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異能に挑む剛腕拳士  作者: 英国紳士
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第一話 登校

「今日からだな……うっし!行くか!!」


 朝の6時30分。家の玄関を勢い良く開けて、一翔は街中を走り出す。

 雲一つ無い快晴の空。風を浴びると少し肌寒さを感じなくもないが、暖かい太陽の光のおかげでその肌寒さも心地よく感じる。

 別に遅刻ギリギリというわけでもないのに一翔は最寄りの駅まで全力疾走で向かっていく。 時間にはまだ余裕はあった、けどどうにも一翔は自然と足が焦ってしまう。

 一翔の着ている服がそうさせる。灰色のブレザーに白のチェック柄のラインが入ったパンツ。今日から一翔はこの制服にほとんど毎日を着ることになる。何故なら、今日は4月1日。一翔がこれから三年間通う学校の入学式だからだ。

 今日から始まる高校生活の初日。胸が高鳴る。その興奮が一翔を走らせる。



 家を出てから15分ほどで一翔は最寄りの駅に着いた。

 券売機の近くにも改札の近くにも駅員のいない無人の駅。

 買ったばかりの定期を改札に通して一翔はホームに入る。通勤通学の時間帯だというのに電車を待つのは4~5人しかいなかった。

 次に電車が来るまでのしばらくを音楽プレーヤーを使って一翔は暇を潰す。いつもならただ退屈な時間だろうが、入学式という特別な日に味わうそれもなぜか特別に感じていた。

 一翔が音楽を楽しみ始めてから20分程経って、ようやく電車が止まる。ちょうど一翔が立っていた所に電車のドアは止まり、お迎えをする様に開いた。電車の中もホーム同様でガラガラで人はあまり居らず、寂しげな雰囲気を放っていた。


「ま、席座れるからいいんだけどな」


 これから先のことを考えると一翔はちょっとだけ得をした気分になる。席に座ってしばらくしてドアが閉まり、電車は発車した。

 お気に入りの歌を聞きながら窓から見える風景を一翔は眺めていく。

 1駅、2駅……電車が次の駅に止まる度に見える景色はどんどん都会に変わっていった。それに影響されるように駅に止まる度にどんどん電車の中の人も増えていく。

 電車に乗ってから一時間もしないうちにあっという間に電車は満員になり、席に座れずに立っている人たちは狭苦しくてとても窮屈そうだった。

 その様子を見てると、早めに電車に乗って余裕をもって席に座れてよかったと一翔は心の中で笑みをこぼす。

 そんな事を考えてるうちに電車の中にアナウンスの声が鳴る。


「次はー天峰てんほう学園前ー、天峰てんほう学園前ー」

「おっと、次か」


 電車に乗り出して丁度1時間と10分で目的の駅に着き一翔は席を立つ。一翔以外にもその駅で降りる人は多く、電車を降りる時も人混みの中をかき分けずにすんなりと一翔は電車を降りられた。


「おわぁ……!」


 ホームに下りた先には、一翔と同じ灰色のブレザーを来た少年少女が何百人も集まり駅の中を歩いている。皆が行く先は一翔と同じ、生徒数約5000人の県内で1番のマンモス校、天峰てんほう学園である。

 一翔が駅を出ると、すぐ目の前に学園が映った。 その学園は一翔が今まで通ってきた小・中学校とは比べ物にならない程広く、大きい建物だった。


「でっけぇ……」


 思わず一翔は足を止めて学園を見上げる。

 大きい校門、何棟にも分かれている校舎、一翔が通っていた中学のそれよりも倍は広い運動場、そしてそんな学校に一斉に向かっていく視界を覆いつくさんばかりの沢山の通学者たち。

 どれもこれもが一翔が今まで見たことのない光景だった。気づかぬうちに唖然とした一翔は口をぽかんと開け、一言呟いた。


「「今日からこの学園の生徒なのか」」

「……ん?」


 一翔は自分の言った声に違和感を感じた。自分の低く濁った声ではない、なにか可愛らしい高い声が右横から混じっていた。声のした方に一翔が顔を向けると、さっきまでの一翔と同じ様に口を開けて学園を見上げている一人の少女が居た。

 彼らの前を通り過ぎる女子生徒達と同じ灰色のブレザーに黒を基調にした白色のラインのチェック柄のスカート、黒髪のショートボブに前髪に赤いヘアピンを前髪につけ、胸元には一翔と同じ青色のネクタイを着けていた。

 天峰学園はネクタイの色によって学年が分かる。一翔と同じ色のネクタイということは彼と同じ新入生なのだろうが、一翔には一つ疑問が浮かび、ついそれを口に出してしまった。


「……小学生?」


 小さい、高校生とはとても思えない程に背が小さすぎた。15歳の女子の平均身長は約157cm、低くても146cm程。しかし、一翔が見た限りでは恐らく身長は140cmあるのかどうか……。おまけに顔は額が大きく顎が小さめ、主張のない小さな鼻と反対にぱっちりと開いた黒い瞳の目。

 その印象は小学生と言われても可笑しくない……いや、そうとしか見えない程の童顔だった。


「なっ!!? ちゃ、ちゃんと高校生だよ!!」


 一翔の一声を聞いた少女は血相を変え、眉を吊り上げて一翔に顔を向けて怒ったように声を荒げる。


「あ、わ、わりぃ……小さかったもんだから」

「まだ成長期ですぅ!! これからでかくなるんですぅ!! つか、君がでかいんだよ!!! 羨ましいです、身長分けてくださいお願いします!!」


 少女は怒ってたかと思えば、今度は一翔に向けて頭を下げだした。


「いや、無理に決まってんだろ」


 一翔は唐突な少女の願いに思わず素で答える。


「ちくしょぉ!! あたし以外の全人類の身長20cmくらい縮んでくれーー!!」


 少女は頭を抱え、嘆きの声をあげながら学園に向かって走り出す。10m程進んだ先で一度立ち止まり振り返って一翔に顔を向けた。


「バーカバーカ!!! ……へへっ」


 言いたいことを言えたのか、少女は子供じみた罵倒をするとスッキリとした笑顔に変わり、再び彼女は学校に向けて走り出した。


「……変な奴」


 ころころと変わる表情に一翔はますます子供じみてると感じる。小さい体を走らせてる彼女の後ろ姿を見て、一翔もはっとした表情になる。


「いっけね! 俺も行かねぇと!」


 いつまでも立ち呆けてもいられない。一翔は気合を入れなおし、学園に向けて走り出す。



 陽が西に傾き始める頃。学園の部活棟で何かを探すように練り歩く一翔の姿があった。


「えーっと……どこにあるんだぁ?」


 入学式や、自クラスでの自己紹介、その他諸々も終えてようやく一翔は自由の身になれた。

 どうしてああも入学式というのは校長や教育委員会の人の話が長いのかと一翔は思う。欠伸を抑えるので必死でしょうがなかった。

 今頃、教室ではまだ残ってる生徒たちが友達作りに必死だろうが、一翔はそれをしなかった。

 入学直後の友達作りが大事なことは分かっているが、それよりもこれからやることの方が一翔にとってはずっと大事だった。


「おっ、ここだ!」


 一翔はようやく足を止め、ある部室の前のドアに立つ。その部室は他の部活の部室よりもひと際大きかった。


SFソウルファイト部! やっと見つけたぜ!!」


 SF部と大きく書かれた看板がドア傍に置かれ、活気のある声が部室の中から漏れ出していた。


「流石は県内で一番のSF強豪校、外からでも気合い入ってんのが分かるぜ。俺も今日からここに入って、そんでもって……!!」


 思わず手に力が入り、拳を握ってしまう。ここからだ、ここから始まるんだ。小学生の時に見た、一翔の夢への第一歩が。


「さてさてさって、一番に中に入らせてもらおうかねー」


 一翔はドアノブに手を伸ばす。すると突然もう一本、一翔の手とは違う小さい手がドアノブに横から手を伸ばした。


「あ?」

「あんれ?」


 一翔は顔を曇らせる。

 子供の頃からあこがれてきたソウルファイト、それができる場所への初めての訪問に内心は期待に胸を膨らませていた。なのに、それに邪魔をする奴がいる。

 一翔は横を向いて、誰が手を伸ばしたのかを確かめた。そこには一翔と同じ様に曇った表情をした女の子が一人。

 一翔はその子に見覚えがあった。高校生とは思えないほどの小さい背丈……間違いない。駅前で出会ったあの小学生みたいな高校生だと一翔は確信する。

 少女も一翔のことを覚えていたのか、あっと驚いたような表情をして一翔を指差す。


「あ! 君、あの時の失礼な人!」

「なんだよ、あの時のちっこい奴か」

「だからちっこいって言うな!!! まだ成長期なんだよ!!!」


 彼女は小さいと言われて声を荒げこそしたが、二度目だからか今度は別段怒った表情ではなかった。


「君も、SF部に用があるの?」

「おう、ここに入部するためにこの学園に入ったんだからな」

「そうなんだ、じゃぁあたしと同じだ」

「お前もSF部目当てか」

「まぁね、だから仮入部期間になる前に見に来たの。君……えーっと……」


 彼女は眉をひそめて声をどもらせる。何が言いたいのかを察した一翔が口を開いた。


「邨上一翔だ」

「おぉ! 邨上君ね!」


 一翔の思った通り、名前が分からないからもやもやしていた彼女は手を叩いてすっきりした顔になる。


「あたしは我妻結瑚あづま ゆうこ、友達からは『ゆっこ』って呼ばれてるよ」

「我妻でいいか?」

「んー……まぁオッケーオッケー。で、邨上君も仮入部期間に入る前にSF部を見に来たの?」


一翔はにやりと笑い、自信ありげに胸を張って答える。


「おうよ! 仮入部期間なんて待ってられねぇ、県内一のSF強豪校の雰囲気を確かめたくってな」

「やる気まんまんだねー」

「まぁな、つーわけで俺がドア開けさせてもらうぜ。これからこの部に入部する奴らの中で、俺が一番やる気あるだろうからな、一番乗りだ」


 一翔の右手がドアノブを握る。そのままドアノブを回してドアを開けようとするが、その前に結瑚の手が一翔の手を抑え、開けるのを邪魔されてしまった。


「ちょっと待った! ドア開けて部室に一番乗りするのはあたし!」

「は!? なんでだよ!?」

「君よりも私の方がやる気満々だから! だからその手離して!」


 結瑚の手に力が入り、一翔の手をドアノブから離そうとする。だが当然、一翔も手を離してやるつもりなんてさらさら無い。


「ふっざけんな! お前より俺の方がやる気ある! だから俺が一番乗りだ!」

「いやいやいや! 私! 私の方がやる気あるから! 私が一番乗りだから!」


 二人の目つきが真剣になってくる。これはもう二人にとってただの順番争いじゃない。どっちがSFに対して本気なのかを比べる意地の戦いだ。


「お前みたいなちんちくりんが俺よりやる気ある訳ねぇだろ! その手を離せ!」

「そっちこそ! 君にあるのはその無駄に大きい図体だけでしょ!」

「俺の方が――――」

「あたしの方が――――」

「――――部室の前でガタガタ騒いでんじゃねぇっっ!!!」


 部室の中から叫び声と共に女性がドアを蹴破った。二人はドアに数mは吹き飛ばされ、叫び声をあげながら倒れる。


「どこのどいつだ練習の邪魔しやがってる喧しい阿呆は!? おまえらか!?」


 眉間にシワを寄せて二人を指差す黒いジャージを着た大人の女性。その顔はとても迫力のある顔で、小さい子供が泣き出しそうな程に恐ろしかった。その迫力に気圧されて、だらしなく倒れたままだった二人は急いで立ち上がり姿勢を正す。


「す、すんません……!!!」

「ご、ごめんなさい! あたし達、この部に入部したくってここに来て……」

「は?」


 おっかない女性は二人の姿を下から品定めでもするように見上げていく。ネクタイが彼女の視界に映った時、状況を察したのか少しだけ眉間のシワが緩んだ。


「あー……そういうことか、お前ら新入生か」

「はい! あたし、1年2組の我妻結瑚って言います!!」

「1年4組の邨上一翔っす」

「入学初日に部活を見に来るとはな。私はこの部活の顧問、鬼瓦歌恋おにがわら かれんだ」


 鬼瓦は金髪のロングヘアをかきあげ、片手を腰に当てる。


「まだ仮入部期間まえだが……お前ら、うちに入部するつもりなのか?」

「あ、はい!そうです入部希望です!」

「そのつもりっす、そのためにこの学園に来たんす」

「ほぉ……」


 鬼瓦の白目に対して小さい瞳が二人に向けて交互に動く。改めてじっくりと品定めをされているようで二人に軽く緊張が走った。

 品定めが終わったのか、目を閉じながら空いてる手で頭を掻きながら、鬼瓦が少し面倒くさそうに口を開く。


「……ま、見学位ならいいだろ。入れ」

「は、はい!」

「うす」


 踵を返して部室の中に入っていく鬼瓦に着いていく様に、結瑚と一翔は部室の中に入っていった。

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