終わります〜!

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