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イヤホン

作者: はじめ

イヤホン。

僕は君が好きなんだイヤホン。


君の流線が、曲線が、

僕は好きなんだイヤホン。


黒いツヤ消しの、

温かくも冷たくもないシリコンは、

僕の耳をふさいですぐに同じ温度さ。

細いケーブルもいぢらしい。


イヤホン。

独りになりたい僕の耳を塞いで、

別のホシへ連れてってくれる。

背中を押してくれもする。

ときどき拗ねてか怒ってか、

あんまりちゃんと、

耳を塞いでくれないときもあるけれど。


だけど君が好きなんだ。

そんな君が好きなんだイヤホン。


なのにどうして君は黙ったままなんだイヤホン。

電源は入っているよ。

プラグも挿さっているよ。

曲が始まってるよ。

どうして黙っているんだイヤホン。


僕は知らずに君を傷つけた?

ドアノブに引っ掛けたあのときに?

急いでポケットに突っ込んだあのときに?

ヘッドホンもかっこいいやなんて思ったあのときに?


僕が君だけを見ていたら、

君をもっと大事にしていたら、

もしかしたら。


なんて理由をつけたくなるけれど、

何を言っても君は戻らない。


ほんとはわかってるんだ。

君の寿命はだいたい二年、もって二年。

僕の飼ってたハムスターと同じ二年。

あいつもちょうど二年で逝ったんだ。

あいつは目一杯生きたんだ。

君も目一杯だったんだ。


イヤホン。

いつも僕のポケットにいてくれた。

君と聞いた気に入りの曲。

いつもの道は、ストリングスの草原に。

いつもの空は、パーカッションの海原に。

いつもの雲は、ホーンの風に。

すぐに思い出せるよ、あの日の君と、あの気持ち。

君と歩いた旅の道。


だけど君は、

くったり首を落としたまんま、

黙って「棄てて」と言っていた。


ばかを言わないで。

棄てられるわけなんてない。

温かくも冷たくもない君らしいけれど、

ばかを言わないで、

棄てられるわけなんてないんだ。


どうか僕のそばにいておくれ。

黙ったままでもかまわない。

君と歩いた旅の道、

忘れないから。

忘れないから。


イヤホン。

黙った君は静かに眠る。

生まれは同じ君でもみんな違った。

やさしく丸い性格の、

無邪気でさばけた性格の、

繊細で壮大な性格の、

イヤホン。

イヤホン。

イヤホン。


どんな君も好きなんだイヤホン。

どうかそばにいてくれイヤホン。


イヤホン、

耳を塞いだら、


イヤホン、

同じ温度で、


オルガンの森、


コーラスの彗星、


宇宙、


イヤホン。









イヤホンとハムスターの寿命「二年」は一例です。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 一つのテーマでしっかりと書かれていることに加えて柔らかで広がりのある詞、及び世界観。 繰り返される『イヤホン』がくどくなく、それどころか何度か目にして、最後も『イヤホン』で締めることによ…
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