大精霊よ俺に微笑め
そして次の日、晴れてルクスという新しい仲間を迎えいれた俺たち御一行はとある依頼を受けて近くの森へとはやってきていた。
依頼といってもだが、これは列記として冒険者ギルドで受注した魔物の討伐クエストというやつであり、初級の冒険者にはちと荷が重い内容であった。
にしてその魔物の討伐クエスト対象とは、最近ここいらで暴れ回っているという中級種の魔物[バルバッサル]というゴリラのような体躯を成した怪物なのであった。このバルバッサルという魔物もまた先日遭遇したレッドデビル同様に最近見られるようになった魔物で、突如としてはここいら森に出没しては街の人々を攫って食べたりしているらしい。
そんな魔物、バルバッサルがだ、何故今の今まで討伐されず放置されていたかと言うと話は簡単。このバルバッサル、かなり強い。中級種といっても、単純な力で言って限りなく上級種に近い中級種といったところか、無論駆け出しの冒険者如きが太刀打ちできる相手でもないし、ましてやそこそこ経験豊富な冒険者が幾人も骨となって帰ってきたとはギルド内で噂になる程だった。
つまり、俺たちじゃ無理かもしれない…そう、#思っていた__・__#。
「えっと…」
開いた口が塞がらない、そんな気持ち。そんな気持ちにさせてくれたのは俺たちの中には伝説の勇者の正統な血統を継ぐマルシャがいたから~、ではなく、何を隠そうルクスの仕業であった。
「えーと、ルクス、ちょっといいか?」
「は、はい、何でしょう?」
「うん、いやな、別に疑うつもりはないんだよ?ほんとだよ?だって俺たち仲間だし、うん」
「は、はぁ」
「でもさでもさ、何かさ、『あっれ~?何かおかしいぞ~?』って俺の中にいる心の中の俺がだよ?ルクス、君に一抹の疑問を尋ねたがってるからさ、聞いても良い系な人?んん?」
「は、はい。どうぞ?」
「では聞くが、こりゃ何だ?」
俺は目の前に広がる一面焼け野原となった地帯を指差して言った。俺の記憶が正しければ、いや正しくなくとも周りの様子からしてここには間違いなく木々が生い茂り、草木が鬱蒼と生え茂る森の中であった。あった、とはつまりそういうこと、過去形なのである。
過去形にしてしまった人物こそが俺の目の前にいるーーールクスだ。
俺の目が正常であったのであればだが、ルクスとは襲いかかってきたバルバッサルに指先を向けた、刹那、一瞬ピカッと光ったと思ったらそのすぐ後にも閃光が走りバルバッサルの巨体を貫いていた。貫いてからは今のこの状態、一面焼け野原と化していたのである。
うん、なぁーにコレ?
「そ、その、指先に溜め込んだ雷をバルバッサルに撃ち込んだのですが…ちょっと、やり過ぎてしまいましたかね?」
ルクスは反省めいた口振りで言った。その瞳はウルウルとしていて、「やってしまった…」とは言いたげな目で俺を見る。
いや俺が本当に知りたいのはそうじゃない、そうじゃないんだ…いやな?結果としてお前が指先からその雷?とやらを発車させてバルバッサルと森林の一部を破壊してしまった事は事実として残っているし、実際見たし、それは結果論として素直に認めるよ。ただな?俺が知りたいのはな、ルクス…
「どうしてお前にそんな事できるのか…聞いてもいいか?」
問題はそこなんだよなぁ…
俺の質疑を受け慌てふためき答えあぐねるルクス。そんなルクスの隣へと歩みよってきたマルシャが唖然とした様子で呟いた。
「驚いた…」
ああ、俺もだよ。大体だ、今回のクエスト依頼を受注したのはマルシャで、「私一人でもこの程度の魔物なら余裕の余裕のよよの助けよ!!」と胸張ってそういうもんだから渋々と従ったわけで、俺の考えでは全てマルシャが片付けてくれるもんだと…そう思っていたわけなんだが。
「いやね?私もルクスの力については何かしら秘密があるとは思っていたの。というのもよ?この子の魔力量はあまりにも桁が違い過ぎるもの。ましてや駆け出しの冒険者が保有していい魔力では絶対にないし、だったら何か裏があるんじゃないかって、そう思っていたのだけれど…」
と、マルシャはルクスへと向き直って、
「まさか貴女、精霊の加護を受けているんじゃなくて?」
いきなりだ、トンデモナイことを言い出していた。
「は、はぁ!?精霊の加護…だと?」
何だそれは…
「何あんたそんな事も知らないの!?」
「ああ、知らないから聞いている。だから言え、今すぐ言え。お前が知っている事を全てぶち撒けろ!」
「な、何よそんな真剣な顔してさ…」
「いいから、はよ」
「わ、わかったわよ。いい?精霊の加護というものを説明する前に、まず精霊という存在について言及しておく必要があるわ。精霊というのは太古からこの世界に存在している生命体の根源であり、もともとは肉体を有していたとも言われているわ。それがどんな姿形を成していたのかは今では分かりかねるけれど」
「つまり、俺たちの遠い祖先とか、そんなところか?」
「そうそう。で、そんな生命体の根源である存在とはその身朽ち果てた後にも、霊体となってはこの世界にも残留し続けたと言われているの。それが精霊、超自然的な霊体であり、万物の始まりにして頂点に立つ存在の総称よ。この世界に神がいるとするならば、まず精霊がそれに近いわね、うん」
「か、神…だと?」
いかん、話が跳躍し過ぎて頭がこんがらがってきたやがった…
「で、その精霊とルクスとがどう関係しているって?」
「いやだからそれを今から聞こうとしていたところなんだけど?」
と、マルシャの視線がルクスへと移る。
「ルクス、正直に話して頂戴。貴女は昨日、魔法は一切使えないと言ったわよね?」
「は、はい…全くその通りです…」
「でもよ?今まさに今貴女がやったことは魔法を遥かに超越したものよ。こんな人知を凌駕した離れ業を貴女は平気でやってのけた…であるならば、考えらるのは1つしかない、でしょ?」
「…仰る通りです。先ほどマルシャ様が言った事に誤りは御座いません。そうです、私は精霊使い…なのです」
と、ルクスは重たい口振りで言って、また続けて、
「でも聞いてください!!別に私は隠すつもりはなかったのです!?だから今こうして披露してみせたわけですし、これから仲間であり家族となるお二方には私の全てを見てもらおうと、そう思っただけなのです!!だからバンキス様、私にそんな化け物を見るような目を向けるのはやめてください!!」
「お、俺!?」
「そうですよバンキス様!!今、絶対私のことを蔑んで見ましたでしょう!?」
「いやいやいやそんなつもりはないって!?」
違う!誤解するなルクス!俺はただ、またまた面倒な奴を仲間にしてしまったなぁ…と、これからの未来を想像してただただ絶望を感じていた、それだけだ!
「待て、とりあえず話を整理しよう!?な!?」
「うわぁあああああああバンキス様に嫌われてしまったぁあああああ!!もうお終いダァああああああああああ!!!」
「お、落ち着け!!」
いかん、冷静に話ができる状況じゃねぇ…
「ちょっとバンキス!?あんた何、ルクスをそんな風に見ていたわけ!?自分から仲間に引き入れといてそれないんじゃない!?」
「ば、馬鹿!お前まで何を言いだしやがる!?とにかく冷静になろう、な?」
「うわぁあああああああもう一人は嫌だぁああああああああ!!」
「バンキス、ルクスに謝りなさい!!!」
ああ、ダメだこりゃあ。