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 俺は夢でも見ているのか?


 俺は目線先にあるそれをまじまじと覗いて、そう思った。


「な、何で永久保存版ペトロちゃん(改)がここに…」


 昼下がりの午後、俺は宿屋にて一人細やかなるひと時を満喫するつもりであった。早く見積もっても問題児達(マルシャ、ルクス、ガイル)が帰ってくるのは夕方辺りになるだろう。それまでは思う存分一人の時間を堪能できると高を括っていた俺、どうやら見通しが甘かったみたいだった。


 その事を突きつけるかのようにはいつの間にやら部屋の片隅にそいつは配置されていた。名称[永久保存版ペトロちゃん(改)]、そのグロテスクな表情はいつ見ても慣れないもんだ。またただでさえ酷いその容姿も相まってかいきなり現れた永久保存版ペトロちゃん(改)とはただただ不気味である。


 そんなホラー色満載の魔物の剥製とはどうしてこんな場所にあるのか?


 問題はそこである。


 ルクスが置いていったのかーーーという線が一番あり得る可能性ではある。が、ではそのルクスがいつこの部屋に訪れたという件について謎が残る。そういうのも俺はルクスがここに訪れた事実を知らないし、仮にルクスが入ってきたというのであればまず気付かないわけがないのだ。以上踏まえ、最も可能性が高いと予想された『ルクスによる可能性』は早くも破綻していた。


 いやはや実に不気味な事案、怪奇現象である。できる事なら今すぐこの得体の知れない物体ペトロちゃん(改)を窓の外へと投げず捨てしまいたい気分にかられてしっていた。と、次の瞬間。


「おい」


 声が鳴った。そんな声の発生場所について、永久保存版ペトロちゃん(改)の方からだとは嫌でも理解している俺。では何か?ペトロちゃん(改)が独りでに喋ったと、そういうことなのか?


 馬鹿馬鹿しい。そんなことあり得るわけねぇだろ。大体だ、あれは剥製。ただただ気持ち悪いだけの魔物剥製だ。低級魔物如きの剥製になぁにビビってんだ俺、そんなんだから聞こえもしない声を聞いたりしてな。


 そう、言わばこれは俺の恐怖心に生まれた幻聴。そして俺の視界に映るペトロちゃん(改)とは幻覚。全ては俺の心の闇が生み出された醜き幻に違いないのだ。


 だったら話は早い、シカトしよう。そう決意した。


「無視するなアホウ」


 まただ。幻聴が聞こえる。どうやらここ最近の俺とは自身が想像していたよりも遥かに疲れていたらしい、幻聴はその為だろう。うん、間違いない。


「あー何も聞こえねーな。そりゃそうか?だってこの部屋には俺一人しかわけだし?ああ何も聞こえねぇ」


「それは我に向けて言っておるのか?」


「はぁ?んなわけねーだろ、独り言だよ独り言」


「成る程、だったら既にその理屈は破綻しているぞ?何故ならこうして貴様と我との対話は成立しているのだからな?」


「認めない!断じて俺は認めない!」


「はぁ…どうやら貴様は真性のアホウで間違いないみたいだな」


 認めない認めない認めない…





 ガイル曰く、魔物から魔素を抜き取りさえすればそれだけで魔物の剥製は完成するのだという。魔素とはその名の通り魔力を構成する素のようなものであり、故に体の殆どが魔素である魔物とはかなりシンプルな生物なのだと、ガイルはペトロちゃん(改)を製造する時にもそう教えてくれた。


「でだ、そんな魔素の塊みたいなお前とは魔素を抜かれてただの剥製となっていた筈だが…」


 俺は目の前にいるペトロちゃん(仮)を見て言った。どちらかと言えば「話が違うぞ?」とは尋ねる形で、そんな言い方で。すると、


「貴様が疑問を抱くのも無理はない。ただ言えたとして、我はこの魔物とは別存在であり、魔素を失い自我を失ったこの体に憑依しただけの言わば霊体というやつだ。これで少しは理解したか?」


「ああ、ほんの少しだけどな」


「それでいい。そもそも人間如きに我の崇高なる意思などが伝わるわけはないのだからな。最も、貴様は普通の人間とはちと毛色が違うようだが」

 

 と、まるで俺の身の上事情についてを知っているような口ぶりだった。次にペトロちゃん(改)は俺の頭にヒョイッと飛び乗ると、


「成る程、これは物凄い魔力量だ。大精霊である我以上の…いや、そんなレベルの話ではないのか?」


 などと勝手に何かを悟った様子。いや待て、俺の頭に乗っただけでそんな事わかるのか?それに今、大精霊が何とか言っていたが…


 大精霊と聞いた俺の脳裏に、とある[大精霊サンダルフォン]の存在とは過ぎる。


「すまん。これは単なる俺の憶測なんだが、」


「何だ?」


「お前、もしかしてサンちゃんか?」


「いかにも、我こそが五大元素霊がその一角『大精霊サンダルフォン』である。ただ言わせてもらうが、その『サンちゃん』とかいうネーミングセンスはどうにかならんか?」


「いやいや、それはルクスにでも言えよ」


「無理だ。あやつは我の話が通ずる程賢い頭は持ち合わせておらん。ただ果てし無くアホで可愛くて人より魔力が幾らか高いという、ただそれだけの理由で我に選ばれた愛しい娘なのだからな」


 うん、酷い言われようだ。大精霊の有難いお言葉とは到底思えない。


「でもそうか、お前があのサンちゃんなのか…」


「だからそのサンちゃんはやめろ。我の存在価値が下がる」


「じゃあペトロちゃん(改)で」


「貴様は馬鹿か!?それではサンちゃんの方がまだマシだ!?」


「ならもうサンちゃんでいいか?」


「ふん…まぁいいだろう。名など我からすれば記号のようなものに過ぎないからな…」


 いやいいのかよ!?


「我の寛大なる御心に感謝せよ下等種!」


 と、ペトロちゃん(改)の体を借りた大精霊サンダルフォン改めてサンちゃんは偉そうに叫んだ。そんなサンちゃんを頭の上に、ほんと有り難みのない大精霊様だとは言わないでおこうとは俺、その代わりといって重たいため息をつく。これ以上付き合ってられんからな。


「でもよ、また何でペトロちゃん(改)の体なんかに憑依してんだ?」


「おお、良くぞ聞いてくれたな。危うく目的を忘れるところであったぞ。そう、わざわざこの我が魔物の残骸に憑依してまで現界したのには理由があるのだ。それはバンキス、貴様に頼み事があったからだ」


「俺?」


「ああ、その通り…時にバンキスよ、貴様…女子は好きか?」


 いきなりだ、この大精霊はトンデモない事を口走った。


「いやな、我は女子がこの上なく好きなんだがな、」


 知るか!てか大精霊様がそんな調子でいいわけ!?えらく軽いノリとテンションだなぁおい!?


「バンキス、お願いだ!我がこのペトロちゃん(改)に憑依していることを…しばらく、いや、永久に黙っていてほしいのだ!」


「すまん、お前がいきなり訳のわからない事を言いだすから俺の脳味噌がついていけてない」


「まだ分からぬのかこのズボラが!?つまりだ!我はこのペトロちゃん(改)の体を利用してルクスと…そこにマルシャちゃんやガイルちゃんを交えた美少女三人衆によるイチャイチャ冒険ライフを送りたいと、そう申しておるのが何故分からぬ!?アホか、貴様はやはり真性のアホウなんだな!?」


「アホウはお前の方だろうが!?じゃあ何だ、お前はただそんな不純動機を遂行する為だけにわざわざ現界してきたのか!?」


「当たり前だ!」


 ああ今理解したよ。いやずっと前から薄々わかっていた事ではあるが、このサンちゃんという大精霊はかなりのど変態だ。何故大精霊という偉い地位についているのか激しく疑問を抱くぐらいには狂った野郎なのだ。


 固唾を呑んだ俺が馬鹿だったよ。


「てかよ、それを何故わざわざ俺に告げる必要があった?別に言わなきゃ俺はお前がペトロちゃん(改)に憑依してるだなんて分からなかったわけだが?」


「何を言うか白々しい。貴様は確かにアホウだがその内に秘めたる力は本物だ。悔しいがこの大精霊サンダルフォンである我を凌駕する程にな…そんな貴様が我の存在に気付かないわけなかろう。何故なら我は神により近しい存在…全く遺憾ではあるが貴様と同等であるとはここに認めようと思う」


「いや勝手に認めないでくれ、勝手に変態と同等にはしないでくれ…」


「いい…遠慮するでない。そして有り難く思え下等種バンキス、貴様はこの世界に於いて唯一大精霊であるこの我に認められた人間であるぞ」


 と、サンちゃんは俺の頭から飛び降りて、俺の膝へと降り立ち、


「これより貴様を我の同志とは任命しよう!」


 などと、ふざけた事を言うもんだから俺はすぐ様サンちゃんの憑依したペトロちゃん(改)の体を摘み上げると窓の外へと投げ捨てた。後悔はない。むしろこれで良かったとは自身を褒めたい。


 災難は続く。


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