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絶滅危惧種少女群  作者: 色派にほ
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第1章 蛯名いずほ ⑤

「そうか。これは恋だったのか」

 はるちゃんたちと別れた後、私は一人月に照らされた道を歩く。息をはくと、白い煙がふんわりと夜空に溶けていく。

 澄んだ夜空にはオリオン座が鮮明に輝いている。

 これが好きだということなのか。実感があまり湧かない。大体、感情に名前をつけること自体難しいことなのだから、これを恋だと認識していいのかわからない。

 でも仮にこれが恋だとしたらなんだ?この先にあるものはなんだろう。

 付き合いたい?独り占めしたい?キスしたい?セックスしたい?

「……?」

 自分と彼が、その恋の先にある行為をしている姿を想像してみた。しかし全くビジョンが湧かない。感情が何一つ生まれないというか、関心がないというか。

 不思議なことだ。彼を見ると身体の制御が保たれないというのに、その映像に自分を入れ込むとなんとも思わなくなってしまうのだ。

 この現象は一体なんだろう。

 私はネットでこの現象と似たような記事がないか調べてみた。検索欄には自分の求めているような記事は出てこない。恋のメカニズムがどうたら、片思いは自分の作り上げた幻想で、理想を相手に押し付けているなど。

 コラムなんかみても正直、主張していることはそれぞれで、どれもが正しく見えるし、間違っても見える。やはり恋愛を全て文章で知ろうとするのは難しい。自分で体験して学ぶしかないのかなって思う。

「そうか、これが恋か体験しなくちゃわかんないか」

 ポケットからスマホを取り出し、検索欄に彼の名前を打った。

 ここで過去の出来事を断定していたってなにも始まらない。かといって、さあ新しく恋愛しましょうだなんてはじめても、恋がなんなのかわかっていないからはじめるにもはじめられない。

 だから一度、大きくなった彼を見てみようと思う。そして見た時に生まれる感情を、もう一度体験しよう。

 まずはFacebookで検索をかけてみたが、全国の同姓同名のダテユウイチさんがたくさんヒットしてしまった。そもそも、登録段階で、漢字の他にローマ字で登録している人もいて、私の求めているダテユウイチさんがどれかわからず断念した。

 次にTwitterで探してみた。自分の登録しているアカウントで繋がっている地元の友達のアカウントから、彼の名前が友達欄にいないかしらみつぶしで探す。本名でやっている可能性が低いので、苗字や下の名前、高校時代に言われていたニックネームに近しい名前のアカウントを手当たり次第、紹介文やつぶやいていることを確認する。

 狙い通りそれらしきアカウントはすぐに見つかった。

 遊一という名前で、丁寧に出身校、大学名、誕生日まで書いてあった。

 タップして現在の姿を見ようとしたのだが、鍵がかかって紹介文しか見ることができなかった。

「鍵かかってたら見れないじゃん……」

 ため息をついて立ち止まると自宅マンションの前にいた。一旦、スマホの画面を閉じカバンにしまう。ポケットから鍵を取り出し、オートロックを解除してエントランスに入った。エレベーターに乗り、5階でおりて自分の部屋に入った。靴を脱ぎ捨てそのままベッドにダイブして、再びカバンからスマホを取り出して、彼のアカウントを開く。

 地元の同級生が突然、フォローをしてくるなぞ不自然な感じはするが、ここからしか前に進めないので、勢いに身を任せて友達追加ボタンを押した。


 翌日、目を覚ますと携帯に彼から友達認証許可の通知が来ていた。

 私は飛び起き、高鳴る心臓の音を落ち着かせようと深呼吸しながらアプリを開く。

 昨日とは違い彼のつぶやきが画面上に広がっていた。画面をスクロールしながら、現在の彼の生活が映し出されている。居酒屋でサークルの友達と飲んでいるご飯や飲み物の写真、旅行で行った箱根の景色、自分で作った手料理なんかも載せていた。

「え、嘘!」

写真に気を取られていて気づかなかったのだが、ダイレクトメールの欄に1件表示されていた。しかも彼から。

『蛯名さん、ひさしぶり(^^)フォローありがとう!』

 震えた、全身が。足の指先からあの頃に感じた熱が再び全身を駆け巡る。

『こちらこそ、おひさしぶりです。蛯名です。よろしくお願いいたします。』

なんて堅苦しい返信だろうと思ったが、突然の出来事に頭が混乱して、もっと話を続けられるようなフレンドリーな返信を考えることができず、これが私の精一杯だった。

 あとから見返して、もっとこうすればよかったなと思いながら昼ご飯の支度をしていると、携帯から通知音がした。

『タメ口でいいよ(^^)

 蛯名さんのアカウントみたんだけど東京住んでるらしいね、俺も東京なんだ!どこらへん住んでるの?』

 驚いたどころの話じゃない。よろしくね、で終わる会話をあっちが続けてきた。それがどういう意味を含んでいるのかわからないけれど、少なくとも自分に興味を持ち、話してくれていることが嬉しかった。期待しちゃいけないと思いつつ会話を続ける。

『立川に住んでるの。A女子大に通ってる』

『マジで!!近くじゃん!俺、国分寺住みで、S大だよ〜(^O^)』

『近いね、でもS大だったら都心のキャンパスなんじゃないの?』

『俺、農学部でキャンパスこっちにあるんだよ』

 高校を卒業するころ、廊下に進学先の合格者欄に名前が載るので彼がどこに行くか知っていた。同じ東京だなとは思っていたけれど、まさかこんなに近くにいるとは思わなかった。

『蛯名さんがよければなんだけど、会わない?』

「え!!???嘘でしょ?」

 彼から週末に会わないか?というお誘いがきた。いや、そりゃあ行くでしょ。すぐに「行きます!」と返信をした。

 そのあとLINEではるちゃん、ハマ子、平っちの4人のグループに「彼と週末に会うことになった」と報告した。


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