20
「いきなり何をする愚か者、危うくこの体がダメになるとこではないか!」
「俺としてはそのままダメになる事を望んでいるわけだが?」
「ふん…これだから野蛮なる下等種は嫌いなのだ。ほんと、美少女以外の下等種など滅べばいいのに」
などと下衆な発言を露呈するのは、投げ捨てたその数秒後にも再び俺の目の前に現れた魔物の剥製ペトロちゃん(改)でありサンちゃんであり大精霊サンダルフォン様であるとは信じ難い事実である。
「で、まだ何か用か?俺はこれから一人ゆっくりと過ごしたいんだが」
「知るか。貴様の意思など大精霊であるこの我に関係あるものか!」
「ふーん、じゃあ消えるか?今すぐこの世界から抹消されるか?」
俺は瞬時に召喚したグングニルを構えてそう言ってみた。もちろん本気じゃない、ただの脅しのつもりだった。すると、
「ま、待て!?分かった!貴様の意思は存分に理解した!だからやめろ!今すぐその神器を納めろ下さい!」
と、かなりビビっていた。ということはつまり、俺のグングニルとは相手がいくら大精霊であろうと遺憾無くはその威力を発揮するという何よりの証拠だろうか。
俺はグングニルを下げて、サンちゃんを掴み取る。そしてその体をプニッと摘んでみた。グロテスクな外見とは裏腹にその感触はわりと心地よい。
「いいかサンちゃん?俺がその気になれば大精霊であるお前とて容赦なく葬り去ることができる。その事をちゃんと理解しておけ」
「く…何たる屈辱…でもそれもまた事実…くそ…」
歯痒そうにするサンちゃん。ただ俺と逆らう気はないみたいで、大人しくは従ってくれるみたいだ。
「まぁだからと言って現界したお前をどうにかしようとも考えちゃいないから安心しろ。お前がペトロちゃん(改)の体を使って何をしようがお前の勝手、ただ俺を巻き込むなと、そう言いたい」
「ふう…少しは話のわかる奴のようで助かる」
「あとこれは疑問なんだが、お前何でまたわざわざペトロちゃん(改)なんか憑依したんだ?大精霊なんだからもっとマシなものに憑依をすれば良かっただろうに、わざわざグロテスクな魔物の剥製なんかに憑依するお前の気が知れん」
「…はぁ、お前はほんとアホウだな?確かにこの体は魔物のものであるがな、これ程に可愛い魔物他にはいないだろう?あのルクスの溺愛っぷりを見てもいかにこの魔物がチャーミングかを物語っておるではないか」
ああ、そういうこと。
「つまりお前の美的感覚もかなり狂っていると、」
「は、はぁ!?ふざけるな!撤回しろ!今すぐその発言を撤回しろ!?」
「ところでバンキスよ、貴様なにゆえその力を秘匿する?」
少しした後、サンちゃんは話題を変えてそんな事を尋ねてきた。正直に話そうか一瞬迷いはしたが、俺の能力についてある程度はバレているようだから今更隠す意味もないだろうとは俺、
「誰とも争いたくないんだ」
などと、平和主義者的発言を口にした。また続けて、
「できる事なら一生凡人として暮らしたいんた。言わば、隠居生活というやつを俺は所望しているわけだよ」
という願望に嘘はない。それこそ俺はその為にだけに魔槍グングニルを使いたいとはそう考えていた。聞く人が聞けば「お前は馬鹿かもったいない」と、俺の能力の無駄活用についてお説教したいところだろうが、俺は俺でエラく真面目に考えた末の答えなのである。
さて、では俺のそんな凡俗なる答えについて、この大精霊様は何を思うのかについて予想してみようじゃないか。といっても?態度からして随分と偉そうで、人間の事を下等種呼ばわり、終いに大の女好きという絵に描いたような屑っぷりに大体のお察しはついていた。
つまりだ、どうせお前は俺のことを「アホウ」呼ばわりする、違うか?
「…成る程な…下等種にしては中々良い心掛けである…」
違っていた。俺の予想とは180度異なるその言葉には心底驚いてしまっていた。
「なぁサンちゃんよ、窓から落ちた衝撃で少し頭イカれちまってやしませんかね?」
「無礼な!?あれしきのことで我の偉大なる魂に傷一つ付くわけもないわ!」
だそうだ。
「いやな、我はてっきり貴様の事だから世界征服でも企んでいるのではないかと思っていたんだがな、」
「馬鹿言うな」
「でもそうか、世界征服をも夢ではない程の力を有しておきながらその力は使わないと、そういうんだな?」
「ああ、さっきも言ったが俺は争い事が苦手でな。この力を争いの種にはしたくはないんだ」
「くくく、低脳な下等種族とは思えぬ素晴らしい意見だ。貴様の言うように過ぎたる力は大きな災いを呼ぶ。故に大いなる力を持つ者にはその行いに責任が伴うと、」
「いやいやいやそこまでは言ってねーよ。ただグングニルの存在を知られたら単純に俺が困るってだけ。だったら初めっからこんなもんなかった事にしてしまえばいいんじゃないかってさ、そう思うんだ」
「ふむ…じゃあ聞くが、もしも、その力を使わなければならない時が訪れた時、再び貴様はその力を使用するのか?あのレッドドラゴンを葬った時のように、また」
「さぁ、どうだろうか?ただ、もしも俺目の前に立ちはだかるってんならそれも止むなしとは考えている」
「それが自身の首を締めていたとしてもか?」
「…なにが言いたい?」
「ふん、つまりこういうことだ。貴様は力を隠したいと言っておきながらその力を持ってしてレッドドラゴンを滅した。それによって世界が今どのような動きを見せているのか…いくらアホウな貴様とて理解しておらぬわけではなかろう」
サンちゃんはニタリと笑って、
「世界が薄々とは貴様の力に気付き始めている」
と、不気味な笑い声混じりに言った。途端に空気が変わったように思えた。少し、俺は震えていた。
「その力を使えば使うほどに、世界は貴様という神の存在を探し出そうとするだろう。それは我とて同じ事が言える。というのもだ、今でもこの世界には我の力を欲し理由しようと目論む輩はごまんと存在する。故にかつての我もまた貴様と同じようには考えた。その力を自ら禁じ、決して下々の世界事情には介入してはならぬと…それが災いの種になるものだとよく知っていたからな」
「じゃあ、どうしてまたこの世界に姿を現したりなんかしたんだ?」
と、そう尋ねた俺にサンちゃんは「一緒さ」とは即座に答えて、
「貴様と同様には、その力を使わねばならぬ時がきてしまったという、ただそれだけのことだ。そうじゃなきゃあの娘が死んでいた」
ルクスの事か。
「それだけは容認できなかった。何せ我はあの娘を幼少時から見守ってきたのだ。その健やかなる成長過程を拝んできて、そしてこれからもっと立派な大人の女性となって私の目を保養してくれるだろうそんな時に…あろうことか下賎な魔物共が村を襲撃してきおったのだ!あの時に抱いた苛立ちとは言葉では言い表せぬ!」
「そうか、ルクスの住んでいた村にも魔物が…って、お前だからその不純動機どうにかしろよ!?」
「五月蝿い黙れ!我はな!?女子がこの上なく好きなのだ!そこだけは譲れん!女子の為ならこの力…大精霊として賜った神の雷をいくらでも撃ち込んでやる!我の覇道を邪魔する糞どもに遠慮などしてられるか!」
「はぁ、もういい。お前の気持ちを理解しようなんて思った俺が馬鹿だったよ」
「ふん…貴様如きに理解してもらおうなどとは微塵も思っておらぬわ」
と、そこで話し合いは終了。ようやく静寂を取り戻した室内。そしてそのすぐ後にもサンちゃんは「ルクスの元へ戻る」と告げて部屋を後にしようとして、去り際、
「バンキス、大いなる力には大きな責任が伴う…そこだけは見誤るなよ?」
などと、やっと大精霊様らしきセリフを最後に俺の前から姿を消した。
言いたいことは理解した。要するに、グングニルを使えば使うほどに俺の望む平凡なる日常から遠ざかっていくと、そう言いたかったのだろう。全く、お節介な大精霊様だこと。
でもそうだよな。確かにレッドドラゴンの件は些かやり過ぎたとは俺も反省していたところだ。あの件のせいで巷では[竜墜の投擲者]改め[ゴッド様]などという神の偶像探しに躍起になっている。それはシリウス街から遠く離れたこのカルママルク街にも広がりつつあるようで、
先程、宿屋のフロントで冒険者達がこんな事を噂していたのだっけな。
『おい、どうやら例のゴッド様がこの街にいるかもしれないらしいぜ!?』
全くそんな情報どこで聞いてきたのか…考えたくもない。
とりあえず、俺は寝た。




