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腐った果実はやっぱり臭い


 次の日の昼下がり、俺とマルシャはシリウス街へとたどり着いた。


「うわぁ、どんなもんかと思ってきて来て見れば…えらい寂れんなぁおい…」


 俺の目に映るシリウス街とは、それはそれは陰湿な雰囲気漂う街並みである。

 もともと大した街ではないと聞いていたがそれにしたって酷い。店だってどこもかしこも閉まってるし、開いていたとしてもだ、


「おいおい何だこれ!腐ってんじゃねーか!?」


 とある果物商店に立ち寄って腹ごしらえでもしようとした手間、手にした果物はぶよぶよとしていて、かなり臭い。


「何だ兄ちゃん…俺っちの売り物にケチでもつけようってか、えぇ!?」


 これはやばい、店主がかなりご立腹な様子だ。


「ち、違いますよやだな~あはははは…」


「だったら何だ!?買ってくれんのかよ!?」


「え!?い、いやそんなつもりは…」


「だったらやっぱり冷やかしなのか!?兄ちゃん、ちょっと面かしなぁ!!」


 と、店主の怒りは最高潮へと達したのである。

 結局、俺は腐った果物を買わされていた。いや、買わざるを得なかったという方が正しいのか?


「あはははは!!あんた本当に馬鹿なのね!!まさかそんなクッサい果物を食おうってわけ?」


「食わねーよ!でもあそこで買わなきゃ絶対喧嘩になってたし、仕方ないだろうが!」


「いいじゃない別に。このシリウス街では喧嘩なんて日常茶飯事なんだから、ほら、早速」


 と、マルシャは路地裏の方へと指差した。路地裏では確かに誰かが喧嘩をしている。しかも一人や二人じゃない。かなりの人数だ。


「荒れてんなぁ」


「ほんと、野蛮人達って嫌ね」


 マルシャは蔑んだ瞳を浮かべていた。どうやら心底この街の様子に呆れ返っている様子である。無理もない、何せこの俺だって呆れているのだから。


「何でまたこんな荒れてんだろうな?聞いた話ではこれ程に酷いとは言ってなかったんだけどな」


「ふん、どうせ最近出現した魔物の影響か何かでしょ?ほら、あなたも平野でレッドデビルを見たでしょ、あんなんがこの付近一帯にも出てるのよ確か」


「ああ、成る程な」


 つまり魔物の出現によりこの街で暮らす人達の心が荒んでいる、ということなのだろう。確かにあんな魔物がうじゃうじゃ徘徊しようもんなら満足に街の外へ出れないだろうし、街の外へ出れないということは仕事も限られてくるだろうしな。それなら先ほどの果物商店のやり取りも納得できる。


「この果物も、多分随分前に仕入れたものなんだろうなぁ。大方、魔物のせいで商人がこのシリウス街に立ち寄れず、それで仕入れも満足にできないと、そういうところか?」


 何だか可哀想になってきた。少しだけ同情せざるを得ない。

 と、俺は何故だか自然と手に握り締めていた果物を丸かじりしていた、


「…うわ、まっず…って、くっさぁっ!!!」


 やっぱ正真正銘腐ってんじゃねーか!同情した俺が馬鹿だった…


「ぷっ、ははははははは!!やっぱあんた面白いわバンキス!」


「笑い事じゃねーよ!!ほら、お前も食ってみろよ!?そしたら俺の気持ちを少しは理解できる筈だ!!ほら!」


「ちょ、馬鹿こっち来ないでよ!?あんた息臭いから!しっしっ!」


「は、はぁ!?仲間に対して何て言い草だ!?」


「ねぇ、ほんとマジ無理だからやめて?きもい」


 マルシャは侮蔑した瞳を浮かべてそう言った。うん、俺は何故だか知らんが無償にカチンときていた。だからか、手に持った腐った果実をマルシャへと近づける。


「……ほら」


「やめて!」


「ほらほらほらほら!」


「こっち来んなぁああああ!!」


 マルシャは悲鳴をあげて逃げ出した。


「な、何だよ!待てよ!?」


 逃げ出すマルシャを追って、俺は腐った果実を手に走り出した…って、


 はぁ、何やってんだ…俺。

 




 かくして、俺とマルシャはシリウス街の中心部にはある冒険者ギルドへとやってきていた。俺の隣では未だふて腐れたマルシャがいる。一応、謝罪はした。


「…何だよ、まだ怒ってんのか?」


「当たり前でしょうが…人にあんな屈辱を受けたのは初めてよ…」


「悪かったって。でもあんな言い方しなくったっていいじゃないか!」


「何あんた、まさか開き直るつもり!?」


「いやいやそうじゃねーけどさぁ、」


「はぁ…もうほんと最悪。あんたを仲間に引き入れたの間違いだったかしら…」


「ああ、それに関して言えば十割十分でお前の過ちだ。これに懲りたら俺なんかを仲間にするのはやめておくことだな。今ならまだ間に合う」


 と、俺は眼前の扉を指差した。


「ここに入って申請を出してしまえば俺とお前は正真正銘の仲間になっちまうぞ?そんなの嫌だろ?」


「…な、何よあんた。そこは『すみませんマルシャ様今後このような無礼をしませんからどうかマルシャ様のお側にいさせて下さい!』と土下座して頼み込むところでしょうが!?」


「嫌、そんなんはいい。何故なら俺はお前の今後を心底心配しているからだ」


 うん、もちろん嘘だけどな。俺はただ自分の仲間は自分で見つけたいと、そう言いたい。少なくともだ、その中には正当な勇者の血統を継いでいる者などいてはならない。だってよ、そんな凄い奴いたらかなりの注目を浴びるだろ?注目を浴びるということは誰かの好機な目に晒される機会が存分に増えるということだろ?それってかなりヤバイ。俺の魔槍グンニグルが日の目を浴びる日が訪れるやもしれん!それだけは絶対に避けなければならない!!


「マルシャ、宣言する!このままだと俺はお前の今後の輝かしい経歴に泥を塗ってしまうだろう!俺はそれが嫌なんだ!分かってくれるか!?」


「は、はい!?そこは別にあんたが気を付ければ済む話でしょうが!?」


「無理だ」


「何でさ!?」


「それはな…俺はとんだお調子者の馬鹿野郎だからだ!」


「もう調子狂うなぁ!でもまぁ確かに?あんたの言うことは何も間違っていないけどさぁ~」


 いやそこは少しは否定してくれよ!俺だって言いたくて自分を卑下してるわけじゃないんだぞ!?


「なぁ頼むよ~マルシャ~、お前はお前で超有名な冒険者となってバリバリに活躍してくれよ~なぁ~」


「ふ、ふん!超有名にはなるのは当然よ!?」


「そうか!だったら、」


「でもね、あんたがいくら無能だからって見捨てるつもりは更々ないわ!?あんたねぇ、私を見くびらないでくれる!?私はリッダーシップ溢れるとてもとても懐の広い冒険者なんだからね!?だからあんたの先ほどの行いも平気で許しちゃうし?」


 待て、そこは許さなくていい!むしろ許してくれるな!


「それにそこまで私の事を思ってくれるバンキスをほっとくなんてやっぱり私には無理!無理無理無理!絶対に無理なんだからね!?」


「…お、おう…ありが、とう?」


 あれ、俺が間違っているのかこれ?


「さぁ!行くわよバンキス!私達の伝説が、ここから始まるのよ!」


 そう言って、マルシャは冒険者ギルドの扉を盛大には開け放った。俺はマルシャの背に続き、重たい足を動かす。


「ほらバンキス!シャキシャキ歩きなさい!?」


「お、おー」


 はぁ、先が思いやられる…




 

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