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14話


 レッドドラゴンの背から降りるのには誠に苦労した。マルシャが一人飛行魔法とやらで軽々と地上へと戻る最中、俺はレッドドラゴンの巨体をまるで下山気分で降りなきゃならないわけだったからな。


「だから一緒に降りようって言ったんじゃない!」


 地上へ戻ると、そんな悪態を吐くマルシャがプンプンとした様子で待っていた。何でもかなり待ったらしく、気付けば空が綺麗なオレンジ色に染まるぐらいには時間が経っていたらしい。いやどうして、命綱もなしにレッドドラゴンの巨体を降りたのだから時間を気にする余裕すらなかったわけだよ。


「だから一人で戻れって言ったんじゃないか?」


「はぁ?忘れたの?あんたさっき街に戻ったら一緒に剣を買いに行こうって約束したじゃない!」


「ああ、そんな約束もしたかな…」

 

 すっかり忘れたよ。


「あと、少しお金を貸してくれるとも言ったわよね?」


「……はぁ、確かに言った気がする」


 こいつ、鼻っからそれが目的だったのでは?





 街での買い物(マルシャの剣を買うだけで俺の予算を含め全てが吹っ飛んだ)を終え宿に戻ると、何やら騒ぎが巻き起こっているようである。一体何事かと思って野次馬ってみると、どうやら今朝見た冒険者諸君が言争っている様子。はて、何事かな?


「だからレッドドラゴンは俺が、」


 と、騒ぎの渦中にいる冒険者の一人がそう叫ぶ声が聞こえてきていた。


 ほうほう、これってのはやはり手柄の奪い合いか?そりゃあそうか、人間だもの。仕方ないよなそれ。一時はそんな輩もいないように見えたが、あまりに皆に賞賛されるもんだから手柄を独り占めしたくなったと、そんなところだろうか?


 いやぁ人の強欲とは悲しきかな、これが過ぎたる力の結果さ。やはりグングニルは緊急時のみにだけ使用と決意しかけた、刹那、冒険者の言葉が続いて、思いも寄らぬ発言を耳にしていた。


「だからレッドドラゴンは俺が、いや俺たちが倒したわけじゃないんだってば!!」


 あれ?


 首を傾げてみる。そして耳をかっぽじってみる。もう一度彼らの言い争いをよく聞いてみようじゃないか?


「あれは間違いなく俺たちじゃない凄腕の誰かによる仕業だ!間違いない!」


「いやでもよぉ、あの場には俺たちしかいなかったじゃねぇか?なぁ?」


 そう尋ねた冒険者に対し、周りの冒険者も賛同して頷く。それをすぐさま対立する幾人の冒険者達が意を唱え始めた。


「確かにあの場には俺たちしかいなかった…でもな、レッドドラゴンはこの街に来た手前で既に事切れかかっていた!つまりさ、街に来る手前、何かがあったんだ!」


 と、全く正しい事を述べている。うん、その通りだ。全くその発言は正しい。でもな?その仮説には無理があるぞ?仮にそんな事が出来たとして、最早それっての冒険者が凄腕かどうかの次元じゃない。レッドドラゴンをあれ程までボロボロに、しかもそれ一瞬にして行える人物がいたとすれば、それってつまり神様以外あり得なくないか?


 でも神様はこの世界に存在しない。ましてやあの時あの瞬間に限ってレッドドラゴンを倒してくるような都合の良い存在でもない。だからいないんだよそんな事ができる奴は!そう…俺以外はな?


 と、そんな俺の心の声とは冒険者に届くことはなく、彼らの話し合いは続く。


「じ、じゃあ何か…街を救おうとした誰かが…一瞬にしてレッドドラゴンを駆逐してくれたと…お前らはそう言うんだな?」


「そうだと、思っている…」


「でも…そんな奴、この街のどこに…」


「あのぅ…ちょっといいか?」


「お、なんだ?」


「いやな、俺…見ちまったんだよ…」


「見たって、何をだ?」


「いやな、昨晩、俺は忘れ物をして一人街の方へ一旦戻ったんだがよ、その時、時計台の上に…誰かいたんだ…」


 ん?


「誰から暗くてわからなかった。でもそいつ、空に向かって…こう…槍を投げるようにさ…何かを…空に向かって投げ飛ばした感じだった…そしたら次の瞬間…」


 んん?


「あの破裂音を聞いたと?」


「そうだ…あれは多分…いや、間違いなくそいつがレッドドラゴンを葬ったに違いないんだ!俺…ずっと言えなくて…」


「いい…お前の気持ちはよくわかるよ…だってあんな囃し立てられ方したらさ、誰だってその気になるもんさ。俺もそうだったし。でもな、やっぱりこれは俺たちの手柄じゃない…皆んなだって本当は気付いてんだろ!?」


「……神の化身、だったのかもな…」


 んんん!??


「おいおい、なんだそれ?」


「いやな、もしレッドドラゴンを一撃で、しかもこんな遠方から葬れる奴がいたとしたら…それは最早人間じゃない、神の化身だと、そう思ったんだよ」


「成る程な、一理ある。でもよ、いたんだぜ?実際にそんな奴が…この街のどこかに」


「…探そう…」


 や、やめてくれ…


「探すって、お前…」


「だから探そうってんだよ!?だってよ、この街を救ってくれたんだぞ!?しかも名も明かさず、その武功すら俺たちに譲ってくれるような偉大なるお方だぞ!?一時は名声に目が暗みもしたが…こんなん、やっぱよくねぇだろ!?」


「ああ…全くその通りだ…」


「探そう…俺たちで!」


「名も知れぬ『竜墜の投擲者』を、皆で探すんだぁあ!!!」


 いい!そんな事しなくていいから!?やめて、マジやめてくれ!!


「「「「おおおおおおお!!!」」」」


 やめてぇええ!!!!




 こうして、街は一時騒然となる事になる。それはレッドドラゴンを一撃の槍にて下したという名も知れぬ存在、その異名を『竜墜の投擲者』というむっちゃカッコ良い奴を探して。


 そこ、笑っていいぞ?俺も失笑しているところだ。


「そんな人がこの街にいるなんて…ニワカには信じ難いかですが…」


 宿の一室にて、ルクスが驚愕めいた口振りではそう言った。無理もない、そんな奴がいたら英雄だ。いるわけないそんな奴。


「そうよ、信じられるわけないわそんな奴!」


 と、恨めしそうに言ったのはマルシャだ。そうそう、その意見には俺も同調するぞ?


「いや、いたのでは?」


 と、俺を横目にそいつは悪戯な笑みを浮かべた。ガイルだ。


「お、お前~」


「いやいやいや、冗談!いないぞい?多分?」


 くそ、さっきのお返しとばかりに俺を落とし入れる気かよ!?そうはさせるか!


「ガイル、ちょっと二人で話をしよう。そうしよう」


「ぞい?」


「いいから、はよ」


「ぞいぞい?」


 俺はガイルの手を引いて部屋を出た。ルクスの不可思議そうな瞳とマルシャのジットリとした眼差しを背に受けて。


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