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異能に挑む剛腕拳士  作者: 英国紳士
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第二話 無能

「「わぁお……!!」」


 部室の中に入った途端、一翔と結瑚は驚きの声をあげた。

県内一の強豪とだけあって、充実した設備が整ったところだとは思っていた。だが、蓋を開けてみたらそれは二人の想像を遥かに超えていた。

 学校の運動場の半分程はある広い空間、やや小さめではあるが複数のステージが置かれ、そこら中に大小さまざま練習器具が置かれていた。

 当然、その中にはとてつもない数の少年少女が汗を流し、練習に明け暮れていた。


「ね、ねぇ見てよ! あれ、リザレクションカプセルじゃない!?」


 一翔の制服の袖を引っ張りながら、結瑚が人がすっぽり入りそうなほど大きさの機械を指差した。

その機械は3つ横並びに置かれている。


「うおっ! マジだ! すっげぇ! あれ、一台で一体おいくら万円だ?」

「リザレクションカプセルが近くに無い所ではSFを行うことは禁止されてるとは言え。すごい……」」


 リザレクションカプセル――――

腕や足がもげようと、内臓が破裂し無くなろうとカプセルの中に入れば再生させてしまう医療機器である。


「待てよ? あれがあるってことは……」


 一翔はステージの方に注目する、その中の一つで二人の男が武器を持ち決闘を行っていた。

 お互いに血を流し、痛々しい様になっても戦いをやめず。まるで殺し合いでもしてるかのような真剣な眼差しで勝負していた。


「やっぱり! ここならガチンコでSFをやってもいいのか!!?」


 一翔の驚き振りが面白かったのか、鬼瓦が自慢げに口を開く。


「あぁ、他所の学校じゃリザレクションカプセルが無いから、魂刃ソウルを使っての対人練習ができないところが少なくない。だが、ウチじゃ思いっきりやり放題だ」


 魂刃ソウル――――

 人間なら誰もがその身に宿している異能を持った武器の事である。武器の形状も、どのような異能を持っているかも十人十色で、様々な物があった。

 中には人間を容易く殺せる物も確認されており、人間社会で魂刃を使って人を傷つけることは固く禁じられている。

 だが、魂刃を使うことを許された競技が一つだけあった。魂刃を使った何でもありの格闘競技―――それがソウルファイトである。


「いいねいいねぇ……俺もあそこに立って、暴れてぇ!!」


 目の前に広がってる光景を見て、一翔は興奮せずにはいられない。今すぐにでも体を動かしたくて体の奥底からうずうずする。その衝動を抑えきれなかった。


「鬼瓦先生、俺、すぐにでもここに入部したいっすよ。ここでSFをやりてぇっす!!」

「威勢がいいね、まぁ気持ちは分かるよ。なんせ、ここには最強を目指して眼ぇギラギラさせてる奴らばっかだ。そんな連中を見て燃えなきゃ嘘ってもんだ」


 最強……その言葉を聞いた一翔の中に一つ疑問が湧いた。

 ここに居る者は最強の座が欲しくて力を競い合っている。じゃぁ、今の自分の力はそんな人達はどれだけ通じるのだろうか?知りたい、確かめたい……ここで自分の力を試したい。

 仮入部期間に入るまでこの衝動を我慢しなければいけない。そんなのまるで生殺しだ。思わず一翔は歯ぎしりをしてしまう。


「おっ! 監督、その二人は入部希望?」


 三人の傍に一人の男が寄ってきた。見た目からして教員ではなく生徒……2年生、もしくは3年生の先輩だ。


「釜野か……あぁそうだ。仮入部が始まる前からウチを見たくてやってきたらしくてな」

「へぇ、そうなんですか。ようこそお二人さん、我が天峰学園SF部へ。僕は二年の釜野誠二かまの せいじだ。」


 釜野は二人に微笑みかける。先輩に声を掛けられて緊張したのか、結瑚は少し上ずった声で答える。


「は、初めまして先輩! 一年の我妻です! SF部に入部させてもらうつもりでこの学園に来ました! にゅ、入部したらよろしくお願いします!」

「うん、よろしくね我妻さん。でも、そんなに緊張しなくていいんだよ。リラックスリラックス」

「は、はい!!」


 緊張しなくてもいいと言われても結瑚の様子は全く変わらない。それとはまるで対照的に一翔が緊張の様子を見せずに続く。


「一年の邨上っす。よろしく頼んます先輩。入部したらまずはここの最強目指します」

「ははっ、よろしく新入生。君は目標が高いね、いい事だ……ところで、君たちの魂刃はどんな能力何だい?」

「俺の魂刃の能力ですか? んー……」


 一翔は突然黙り込む。結瑚は一翔が言ってから自分の魂刃の能力を言うつもりだったが、何か言いづらいことがあるのなら先に自分が言ってしまおうと口を開く。


「えっと、あたしの魂刃は―――」

「なんもないっす、能力なんて」


 結瑚が言い切る前に一翔が答えてしまった。そして、それはその場に居た一翔以外の三人には全く予想していない答えだった。


 しばらくの間、4人の中に沈黙が走る。


「……今、なんて?」


 聞き間違いだったかもしれないと結瑚が沈黙を破って聞き返す。その問いに一翔は何食わぬ顔で答える。


「だから、俺の魂刃は能力ないんだって。ほんとに、なーんも無いのよ」


 一翔はまるで当たり前のように無表情でいるが、他の三人は「冗談だろ?」と言いたげに目を見開いて驚いていた。


 4人の間にしばらく沈黙が続く。一翔以外の三人が驚きの表情を見せたままで、結瑚がやっとの思いで口を開く。


「な、何もないって……冗談だよね?」

「いや、マジなんだなこれが」


 一翔は眉一つ動かすことなくさらりと答える。一翔にとって皆のこの反応は珍しくもなんともない、いつもの事だった。


「だ、だってさ! どんな異能を持ってるか、その異能がどれだけ強力かは人それぞれだけどさ! どんな人でも魂刃には何かしらの異能が備わってるんだよ!?」


 結瑚の表情がどんどんと動揺したそれに変わっていく。それも一翔にとっては見慣れた表情だった。

 一翔の魂刃の事を聞いた人は、決まって三種類の反応をする。1つ目は結瑚の様に動揺する。

 仕方ないことだ。異能が備わっていない魂刃を持つ人間なんて、一翔も自分以外に見た事も聞いた事もない。他人とってはそんな人が居るだなんて考えたこともないだろう。


「面白い冗談だな。で、本当は何なんだ?」


 歌恋は腕を組んで一翔に問い直す。これが2つ目の反応だ。

 一翔の言うことを信じず、笑いをとるための冗談か自分の異能を隠すための嘘だと思う。これも一つ目の反応と同じで、仕方のない反応だろうと一翔は割り切ってる。

 とはいえ、自分の言うことを信じてもらえないのはやはりあまり気分がいいものじゃない。一翔は困った顔をして頭を掻く。


「いや、だからほんとなんですって。中学じゃそれが理由で《無能》なんてあだ名付けられてましたから―――」

「ぷっ……くくっ……」


 釜野から笑い声が微かに聞こえた。一翔は言葉を止め、結瑚と鬼瓦を含めた三人が釜野に注目する。

 釜野は口を手で押さえ、肩を震わせていた。笑いをこらえるつもりだったのだろうが、こらえきれずに漏れてしまった様だ。


「ご、ごめん……異能を持っていないだなんて信じられないけどさ。もしそれが本当なら……くくくっ! そんな人がSFをやろうっていうのかい?」

「あぁ、やるつもりっすよ。先輩」

「ははははは!!! そりゃ命知らずってもんだよ後輩!! あははははは!!!」


 我慢の糸が切れたのか。今度は腹を抱えながら、大声で釜野が笑った。それが一翔の知ってる3つ目の反応だった。


「釜野ッ! 笑ってんじゃないよ!!」


 釜野の笑い声が癇に障ったのか、歌恋は再び眉間にシワを寄せる。鬼瓦の迫力が釜野に伝わったのか、笑い声はぴたりと止み、真剣な眼差しになる。


「す、すみません監督。……けど、いいかい後輩? SFは魂刃を使用し、異能の力で相手と一対一で戦いあう競技だ」

「知ってるっすよ、先輩」

「魂刃の異能を使えば、人間に大ケガをさせることは難しくもなんともない。殺すことだって十分可能だ」

「それも知ってるっすよ、だから魂刃を使って人に危害をくわえるのは一部の例外を除いて法律で固く禁止されてるんじゃないっすか」

「そうだね。そしてSFがその例外の一つだ。魂刃を使い、強さを競う競技であるSFでは魂刃を使って人に攻撃することが許されてる。……つまり、SFは相手を殺すことになるかもしれない危険な競技なんだよ」

「分かってますよ」

「……そんな競技を、異能の無い魂刃でやろうってのかい?」


 3つ目の反応の理由がこれだった。

 SFは異能のある魂刃を持つ者同士という前提で成り立ってる競技だ。いや、そもそも異能の無い魂刃を持つ人間がいることも、仮にそんな人間がいたとして、そんな者がSFをやるなんて事も考えられていない。それなのにSFをやると言う一翔を笑うものは多かった。


「異能が無い……それがもし本当なら、悪いことを言わないからやめた方がいいんじゃない? あ、そうだ。この学園は他にも格闘技系の部活があるからそっちはどうだい? 柔道部とか、空手部とかさ」


 釜野の提案を聞いた結瑚ははっとした表情になり口を開く。


「そ、そうだよ! 本当に異能を持ってないならSFはやめた方がいいよ! ただでさえ危ない競技なのに……!」


 この提案も一翔は聞き飽きていた。


『お前にはSFは向いてない、他のスポーツにした方がいい』

『異能は一種の才能。お前はその才能が一切無いってのに、それでもSFをやろうだなんてとんでもないバカだ』


 一翔の脳裏に、今まで自分が抱き続けてきた夢を聞いた者が吐いた言葉をよぎっていく。そう思われるのは仕方がない。向いていないのは一翔自身がよく分かってる。けど、それでも……いや、だからこそ――――


「すんません先輩。俺はSFがやりたいんすよ」

「しかし……」

「別に、異能を使えなかったらSFをやっちゃいけないなんて決まりはないだろ?」

「それはそうだが―――」


 釜野の言葉を遮り、一翔は不敵に笑いながら自信あり気に言葉を続けた。


「それにさ、俺……異能が使えなくても十分戦えますよ」

「なんだと!?」

「ちょ、む、邨上君……!」


 釜野が一翔を睨みつけ、二人の間に剣呑な雰囲気が立ち込めていく。それを察知した結瑚は、どうすればいいのか分からずにおろおろと狼狽えた。


「ほう……面白いこと言うじゃないか。私はお前に少し興味が湧いてきたぞ。よし、じゃぁその言葉に偽りがないか試させてもらおうじゃないか」


 そんな三人の中に割って入るように鬼瓦が一翔の前に立つ。


「試す?」

「あぁ、お前、確か邨上とか言ったか……今からここで釜野とSFをやれ」

「えぇ!?」

「はぁ!?」


 結瑚と釜野の驚きの声が鬼瓦の背中から沸き上がった。

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