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絶滅危惧種少女群  作者: 色派にほ
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第1章 蛯名いずほ ⑥

 他所様からすればこれはデートなのかもしれない。男の子と女の子が休日に2人であって出かけるなんて。でもデートの定義ってなんだろう。よく女の子同士で今日は◯◯ちゃんとショッピングデートだの、姉妹で映画デートだのよく聞く。恋愛的関係ではないにしても同性とどこかへ行くことをデートと呼ぶのだから、デートの定義は大きく誰かと同じ目的地へ向かうことを意味しているのではないだろうか。だから、デート!なんて恋愛的な意味や期待は捉えず。ただ旧友に会うという感覚でいればいいんだと思う。

 期待しちゃだめと思ってもやっぱり彼から誘われたという事実に自惚れている自分がどこかにいる。へへへ、もしかしたら相手も私のことを好きだとか……。にやける。にやけが止まらない、どうしよう、このあがったままの口角。このまま彼が来ちゃったらやばい。

「ひさしぶり!なにしてるの?」

「へ?」

 彼は突然私の視界に現れた。心の準備をしていなかった私は、変な顔で頰をつねっていた。

「懐かしいな、蛯名さん変わらないね!」

 最悪の再会だわ……。

 日曜日の午前11時、立川駅改札前の壁画の前で待ち合わせすることになった。人が溢れていて見つけられるか不安だったが、2、3年前の姿からそこまでお互い変化していなかったこともあり簡単に合流できた。

 彼は髪をさらに明るく染めて、頰まである前髪を上にかきあげている。白いニットに黒いパンツ、ベージュのコートに目印にと赤色のニット帽を被ってきてくれた。

 身長は175㎝くらい、高校の時とそこまで変わらない感じだが、運動をしていないせいか、当時と比べて少し顔がふっくらとしている。

 彼の視線が私の足先から頭まで移動する。大丈夫、横に並んでも浮かないようにシンプルに白黒で統一感を出したトレーナーとスカートを選んだ。目的地は相手任せでどこに行くかわからなかったので、長く歩けるようにスニーカーを履いてきた。なんといってもこれはデートではないので、可愛くみせたいという気持ちがバレないように控えめなコーディネートになっているはずだ。大丈夫。

「なんか制服の蛯名さんしか見てこなかったから私服って新鮮だね」

 彼はふふっと笑って自分の右手につけている腕時計に視線を落とした。

「ちょっと早いけど、ランチにしない?いい店知っているんだ」

 紹介されて連れてこられたのは駅から少し離れたところにあるイタリアンのお店で、ピザが全部500円で食べれて絶品だという。

 店内は20席ほどで、お昼前だというのに満員のお客さんで賑わっていた。10分ほど待ち、2人用の席に案内された。

 ジャズの軽快なリズムが店内を流れていて、おしゃれな雑貨がそれぞれのテーブルに置かれている。

「ここのマルゲリータがおすすめなんだけど、蛯名さん何食べる?」

 メニューには様々なピザのイラストと食材が記載してある。

 選択肢ってあればあるだけ迷ってしまう。悩んでいると彼がふふっと、海老とイカのシーフードピザを指差す。

「エビだって蛯名さん」

「はいはい、エビですね」

「エビですよ、あはは」

 私の目を見て、笑みを浮かべる彼の顔が目の前にあった。ふと当時の彼の面影が重なって顔が熱くなる。けれどあの頃と違ったのは、ただ熱い、ドキドキしている、だけではない、嬉しい、できることなら今、席をたってイエーイと叫びながらスキップしたいぐらいに胸の高鳴りがポジティブな感情にリンクして騒ぐ感じ。

 多分お互いに思っていることは違うだろうけど、顔を見合わせて腹が痛くなるまで笑った。そのあと、彼から勧められたシーフードピザとマルゲリータを頼んだ。

「蛯名さんって苗字どこ生まれなの?やっぱり港の方」

「残念、秋田の山の方」

「え。秋田なの!?遠くない??」

「まあ、お墓があっちにあるだけで、親戚は住んでるけど私は小さいころしか行ったことがないし」

「そーなんだ。ってことは蛯名さんは秋田美人ってことか」

「なにそれ、バカにしてる?」

「なわけ。ほら、綺麗だから」

綺麗、絶対そんなこと思ってないくせに。

「耳赤くなってるよ。可愛い」

「うるさい、可愛いって言わないで」

「可愛いよ、蛯名さんは昔から……」

 彼の声のトーンが低くなり、賑やかなジャズのBGMをすりぬけて私の耳に届く。

「いずほちゃんは可愛い」

「っ、も〜そんな冗談言って。本気にしちゃうんだから。ほら、ピザきたし食べよう?どっちから食べようかな。マルゲリータ?シーフード食べる?ほら、エビだよ、プリプリ〜。知ってる?こーゆープリプリしたエビってね……」

 思ってもないのに口からどんどん言葉が溢れる。溢れる言葉を浴びせられた彼は眉毛をハの字にして白い歯を向けた。

「エビ食べたら共食いになっちゃうよ」

「……いいもん、私人間だから」

 そう言ってマルゲリータを切り取り、自分の口に頬張る。チーズとピーマンが絡み合ってとても美味しい。

「私ね、チーズ嫌いでさ」

「え!?ごめん、じゃあピザ食べれなかったよね、なんかチーズないもの頼もっか、ごめんね!!」

「いや、違うの!昔の話!!」

「昔か。なんだ。びっくりした」

「ごめん、勘違いする言い方しちゃった。今は大好きだよ。小さいころさ、大好きだった食べ物を掛け合わせれば美味しいっていう謎の発想があって。それで、そのころ大好きだった、ウインナーとチョコレートとチーズをお皿で混ぜて食べたらトラウマ級にまずくて」

「え、それ絶対まずい」

「それから中学校に上がるまで、ウインナーもチョコレートもチーズも食べれなくてさ、でもまあ単独だと美味いっていうことに気づいて平気になったけど」

「いや、嫌いになる理由が面白すぎ」

「自分でもあのころはバカだったな〜って思うよ」

 あのころの話、やはり地元が一緒だということで話題がつきない。小さいころの話から最近あの人どうしてるかなんて話を色々報告しあった。

「そういえば、話変わるけど、小学校の川場覚えてる?」

「川場先生のこと?」

「そうそう、よく休み時間とかテストの時間とか居眠りしていた川場」

 小学校のころ、職員会議で居眠りをしていた川場先生だ。

「川場先生がどうしたの?」

「あいつ教え子と結婚したらしいよ」

「え。川場先生が?」

「そうそう。相手は俺らの3つぐらい年上の先輩、同窓会で再会して恋愛に発展したとかで」

「へー川場先生、若いのゲットしてよかったね」

「俺、あいつのこと思い出したわ。高校の時の蛯名さんのクラスの学級委員長の子。えっと名前なんだっけ?」

「あーあ、松前さんのこと?」

 高校生の時に妻子ある教師に恋して、結婚まで至ったという、うちの高校じゃ知らない人はいない有名人、松前さん。

「そうそう。あん時はびっくりしたわ。まさか、先生と結婚するなんて」

「確かに。先生、結婚して子どもさんもいたのにね」

「それな。まあこっちはとんだ迷惑だったよな」

「迷惑って私たちなにも影響されてなくない?」

「いやいや、結構影響受けてるって。ほら、同窓会の案内きてないだろ?」

「ああ、確かに」

 そういえば、2ヶ月後の新年明けてすぐにうちの地元で成人式がある。例年通りであれば、そのあと同窓会があるのだが、実家から案内が来たという連絡がない。そもそも同窓会というものを経験したことがないから、いつ頃案内が来るのかいまいちピンときていなかった。

「同窓会の幹事が松前さんらしくて。そんで学校側と上手く連絡取れなかったとかなんとかで、まだ進んでないって話」

「あれ、幹事って一人だっけ?」

「まあ、俺らのとこ田舎だから一人で十分なんじゃね?詳しくは知らないけど、あんまり先生たちの関わりたくないんだろうな」

 眉間に皺を寄せて嫌だな〜とつぶやく。

「そんなものなのかな。松前さん、なんか悪者みたいで可哀想」

「可哀想って、蛯名さん優しいな」

 私が反論すると彼は慌てて、自分の言ったことをかき消すように優しいと煽てる。私が欲しかった言葉はそれじゃない。松前さんだけを悪者にして自分の好感度をあげることにいい気はしない。むしろなんで彼女の気持ちも考えず、非難の言葉をぶつけられるのかわからない。でも私は彼女の気持ちを分かれるかと言ったら違う気がする。

「優しくなんてないよ」

 むしろ私の方が非難する人たちよりひどいのかもしれない。なにも彼女の気持ちがわからないくせに、分かったような口で擁護するなんて。それこそ私は……。

「私は偽善者だよ」

 彼女の言っていた、脳が騙して全身の細胞が遺伝子が好きな人を求め出す感覚が分からない。どんな障害物があっても恋を押し通したくなる気持ちが分からない。確かに彼と一緒にいる時間はドキドキするし、鼓動が早くなる。でも、なにがどこが好きなのかと聞かれたら答えられない。今だって目の前にいるのに、好きか?って聞かれたら、正直分からない。周囲の雰囲気に飲まれて、恋という言葉に酔っていただけなのだ。だから、可愛いって言われた時逃げてしまった。本当は最初から分かっていたくせに。

「蛯名さん?」

「ごめん、私……」

 恋じゃない。これは恋じゃない。好きだけど、これ以上キスしたいかと言われたらどうもピンとこない。確かに一緒に隣で話していて楽しい。でもそれは彼だけじゃない。はるちゃんたちとも同じ感情の好きだ。ドキドキする。それは、私が単に人見知りなだけで、ただの緊張だったんだ。

「どうした?」

 突然立ち上がった私の手を彼が掴む。鼓動が早くなる。それは物理的に近づいたから。だからドキドキしているだけ。

「ご飯食べたし、いい時間だから外に出ない?行きたい場所があるの」

 空になった皿に残る食べカスがやたら私の瞳に焼きついた。

 時計は午後3時30分を指している。


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