不要な俺はやっぱり不要だった
衝撃の事実が発覚した。それはなんと、超絶無能だと思っていた可愛い可愛いルクスちゃんとはその実、精霊使いとかいうこの世界に於いてかっなーり稀少な存在であり、(自称)伝説の勇者ハイトリック=エストバーニの血統を継ぐマルシャよりも凄い奴だったらしい!
しかも驚くべきはルクスの契約したという精霊とはだ、この世界で知らない人間はいないとされる五大元素霊がその一角、[大精霊サンダリアン]なのだというからびっくり仰天だ!いや俺は無知で馬鹿だからそのサンダリアンとかいう精霊について何も知らなかったけどさ、とにかく凄いみたいだよ!?
何でも精霊の加護を受けていれば魔法が使えなくても内なる精霊を通して魔力をブッパできるみたい!しかもルクスの契約した精霊とは大精霊で雷の根源たる存在みたいだからその威力は超絶大ときたもんだ!
これで一抹の疑問は納得した!確かにルクスは魔法を使えない。だけど、精霊を通じていくらでも魔力を雷に変換させることができる!しかもしかも大精霊の加護により元から高いようだったルクスの魔力にブーストがかかってその魔力は無尽蔵の魔力庫になっていると、つまりはそういうことだ!やったね!?
「ど、どうしてこうなった…」
俺は泣き疲れたのかスゥースゥーと穏やかな寝息を立てるルクスを見てはそう呟いていた。
俺たちはその後一旦ルミナス街に戻っては今現在宿の一室にいる。その途中、ルクスの泣き喚き声とマルシャの罵声を一身に浴びて俺のライフポイントはゼロだった。いやマイナスかもしれない。
「まぁ良かったじゃない?むしろルクスの加入に私は大満足よ」
マルシャはルクスの寝るベッドの脇に腰掛けてはそう言って、ルクスの頭を撫でていた。
マルシャよ、驚愕なる事実が発覚したというにも関わらず何という落ち着きぶりだ…府に落ちないぞ俺は…
「初めからこうなる事を知っていてルクスの加入させたんじゃないだろうな?」
「んなわけないでしょ?飽くまでもそんな気がだけに過ぎないわ。まぁでも?魔力に関して言えば何処ぞのお馬鹿さんよりも勝りまくっているわけだし?今後に期待したのは確かよ」
「おいちょいと待てい!その何処ぞのお馬鹿さんとはもしや俺の事か!?」
「さぁ、どうでしょう?」
と、マルシャは嘲けた微笑を浮かべた。もちろん俺を見てである。そんなどこまでも高飛車な態度には呆れを通り越して呆れしか湧いてこない。めっちゃ呆れてるよ俺は!?
「…もういいやい。で何だ、お前は伝説の勇者の血統者でルクスは大精霊の加護を得ていると…何だこのパーティ、マジで明日から魔王討伐に出発しそうな勢いじゃないか」
「いやいやいや、そもそも冒険者ってそういうもんだからね?あんた自分の言っている事ちゃんと理解してる?」
「してる。してるとも…だから問おうマルシャよ、俺はこのパーティに必要か?」
「……ぶっちゃけると、不要ね」
「だろ?そう思うじゃん?俺もそう思うんだよ?だって物理的にはマルシャがいれば大体は片付くわけだし?」
まぁ、俺はお前の比較にならない程に最強な魔槍グンニグルがあるんだけどな?
「それから後方支援にしたって前衛にしたってルクスの魔力があればほぼ無敵?みたいな?なんでも回復系統も全てその大精霊様とやらで賄えるみたいじゃん?」
ま、俺の魔力は実のところ発してないだけでこの世界を56782周回覆う程の大大大魔力なんだけどな!?
「だからそれって、俺が無用ってことじゃんか!?」
そうさ、俺は平凡がいいんだ!自身の力をひけらかしたりなんてしなくていい、最強とか名乗るつもりもないんだ!
「だから頼むマルシャ!今すぐ俺を解雇にせよ!はよはよ!」
「却下よ」
「何故に!?」
「私のプライドが許さないからに決まってるでしょ?これから魔王を倒すっという偉大なる冒険者のこの私があんたがただ無能で馬鹿だからって見捨てたとあっちゃあ私の経歴に傷がつくわ!」
「結局自分の為かい!」
「そうよ!何か悪い!?」
「少しは俺に悪いと思え!」
「ふん、何よ!?」
「お前こそ!」
と、二人安っちい宿屋の一室でスヤスヤと健やかに眠るルクスを挟んで過激かつお馬鹿な論争を繰り広げていたーーーそんな時だった。
「大変だぁあああああああ!!!」
それは窓の外からの声だ。どうも声からして穏やかじゃない様子。何かあったのだろうか?
「バンキス、ちょっと私外に出て様子見てくるからルクスの事よろしくね!?」
「おうおう行ってこい。何だったら帰ってこなくていいぞ~?」
「まだ言うか!?」
「冗談だよ。ほら、さっさと行った行った」
「ふん、ほんとあんたムカつく!」
そう言い残してマルシャは部屋を後にした。マルシャの去った後のこの部屋とは随分と静かになったもんだ。また可愛らしいルクスの寝息が何とも聞いてて心地よい。これこれ、平凡というのはこういうこと!ストレスフリーだよ全く!
「はぁ、俺はこの先どうすれば…」
そんな俺の呟きに答える者は誰一人としておらず、それはこの世界中どこを探してもいないと俺は知っていた。憂鬱だ。
とりあえず、俺も寝る事にした。