家族
二人と別れた後、リリスは一人でぶつぶつ愚痴っていた。
「何よ何よ!ユージったら、学園長にデレデレして!」
だが、ふと思う。
それにしてもあの2人本当に仲が良かったな・・・。
まるで初対面じゃないと思うくらいに・・・。
ズキンっ
それを思うとリリスの胸は僅かに痛んだ。
な、なんでこんな気持ちにならないといけないのよ!私とユージは昨日あったばかりの初対面じゃない!
「もう!ホントにユージは昔から女の子にデレデレして!明日あったら許さないんだから!」
そう言ってリリスの姿は寮の中に消えていった。
リリスはこの時、ユージに怒りをおぼえていて自分の発言の違和感に気づくことが出来なかった。もし気づいていたら何故かと疑問に思ったのかもしれない。だが、それは関係のないことだ。右に曲がろうが左に曲がろうが目的地が変わらないのと同じだ。ただ遠回りをするか近道をいくか。これはそれとよく似ている。だから、ここでリリスが気付かなかったのは偶然に過ぎない。右に行ったほうが近い道を左に曲がった、ただそれだけのことだ。
「お、お邪魔しまーす。」
ユージは女の子の部屋ということで少し遠慮がちにドアをくぐり室内に入る。
「ユージさん!それじゃ駄目ですよ!」
入ったらすぐにマヤが頬を膨らませお怒りモードで仁王立ちしていた。
「え?何が駄目なんだ?」
俺何かミスでもしたのだろうか・・・。靴はマヤを見る限り脱がなくていいみたいだし。ちゃんと挨拶もしたしな・・・。何が駄目だったのか見当がつかない・・。
「マヤ、何が駄目だったんだ?直せることはするから教えてくれないか?」
俺は腰を下ろし困った顔をして尋ねてみた。
「ここは今日からユージさんの部屋でもあるのです!そんな、お邪魔しますなんてそんな遠慮は駄目なのです!」
なるほどな。挨拶をすることには目を向けていたが挨拶の仕方には目を向けてなかった。
ということは、この場合の挨拶は・・・。あれだな!
「気付かなくてごめんなマヤ。意味がわかったよ。ただいま、マヤ。」
「お帰りなさいです、ユージさん!」
挨拶をやりなした俺にマヤは元気いっぱいの無邪気な笑顔で挨拶を返してきた。
やっぱりこれで正解だったようだな。
祐二はニコニコ笑うマヤの頭を優しく撫でてやった。
「わふ~ん♪」
よほど気持ちよかったのかとても切なさそうな声を出していた。
「ユージさんの手で頭なでなでせれるのとても気持ちがいいです~」
「そうなのか?」
「そうなのです!」
「なら、これはどうだ!こちょこちょこちょおお!!」
「あ、あはは!!ゆ、ユージさん!く、くすぐったいのですーー!!」
俺が腋をこちょばすとマヤはお腹を抱えて苦しそうに笑い出す。
やばい、なんかこれ楽しいぞ・・・。
そんなことを考えた矢先だ、隙をついてマヤが反撃してきた。
「お返しなのですーー!!」
「わ、やめ・・・。あはは!!ちょ、マヤ!こちょばいって!」
「やり返したらやり返すのがマヤの流儀なのです~。」
その後このやり取りは十分も続き、2人とも笑い疲れるまで続いた。
「ふー、流石に疲れたな。」
「はい疲れたのです~。」
外はもう日が沈み始め辺りはすっかり夕暮れになったいた。俺たち二人はあの後、マヤが用意してくれたユージの身の回りの物を整理していた。使ってなかった部屋をユージが使用するため、掃除が必要で今の今までかかったということだ。
「今日はこの辺にしとこうか大体の物は整理出来たし後は自分でやるよ。」
「わかったなのです。」
グ~
掃除で張り詰めていた気が緩んだせいだろうか、2人のお腹が同時になる。
「そういえばもうそんな時間か。」
「そろそろ、晩御飯にしましょうか。」
「あぁ、そうだな。」
「では作ってきますね~」
「ちょっとまて、俺も手伝うよ。」
「いいのですか?」
「おいおい、マヤもう忘れたのか?」
「?なんでしょう?」
「マヤは俺に遠慮するなって言ってくれたんだ。だからマヤも俺に遠慮する必要はないんだぜ?俺がマヤと一緒にいるうちは俺たちは家族なんだからな?」
「あ・・・。」
するとマヤは大粒の涙を目元に浮かべだす。
「お、おい?どうしたんだ?」
祐二は心配そうに声をかける。
「だ、大丈夫、なのです。」
マヤは手で涙をぬぐいつつそう答える。
「少し昔のことを思い出してただけなのです。」
「そうか・・・。ならいいいが・・・。」
少し心配であったがマヤが大丈夫というのを信じることにした。
昔のことか・・・。
俺が心の中でそうつぶやくと
「ユージさん」
「ん?なんだ?」
マヤは一呼吸おいてから
「家族っていいものですね。」
目元を涙で濡らしながらそう言うマヤの顔はどこかしっかりとした思いを感じさせるものがあった。
「あぁ、そうだな。」
俺はそんなマヤにしっかりとした声でうなずいた。
「では、ユージさん!お休みです!」
「あぁ、お休みマヤ」
十時も過ぎそろそろ寝ようかという時間だ。寝ること自体は何も問題ない。だがその環境が問題だ。あの後、マヤは俺から離れようとしなかったのだ。それは、食事を食べた後に始まり。そしてお風呂を上がって寝る間際になった今も続いている。
「なぁ、マヤ。ホントに一緒に寝るのか?」
「駄目ですか・・・?駄目なら一人で寝ます・・・。」
俺がそういうとマヤは枯れたようにしゅんっとなってしまった。
うっ、そんな顔されると困るんだが・・・。
マヤのそんな顔を見ているとユージはマヤをいじめてるような気分になってきて、遂には折れてしまった。
「わ、わかったよ。一緒に寝よう。そのかわり誰にも言うなよ?恥ずかしいから。」
「はい!わかったのです!」
そう言って明るい顔に戻り、マヤは祐二の腕にベッドの中で抱き着いてくる。抱き着いてきたマヤの体はとても柔らかく、とてもいい匂いがした。まだ12歳だから抱きしめたら折れてしまいそうな小さな体だがそこには確かに少なからず確かな女の子としてのふくらみもあり祐二はマヤも女の子なんだと再確認した。
「ま、マヤくっつきすぎじゃないか?」
「家族はこれくらいくっついても大丈夫なのです!」
「ま、まぁ、いいか・・・。」
半ば、諦め半分に抱き着いてくるのを認める祐二。
まぁ、さっきの後だもんな・・・。少し寂しい気持ちになってるんだろう。今日くらいは大目に見てやるか。
「ユージさんもマヤの事は抱き枕だとでも思って抱きしめて寝てくださいなのです!」
「いや、流石にそれは・・・。」
「なら、寝るまで頭をさすって欲しいのです。」
マヤは泣きそうな顔で上目づかいでお願いしてくる。
「まぁ、それくらいなら。」
ユージは言われた通りにマヤの頭をさすってやる。しばらく、するとマヤから規則正しい呼吸音が聞こえ始めた。祐二は手を止め、マヤを見つめる。
こんなに小さい子が家族に飢えてるなんてな・・・。
マヤ・・・。お前の過去に何があったんだ。
「パパ、ママ・・・。」
「!?」
そう呟いたマヤの目には確かな涙が流れていた。
「いつかはこの問題解決しないとな。」
祐二は心の中で決心する。今日見た小さな女の子の涙を決して忘れないと。
皆さんのおかげで毎日気持ちよく執筆できています!
この調子で頑張っていきます。
次から、具体的な魔法に入っていくつもりです。