12
次の日、シリウス街はお祭り騒ぎとなっていた。いつもの陰鬱なふいいんき(雰囲気)とは一転して人々の顔に笑顔が咲く。
その理由については議論も余地もないだろうレッドドラゴン討伐という偉業を成した冒険者達がきっかけであり、彼らとは民衆に囲まれ賛辞の嵐でいたせりつくせりといった様子だった。
で、俺たち四人はその嵐の中にはいない。遠く離れたカフェに腰掛け、その様子を側から見ている。
「行かなくていいのか?」
俺はマルシャに尋ねてみた。次にルクスにも同様のセリフを向ける。
「いやいや、だって実際私たち何もやってないし?ねぇルクス?」
「え、ええ…レッドドラゴンの姿が見えたと思ったらその時には既に瀕死な様には見えました…サンちゃんも『あれはどこぞの馬鹿がやったことだ』と意味不明な事を申しておりますし…」
「…そうかそうか、ではルクス、サンちゃん様にその『どこぞの馬鹿』様については一生触れてくれるなと進言しておいてくれ」
「何故?」
「何故も何もない、レッドドラゴンを葬れる存在などこの街には誰にもいなかったからだ。故にそんな野郎は存在しない、違うか?」
「まぁ、そうでしょうが…」
ルクスは腑に落ちなそうな顔を浮かべた。何か思うことがあるのだろうか?まぁいい。
にしても大精霊様とやらはどうやら俺の力についてを知ってるっぽい。またその力を俺が秘密にしていることも。助かったホッとする反面弱みを握られたと悲観する俺がいる。今度からはサンちゃんに最大の敬意を払うこととしようじゃないか?
結局、レッドドラゴン討伐について『我こそがレッドドラゴンの討伐に一躍を~』と名を上げた冒険者はいなかったようだ。それ故に民衆に祭り上げられている冒険者達の表情はどこか浮かばれない風である。ただその場に居合わせたのは確かだからああしているが、彼らも『本当にこれでいいのか?』とは思っていることだろう。
さて、災厄と言われていたレッドドラゴンは死んだ。時期このシリウス街には世界から名のある冒険者諸君や何処ぞの偉い方々が集まってくるだろう。というのも此度のレッドドラゴン討伐については既に全世界に向け情報が広まっているらしいからだ。
まさかこんな世界の隅の寂れたシリウス街が日の目をみるとは誰が想像しただろうか?
「いやぁにしても凄い賑わいだぞい!これも全てバンキス殿の手柄!流石ですな?」
と、いきなりふざけた事を言い出したガイルの頭を小突いてやった。
「こらこらガイルちゃん?あまり無能なる俺をからかわないでくれる?ん?」
「お、そうであった…悪いぞい」
はぁ全く、ほんとに大丈夫かこいつ…
「バンキスの言う通りよガイル?これ以上バンキスの無能性について話したらバンキスが酷く傷ついてしまうわ?そういうはナシにしましょう!私たちは背中を預ける仲間!家族なんだから!」
すかさずマルシャがそう言って、ルクスが感激、ガイルはうんうんと頷いて、俺はため息を零した。もういいやい…
「まぁいい、それよりも問題はこれからどうするかだが…時期、このシリウス街にはたくさんの者達で溢れかえることだろう。俺としてはその前にも旅立ちたいと考えているんだが…どうだろうか?」
「そうね…この街に留まり続けても意味ないし?仲間も集まったことだし?」
「では、いよいよ…ですね?」
「おお!旅か!?ぞいぞいぞーい!」
皆の意見もどうやら一致したようだ。ここまではいい。問題は、
「では、何処に向かうかだが…」
と、言い出した俺にすぐ様マルシャは反応、
「無論!魔王城のある中央大陸でしょ!?」
そう豪語した。異論はなかった。というのも、俺が真に行きたい目的地グランデリアとは魔王城を越えていく必要があったからだ。つまり嫌でも魔王城を無視できないと、そういうことである。
「俺もマルシャに同意見だ。二人はどうだ?」
ルクスとガイルへと促す。
「私は皆様にどこまでもついて行きますよ!?」
ルクスは特に問題はない様子。問題があるのはルクスではなくて、
「わ、私は…反対ぞい!」
ガイルだ。うん、わかってたよ。だから聞いたんだ。
「因みにどうして行きたくないか…聞いてもいいか?」
俺はニヤリと悪い笑みでガイルを見た。そんな時に見せたのガイルの驚きようと言ったら凄まじいもので、
「なっ!?バンキス殿!?」
約束が違うとは言いたげな瞳で俺を見る。予想通りの反応、ニヤニヤが止まらないぜ?
そう、これはいわば先ほどのお返しというやつだ。ウッカリにしても俺の秘密を口出してしまいそうになったそのお返し。これで少しは懲りてくれたら助かるのだがね?
「ああすまんすまん!別に深い意味はないんだガイル!気にしないでくれ!でもそうだよなぁ!?いきなり魔王城に向かおうってのは確かに無理があるしな!?ガイル、お前はまず魔王城にいく前に色々と世界を巡って経験値を貯めようと、そう言いたいんだよなぁ!?」
白々しく言ってみせる。すると、
「く…バ、バンキス殿…の…言う通り…ぞい…」
ガイルが歯がゆそうには口元を歪めて言った。よし、これでいい。ガイルは元魔王軍であるからに魔王城は死んでも立ち寄りたくないという、そんな弱みに付け込んだ俺の勝利である。
何はともあれこれでシリウス街を旅立ち算段は整った。晴れて俺の冒険はスタートする。不安要素を存分に孕んではいるが、それもまぁ仕方ないとは割り切りことにしよう。
「ということだマルシャ、今日にも旅立つか?」
「…いやいや、あんた何でそんな乗り気なわけ?」
「そうか?」
「めっちゃ怪しい…」
「おいおい、魔王城に行くって言い出したのマルシャお前自身だぞ?それに俺は賛同しただけだ。出来るなら無能なる俺はもう少しこのシリウス街に留まって冒険者としてのレベルを上げてから旅立ちたかったのだが…それも仕方ない!全てはマルシャ、とその仲間達であるお前らの志に推されて俺は旅立ち決心がついた!偉大なるお前らと仲間になれたことを俺は心より光栄に思うぞ!」
「…ほんとかしら」
「まだ言うか?この俺の目を見ても同じ事が言えるのか!?んん?」
と、マルシャに顔を近づけて、途端に顔を真っ赤にさせたマルシャの平手が俺の頰を打ち抜いた。
「馬鹿!顔近い!!」
「な、殴るこたぁないだろ!?」
「ふん!ほんとデリカシーのかけらもないんだから!」
マルシャ、ご立腹な様子。
一体俺の今の行動のどこに誤りがあったか聞きたいね。




