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異能に挑む剛腕拳士  作者: 英国紳士
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第三話 初戦

「なんで俺がこの男とSFをやらなきゃいけないんですか監督!!?」

「簡単な事さ、こいつがSFをやるに足る素材なのかを確かめるだけだよ」


 鬼瓦が振り返り、抗議の声をあげる釜野を横目で見ながら真剣な顔つきになる。


「もし、本当に異能が使えないなら私もSFをやることは推奨できない。リザレクションカプセルのおかげで大抵の怪我はすぐに治療できるとは言え、それでもカバーできない程の取り返しのつかない大怪我を負って、死んでしまうなんて事もよくある」

「え、えぇ。プロでは毎年何人か死んでますね……」

「だから確かめるんだ、本当に異能が使えないのかどうかをな……」


 鬼瓦の目線が一翔に向く。冷たい眼光が一翔を突き刺し、続けざまに低い声で言葉を発する。


「異能が使えないというのがただの嘘だったならそれでよし。下らんジョークだったと流してやる。だが、もし本当に異能を使えず、そして釜野にも勝てなければお前の入部は拒否させてもらう」

「……へぇ」

「私は見込みがない奴は容赦なく切り捨てる主義だ。SFなんて危険な競技、下手にやろうとすれば取り返しがつかないことになる。生徒を指導する監督として、そんな目に合わせるくらいなら私は最初からやらせない」

「だから、見込みがあることを証明しろってことっすか」

「そういうわけだ。勝てば入部を認めるが、負けたら入部を認めない。どうだ?」

「……俺はいいっすよ。俺が嘘ついてないって分からせるには手っ取り早いしな。異能使えないってことも、十分戦えるってことも」

「釜野、そういう訳だ。お前もそれでいいな?」

「……わかりました」


 不満はありそうだったが、釜野は了承する。


「それじゃぁ30分後に第一ステージに上がれ。分かったらさっさと準備運動を始めろ!!」


 釜野と一翔はお互いの顔を一度睨む。そのまま踵を返してお互いの反対方向に歩き出す。


「あ、ちょ……待ってよぉ!!!」


 取り残された結瑚はなんとなく一翔の方に走ってついていった。





 脱ぎ捨てられた制服の上着が置かれた部室の片隅。

 遠くからひそひそと内緒話をしている部員達に見られながら、一翔は柔軟運動に勤しむ。


「ねぇ……よかったの? あんな勝負を受けちゃって」


 目を閉じて黙々と体を動かしてる一翔の耳に結瑚の心配そうな声が入る。


「仕方ないんじゃねぇの? 鬼瓦先生が言ってる事は最もだ。見込みが無いならやめた方がいいって言われるのは当たり前だろ」

「そう思うなら、なんでSFをやろうだなんて……あっ! やっぱり異能が使えないってのは嘘―――」

「嘘じゃねぇよ、マジで使えねぇ」


 言い切る前に一翔に否定された結瑚は眉間にシワを寄せて声を荒げる。


「じゃ、じゃぁなんでSFをやろうとしてるの!? 自分で見込みが無いって分かってるんでしょ!?」


 結瑚は一翔の言ってることは矛盾してる様に感じた。もし、本当に異能が使えないならSFでは致命的な欠点になる。だから勝てなければ見込み無しと言う鬼瓦先生の理屈に異議を唱えるつもりはないのに、それでもSFをやりたいと言っている。

 なぜそこまでSFに拘るのか、結瑚にはとても理解できなかった。


「なんでって言われてもなぁ……たまたまだよ」


 一翔はストレッチを一通り終えて、右手を見つめてから拳を握る。


「ガキの頃にさ、SFの王者決定戦のテレビ中継を見たんだよ。その試合でさ、なんていうかこう……ぐっと来ちまったんだ」


 一翔の脳裏にその試合の光景が浮かび上がる。もう何年も前の事だったが、今でも鮮明に思い出すことが出来た。


「俺もあの場所で戦いてぇ……世界中が注目するような舞台で、俺の存在を知らしめたい! そう思っちまった……ただ、それだけなんだよ」

「それなら、別にSFじゃなくてもいいじゃんか。SF以外の格闘技でも……」

「まぁな、よく言われるよ。けど、SFを見ちまった。だから、SFがいいんだよ。それによぉ―――」


 一翔はカッターシャツのボタンに手をかけて、一つ一つ外していく。全てのボタンを外し終え、肌着Tシャツと共に脱ぎ捨てると、結瑚を含めた一翔を見ていた全ての人間が驚きの声を発した。


「うわ……! すごい、体ムッキムキ……」


 厚く盛り上がった胸板、まるで鋼鉄を思わせるようなバキバキに割れた腹筋、丸太のように太い首に広い肩幅、結瑚の足程はあろうかという太い腕。邨上一翔の体を構成する全てが、徹底的に鍛え上げられていた。

 結瑚はつい一翔を見る男子部員達の体に目をやり、彼らと一翔の鍛え具合を比べる。彼らの体もよく鍛えられていた。一翔の体を見る前なら鍛え具合に結瑚は感服してただろう。けれど、一翔の肉体をみると細く鍛錬不足に見えてしまった。


「―――向いてないからこそ、挑戦したくなっちまったんだ。仕方ないだろ!!」


 約束の三十分が経ち、一翔はステージに向けて真っすぐ歩き出す。途中で進路を塞いで立っている部員たちは一翔の肉体を見ると慌てて道を開けた。





 先に着替えと準備を済ませてステージに上がっていた釜野は、上から見下ろす形でステージへと続く階段を上る一翔を見つめる。


「ほぉ……凄まじい肉体だね。一体どんな鍛え方したらそんな体になるんだい?」

「いいだろー? 俺には自慢できるものが二つしかなくってさ、コイツはその一つなんだよ」


 自信満々な表情で一翔は胸に指をあてる。


「よし。二人とも魂刃を出せ!!!」


 階段を上りきり、釜野が立つステージ中央にまで一翔が来たところで、ステージ外から二人を見る鬼瓦の声が響く。その声を聞いた釜野は頷き、大きく息を吸って叫ぶ。


「現れろ、天通牙てんつうがっ!!!」


 釜野の前の空間に、光に包まれた小さな穴が現れる。釜野はその穴に手を入れ、引き抜く。その手には、金で装飾をされた灰色のレイピアが握られていた。


「それが先輩の魂刃っすか」

「あぁそうだ。さぁ、君も出しなよ……君の魂刃をっ!」


 鞘から抜かれた天通牙の鈍い光を放つ刃が一翔に向けられる。釜野の誘いに乗って、一翔も一度軽く笑うと、息を吸い込み叫び声をあげる。


「暴れるぞ、白銀しろがねっ!!!」


 釜野の時と違い、一翔の左右の空間に光に包まれた小さな穴が一つずつ現れる。一翔は左右の穴に自分の腕を交差させて肘の辺りまで突き刺す。一瞬の停止、その直後に両腕は引き抜かれた。その両手には指先から肘の辺りまでを包む、白く……そして鋭く輝く手甲が着けられていた。


「それでは始めるぞ。相手を戦闘不能にさせるか、ギブアップをさせた方が勝ちだ! いいな!?」

「えぇ!!」

「あいよ!!」


 二人は10mほどの距離を空け、戦闘の構えをとる。


「ソウルファイト、レディ………ゴーッ!!!」


 鬼瓦の声と共に、部室に試合開始のブザーが鳴った。

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