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異能に挑む剛腕拳士  作者: 英国紳士
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プロローグ

一翔かずとッ!! テレビ見てないで夏休みの宿題やりなさいッ!!」


 台所から母親のお決まりのセリフが聞こえる。


「今、宿題なんかよりテレビが大事なのッ!!」


 台所にまで聞こえる大きな声で、赤いTシャツに黄色の短パンを穿いた小学生程の少年が叫ぶ。

 夏休みの真っただ中のある日の夜、昼間のうだるような暑さも和らぎ、セミの鳴き声と共に涼しい風が家に入り込む。だが、少年……村上一翔の心は今、とてつもない熱気を帯びていた。

 少年はテレビから離れたソファには座らず、テレビの目の前で食い入る様に画面に凝視する。そのテレビには二人の男の戦いが映し出されていた。

 二人が戦うステージを囲むように置かれたテレビの中の観客席には、何万人という数の人間が雨の様な歓声をあげ、テレビの外にいる一翔と同様に二人の男に視線をくぎ付けにされていた。


 金髪の大きくて屈強な体をした白人は銃を持ち、対するもう一人はほっそりとはしているがとても引き締まった体つきをしている。

 その男に対峙する男。上半身を裸にして着物を着て、日本刀を手に握る黒髪の男のその姿は侍を思わせる佇まいだった。


「ウオラァッ!!!」


 侍が目の前の男に向かって斬りかかる。目にも止まらぬ速さで振られる剣が白人の脇腹に当たる―――その寸前に白人はにやりと笑みを見せた。

 侍はそれを気にすることもなく侍は剣を振り抜く。その手にはわき腹から肉を切り裂き、骨を断ち、白人の白い肌を血の色で赤く染める感触が伝わる―――はずだった。

 侍は剣を振り抜いた。

 肉の切る感触も、骨の断つ感触も手には伝わらない。

 一面に赤色が広がるはずだった侍の視界には、赤色なんて微塵も広がらなかった。

 侍は間違いなく白人に向けて剣を振った。だが、侍の前に白人はいない。


「チッ! どこに行った!?」


 侍は慌てた様子で周りを見渡し白人を探す。侍が自分の真後ろを見ると、白人の姿をようやく見つける。

 二人はステージの中央に居たはずだった。なのに、その男はステージの端で「どうだ?驚いたか?」とでも言わんばかりに笑いながら立っている。

 その不可思議な光景に観客たちから歓声が沸き上がる。


「おっとぉ!! 早速マーク選手の魂刃ソウルの《異能》、瞬間移動がお出ましだぁ!!!こりゃマーク選手に剣を届かせるのは無理って感じかぁ!?」


 ステージ傍の実況席で実況が拳を握り、マイクを使って会場中に声を届かせる。


「グッバイ、サムライ!!!」


 マークと呼ばれた白人は右手に持つ拳銃を侍に向ける。照準を侍に向け、引き金を引く。2発―――いや、3発撃たれた弾丸が侍に向かって飛んでいく。


「甘いっ!」


 マークの放った弾丸は何かに当たったかのように侍の前で弾かれた。まるで見えない壁にでもぶつかったかのように。


「な、な、なんとぉ! マーク選手の放った弾丸も当たらなぁい! 武蔵選手の魂刃の《異能》、障壁によって防がれたぁ!!」


 実況が再び叫ぶ。その声に煽られるように歓声がより一層沸き上がる。


「流石は最強のSFソウルファイト選手を決める王者決定戦!! 手に汗握る攻防!! 一体、一体どっちが勝者となり最強の証 キングの称号を手に入れるんだぁ!!?」




 全ての人類が魂刃ソウルと呼ばれる、不思議な力《異能》を持った武器を出す能力を持った世界。

 この世界では、魂刃を使ったなんでもありの格闘競技、ソウルファイトが熱狂的な人気を博していた。




「あー!! 超かっこいいぜソウルファイト!! 俺もやりてぇなぁ……!!」


 テレビ中継を見る一翔の興奮は最高潮に達していた。 

 最強という座をかけての勝負、その緊迫感がテレビ越しからでも十分に伝わってくる。

 一翔は羨ましかった。世界中がたった二人の男に注目してる。自分もその注目してる一人だが、見てるだけじゃ足りやしない。自分も、テレビに映る二人の男のようになりたいと願った。

 その願いは、一翔にある事を己に誓わせた。


「決めた!! 俺、ソウルファイトの選手になる!! そんでもって、俺も最強を決める舞台に……!!

「なーにバカなこと言ってんだいッ!?」


 台所で行う家事を済ませたのか、一翔の誓いに物申すように母親がリビングに入ってくる。


「あんたなんかがソウルファイトなんてやれるわけないでしょ!! 馬鹿なこと言ってないで、部屋に戻って宿題やんなさい!!」

「待ってよ母さん!! せめて、この中継が終わるまで―――」


 母親が鬼のような眼つきで一翔を睨む。それに気圧された一翔はしぶしぶと家の二階にある自分の部屋に戻る。

 サッカーボールに野球のバット、携帯ゲーム機やプラモデルに漫画……いかにも男の子が好む物が置かれた部屋。

 普段は部屋にいる時は部屋にある物を楽しむ一翔だが、どうにも一階のリビングで見た中継での興奮が忘れられない。

 外から戦うのを見ているだけでこんなに興奮するのだから、実際に戦う側になったらどれだけ楽しいのだろうか? それは一翔には想像もつかなかった。だからこそ、母親に邪魔されたあの誓いを再び口にする。


「俺はいつか、ソウルファイトの選手になって、最強のSF選手 キングになる!!!」


 それは、近い将来に《無能》と呼ばれる少年には抱くことすらおこがましい夢だった。それでも―――


「俺は……邨上一翔むらかみ かずとは、ぜってぇに最強の男になってやる!!」

 

 一翔は立ち上がり、部屋の窓を開け、空に輝く満月を見る。

 自分の頭上で黄金の様に光り輝く月、少年には自分が抱いた夢はこの月のように見えた。綺麗に光り輝くゆめ、そこに向けて手を伸ばすことはできるが、決して月には手が届きはしない。


「届かせてみせるさ……今は無理でも、もっと大きく、もっと強くなって……いつか、必ず掴んでやるよ!!!」


 一翔は月に重なるように手を伸ばし、拳を握った。


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