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「まず自己紹介から!!私の名はガイル=ガイガー=ハイブリット!!長いからガイルと呼んでいいぞ?」


「ああそうかい。俺はバンキスだ。これからよろしく頼む」


「おお…バンキス殿…よろしくぞい!!」


「よろしく。じゃあ、死んでくれ」


「ちょ、おま…ホント待った!タイム!!」


 結果から言おう。一先ず俺はその全身鎧野郎ーーガイルを殺さないでやった。とりあえず時計台から降りて、そして今から殺すところだ。


「何だよ、まだ死ぬ覚悟が付いてないのか?」


「あったりまえぞい!?貴殿ちょっと血気盛ん過ぎやしませんかね!?」


「そうか?これでも俺は無気力で無能な底辺冒険者とは名の知れたバンキスなんだけどな…」


「じゃあ尚更待って下され!!てかそんな実力があって底辺冒険者って…」


「そうなんだよ。そこが一番の問題なんだ…俺の最大にして墓場まで持っていかなければならなかった秘密を今さっきお前に見られてしまった…だから、殺す」


「分かった分かったぞい!ではこうしよう!!この事は二人だけの秘密!!内緒!!それでよろしくない!?」


「いやよくねーよ!!内緒事ってのはその実、人に話すために生まれた都合の良い言葉だと俺は知ってんだからな!?そういうのもだ、俺には昔好きだったミユっていう女の子がいたんだがな…その事を大親友のジョセフに「内緒だぞ?」って話したんだ。それなのに次の日、ミユに全てがバレていた!何故か分かるか!?分かるだろ!?つまりはそういうことだ!」


「いやいや唐突にどうした!?確かにトラウマなのは分かるが話飛躍し過ぎでしょうが!?因みに私にもそういう経験あるぞい!?」


「そうか!なら分かるだろ!?俺があの時受けた辱めを…ミユに「うわ…きも」ってジト目で見られる苦しみがお前にも存分に伝わっただろうが!?」


「ああ、もちろん!」


「じゃあ死んでくれ」


「だからやめれ!?」


 必死な態度で俺を制止させるガイル。


 とりあえず、俺は落ち着くことにした。何だか疲れてきたからである。


「はぁ、分かったよ…仕方ないから、数刻ばかりは生かしといてやるよ…」


「ぞい…その時が二度と来ない事を切に願うばかりである」


「ないない。でもとりあえず今は中断したから安心しろ。でだガイル、お前ついてを聞かせろ」


「…ああ、もちろんだとも。バンキス殿の秘密を知って私だけ内緒にするのは良くないからなぁ」


 と、ガイルが途端に背負っていた大剣を抜いた。


「お、おいまさかそれで俺を殺そうってのか!?」


「違う!全く、その疑心暗鬼さには全く感服せざるを得ないぞい…そうじゃなくて、ここ」


 ガイルは大剣の刀身の、言えば柄よりの刀身の根を指差した。そこには見た事ないマークが刻まれていて…うん?これは何だ?


「あれ、分からない?」


「ああ、全く」


「え、嘘…いやちゃんとよく見て?これぞい?」


「どこ?」


「だからココだってば。ぞい」


「いやココだろ?だからさっきから知らないって言ってんだろ」


「あ、あり得ない…いやいやこれ見たら普通何か思い出すよね?いや思い出さないにしてもピンと来るぐらいはある筈でしょ!?ね、ね、ね?」


「ない」


「嘘!ちゃんと見る!こっこ!?ぞい!」


 と、ガイルは語気を強めて言って、そして、


「魔王軍のエンブレムを見て何も感じない冒険者ってどういうこと!?」


 と、トンデモを言い出した。聞き間違いかな?


「魔王軍の、エンブレム?何それ、美味いの?」


「食べ物じゃないぞい!」


「じゃあ、何?」


「だからエンブレムだと言っている!!」


「ふーん、じゃあ…って、えええええ!?」


 驚いた。心底驚いた。もう少しでチビりそうだった。危なかった。


「待て、ということはつまり、お前は…」


「そう、私は魔王軍…だった者ぞい!今はこうして魔王軍から脱走してきた最中なのである!」


「へ、へぇ…」


 つまり脱走兵、ということでいいのか?いやいや何でまた…


「脱走の理由についてを、聞いてもいいか?」


「喧嘩ぞい」


「ん、喧嘩?」


「そう、喧嘩。お兄ちゃんと喧嘩してしまったのだ。だからムカついて、脱走してやったんだ?ぶはははははは!!」


 ガイルは野太い笑い声をあげた。待て、そこ全く笑うとこじゃないからな!?


「おいおい、待てとんでもない奴に秘密を知られてしまったもんだなぁ…てかなんだよお兄ちゃんと喧嘩って、餓鬼か!?」


「餓鬼ではない。ガイルぞい!」


「う…ま、まぁいいや…お前がどことなくそんな奴だという事は分かったよ」


 要するに、馬鹿だこいつ。


「でだ、それがお前の秘密ということか?」


「そう、誰にも知られていけない、大事大事な秘密である…もしも誰かに知られてしまえば…私は冒険者からも魔王軍からも付け狙われる哀れで惨めなポンポコピーになってしまうことだろう…」


 いきなり重たい口振りではそう言って落とすガイル。何だか知らんが、かなり切羽詰まった奴だというこてだけは分かる。


「な、成る程な…それはとんでもなくヤバイ秘密だ…」


「だしょ!?分かってくれるか!?」


「ああ、分かる…分かるとも…」


 秘密を抱えるって事はかなり辛い事だと俺自身がよく知っている。しかもその秘密が生死が左右されるものであれば尚更に苦しいこともな…


「ガイル…その…さっきは何か悪かったな…」


「いやいいんです!気にしないでくれバンキス殿!お互いヤバイ秘密を抱える者同士、これから仲良くしようじゃないか、ぞい!!」


「ああ、もちろんだ!!」


 俺はバンキスとガッチリ腕組みを交わした。よく分からんが親近感が湧いたからである。と、固い固い友情が芽生え始めようとしていたーーー次の瞬間、


「あ、あんた達何やってるわけ?」


 呆れ声。それがマルシャのものだとは俺のよく知るところで、見ると、そこにはマルシャとルクスの姿があった。


「お、おうマルシャ!無事だったか!?心配したぞ!?」


「いやいや何もやってないんだけどね…てかあんた逃げなさいって言ったのにこんな所で何やってんの?怪しい鎧のオッサンなんかとじゃれあってさ…」


 と相変わらずマルシャは呆れた声で、


「バ、バンキス様…感動の再会が台無しですよ!?ま、まさかそんな趣味があっただなんて…」


 ルクスは顔を真っ赤にして何かを誤解してやがる。いや待て、違う!お前らは激しく誤解している!これには秘密がある!そう、秘密がな!?でもこれは誰にも話してはいけないかなり大事な秘密だから何も言えないがな!?


「ち、違うんだマルシャにルクス!?よく聞いてくれ!?これは…その…あれだ!」


 次の瞬間、俺は咄嗟の言い訳を口にしていた。


「彼は…俺たちの新しい仲間なんだ!!そう、仲間なんだよ!!さっきそこでバッタリ会って意気投合してな!?それで一緒にレッドドラゴンを退治にいこうとして、だよなガイル!?」


「え、えええ!?あ、ああ!その通りぞい!!バンキス殿の言っている事は一文字一句誤りなどない!?そうだ!!我々は仲間!!」


 すぐ様ガイルは俺の言い訳に話を併せてくれた。まじ助かるぞガイル。


「ほ、ほらなマルシャ!?言ったろ?」


「…てか勝手に話進めないでくれる?何よいきなり仲間って…ねぇルクス?」


「…ま、まぁ…でも、その、ガイル様?、でしたっけ?」


「ああ、その通りぞい!」


「あ、ではガイル様…貴方からは並々ならぬオーラを感じます…逞しく強い、それこそ歴戦の戦士といった風格ですね、はい」


 そう言ってガイルを見つめるルクスの瞳はキラキラと輝いていた。何かよく分からんが、ガイルの風体に感動している様子。


 でも確かにルクスがそう感動するのも無理はないように思った。何故ならガイルとは見た感じ滅茶苦茶強そうで、身長は2メートルはゆうに超えているだろう立派な体格に、鎧を着ているからに姿までは分からんがその鎧の下にはさぞガッチリした筋肉が詰まっていることだろうことが伺えた。そうじゃなきゃこんないかにも総重量がやばそうなフルプレートなど着込めるものか。フルプレートとは言わば、それに袖を通すだけで実力者だとは冒険者の相場で決まっているしな?


「だ、だろルクス!?お前もそう思うだろ!?俺もそう思ったからわざわざ土下座までしてガイルを仲間にしたんだよ!!」


「さ、流石ですバンキス様…一人オメオメと逃げたのではなく、その実は私達を助けようとガイル様を引き連れて戦おうとしてくれていたのですね…ああ、神よ、いやバンちゃん、何と素晴らしいことでしょうか…」


 ルクスの言葉を聞いて胸が痛い…実は全くそうじゃないんだが…うん、今は勘違いしてくれているルクスの誤解に甘んじようじゃないか…


「そういうことだマルシャ!お前もこれぐらい強そうな奴なら文句はないだろ?なぁ?」


「ふ、ふん!何よ調子の良い事言っちゃって!確かに?そのガイル?は強そうだし?仲間にしても全然問題はなさそうだし?むしろ助かるってか?」


「やっぱり素直じゃないなお前…」


「うるさい黙れバカ!!」


「な、何だとこの野郎!?」


 と、いつもの言い争いが巻き起こりかけた。いや巻き起こっていた。そんな俺たちに対してだ、「あのぅ~?」とは申し訳なささうに口に挟んだ奴がいた。そう、ガイルだ。


「何だガイル?」


「いやその、貴殿らが勘違いしているようなので…言っておこうと、そう思ったのだが、よろし?」


「ああ、よろしい。何だ?」


「その、実は…」


 と、ガイルが言いかけた、刹那、ガイルのフルプレートがガタガタと音を始め地面へと落ち始めた。一瞬の事で戸惑っているのは俺だけじゃないようで、見るとマルシャもルクスもまた口をあんぐりと開けては拍子抜けを食らっていた。


 そして鎧をパージしたガイルを改めて見て、俺たちの理解は遠く世界の片隅の彼方へと飛ばされていくような、そんな気がしていた。


「あの…私、女ぞい!?」


 そう言って、あわあわとする少女が一人、赤髪の美少女が、そこにいた。


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