『三日月の猫』
「はい、それでは今日はここまでにしますね。皆さん気を付けて寮まで帰ってくださいね。」
午前も少し過ぎ、お腹が減ってくる時間帯になるころにミラからそう告げられた。
「あれ?リリス、お前の言ってた専門分野ってのは今日はないのか?」
てっきり、午後もあるかと思ってたんだが。
「今日は新学期だから特別なの。いきなり初日から頑張りすぎないようにっていう学園長の配慮よ。」
リリスは机に広がった教科書やら何やらを片付けながらそう返してきた。
「なるほど、そういう事か。」
幼いながら、皆に気を配っているあたり流石学園長と言わざる負えない。
「そういや、もう昼か。朝どころか昨日の昼から何も食べてなくて流石に腹が限界だぜ。」
俺がそう言ってお腹をさすっているとリリスが
「じゃあ、最初にご飯食べましょうか。私もお腹すいたし。」
「おぉ。でもどこで食べるんだ?そういった場所があるのか?」
「えぇ、カフェテリアがあるわ。あと、毎日パンが訪問販売に来ているわ。」
「ほほう、そうなのか。って、俺お金ないじゃん!」
ユージはこの世界にきたばかりである当然お金など持っているわけがない。
「どうしよう・・・。俺このまま餓死か・・・。」
「お、お金くらいだしてあげるわよ!」
「え?いいのかリリス?リリスお金あるのか?」
「それくらい、持ってるわよ!まぁ、沢山はないけど・・・。」
「ほ、ホントにいいのか?」
「えぇ、いいわよ。でも一つ条件があるわ!」
「条件?」
俺が何の条件かと首を傾げていると
「食事は私が賄ってあげるわ。でも、そのかわりに私と一緒にクエストにいくわよ!」
「クエスト?何かの依頼とかのことか?」
「えぇ、この学校ではね申請をだせば専門科目の実習ということでクエストを受けて成功すれば報酬がもらえるのよ。」
「おぉ!そんな素敵システムが存在したのか!」
これで餓死しなくてすむ!などと俺が喜んでいると
「でも、成功しないと意味ないからね?」
「あぁ、分かってるぜ。でもすぐすぐクエストなんて出来るのか?俺まだ魔道のことなんてさっぱりだぜ?」
「そんな今すぐ行こうってわけじゃないわよある程度力がついたら行こうって話よ。」
「なるほど、わかったいいぜ。」
「なら、交渉成立ね。」
俺達は握手し契約成立だということを再確認し
「じゃあ、そろそろ行きましょうか。早くいかないと混んでくるし。」
「そうだな、そろそろ行くか。」
そして、俺たちは教室を出てカフェテリアに向かうことにした。
「いらっしゃいませー。カフェテリア『三日月の猫』にようこそ~」
二人は椅子に腰かけメニューを見るが
「なぁ、リリスここのオススメってなんだ?」
メニューを見ても聞いたことのない材料が使われているものがありどれが美味しいのかよくわからない祐二はリリスに尋ねる。
「んー、そうねー。基本的に全部美味しいけどやっぱり一番人気はチゴの実のパイかしら?」
「チゴの実?なんだそれは?」
「赤い甘酸っぱい実のことよ。このカフェテリアの名物でもあるのよ。」
「ほほう、それなら俺はそれにしようかな。」
「なら、私も同じやつにしようかしら。」
二人の注文が決まったところで店員を呼ぶ。
「すいませーん。注文いいですか?」
「はーい!しばらくお待ちくださーい!」
どうやらお昼時で忙しいようだ。しかし、しばらくすると注文を取りに女の子が近寄ってきた。
「お待たせいたしました!ご注文をお伺いいたします。」
「えーと、チゴの実パイ2つで。ん?この声は・・・。」
「あ!ユージさんじゃないですか!」
「やっぱり、ロロナだったか。」
「何?ユージの知り合い?」
「あぁ、朝知り合ったんだ。ちなみにお前に手紙届けてくれたのこいつな。」
「あ!そうだったの!ごめんなさい失礼なこと言って。」
リリスは慌てたように謝る。
現金な奴だなー。
「いえいえ、これも仕事ですから。では、私お仕事中なのでこれで失礼しますね!注文はチゴの実パイ2つでしたよね?」
「あぁ、頼む。」
「承りました。少々お待ちください。」
最後に一礼してロロナは仕事に戻った。
知り合いにもきちんと接客するあたりロロナのプロ意識を感じるな。
パイがくるまでしばらくかかりそうだったので俺は向かいのリリスとおしゃべりすることにした。
「なぁ、リリス。そういえばお前って専門科目は何受けるんだ?」
ギクッ。そんな言葉が似合いそうなほどリリスは体を硬直させ、視線を明後日の方向へ泳がせている。
「まさか、お前まだ決めてないのか?」
ギクッギクッ。
どうやら本当に決めてないらしい。
「おいおい、大丈夫かよ。決めてない俺が言うのも何だがそれ結構やばいんじゃないのか?」
「うっ。わ、わかってるわよ!でもなんかこれっていうのがないのよ!」
自分でも気にしていたらしく、半泣きになりながら言ってくる。
お前ホントによく泣くなー・・・。
「なら、俺も一緒に考えてやるから泣くな。な?」
ユージは慣れた手つきでリリスの頭を撫でてやり慰めてやる。
「い、いいの?」
「あぁ、いいぜ。どうせ俺も何を受けるか決めないといけないしな。ついでにお前のも考えてやるよ。」
「グスンっ。れ、礼は言わないわよ!」
「あぁ、だけどリリスも俺の専門科目決めるの手伝ってくれよ?」
「し、仕方ないわね!手伝ってあげるわよ!」
「うん、ありがとなリリス。」
俺が笑顔でそういうとリリスは顔を赤くしてそっぽを向いてしまった。
んー。そっぽを向かれると流石に傷つくぞ・・・。
「別にお礼なんかいいわよ。」
ユージったら何よ急に優しくしだして・・・。使い魔のくせに・・・。
あ、そういえばユージ部屋どうするんだろ。他の部屋に行っちゃうんかな?
気になったリリスは聞いてみることにした。
「ね、ねぇユージ。あんた部屋は・・・。」
リリスが部屋のことを聞こうとした時である後ろからユージに誰かが抱き着いたのだ。
「ユージさん!授業初日はどうでしたか?」
「ん?誰だ!?」
ユージはびっくりして後ろを振り返ると
「なんだマヤかびっくりした。」
「なんだとは失礼じゃないですかユージさん?」
マヤは頬を膨らませ怒ったような顔をするがユージが両手で頬を潰してやると空気が抜け変な顔になった。
「あ、変な顔。」
そう言うと2人で面白可笑しく笑った。
「それにしてもどうしたんだ?なんか朝と違って年相応な感じの無邪気さだが?」
「マヤはお利巧なのでお仕事の時は自分を抑えてるんです!立場上無邪気では駄目なんです・・・。」
「そういう事か。ならお仕事を頑張ったマヤさんにはご褒美を上げよう。」
俺はマヤを膝の上に座らせてやる。
「わーい!ユージさんの膝の上なのです!」
「そんなに嬉しいのか?」
「はい!とっても座り心地がいいです!」
「そうか、それはよかった。」
なんか安心したな。マヤもやっぱりまだまだ幼い女の子なんだな。
マヤの無邪気な姿はとても可愛く朝の大人らしさなど微塵も感じさせなかった。
やっぱり子供は無邪気に笑ってるのが一番だよな。
そう思いながらマヤを見て微笑んでると
「じーーー・・・。」
リリスがジト目でこちらをじっと見ていた。
「な、なんだよ。」
「べつにー。」
「なんだよ思ったことがあるなら言えよ。」
「何もないわよー。」
「そ、そうか。」
俺がこの話をそらそうとしたら
「ロリコン・・・ボソッ。」
「おい、今何って言った!?」
「何も言ってないわよ?」
「そんなわけないだろ!今ロリコンって言ったろ!」
「気のせいじゃない?」
「くっ!」
「ロリコンってなんですか?」
マヤが不意に爆弾を落としてきて俺の背中に変な汗が滲む。
「ま、マヤはまだしらなくていいんだよ。」
「そうなのです?」
「あぁ、そうだ。」
12歳の女の子にこの話題は危険すぎる・・・。都条例にひっかかるぞ・・・。
「お待たせしましたー。チゴの実パイ2つですー。」
「あ、パイが来たみたいだぞ!さぁ食べよう食べよう!」
「逃げた。」
リリスがそんなことを言うが知ったことではない。いくらでも逃げてやる。こちとら今後の人生に関わってくるんだ。
「マヤも俺の少し食べていいからな」
「いいんですか?」
「あぁ、むしろ食べてくれ。何も食べてないやつの前で食べるのってすごく気が引けるしな。」
「なら、遠慮なく少し貰います!」
マヤとリリスがパイを食べ始める。凄くいい匂いがしとてもおいしそうだ。
「じゃあ、俺もさっそく一つ。」
サクッ。
っ!これホントに美味しいぞ!?
「これめちゃくちゃ美味しいな!」
そういうとリリスが自慢げに
「でしょ!このサクサクのパイに包まれたチゴの実が何とも言えないでしょ!」
「ホントにおいしいですね~。」
「あぁ、ホントに美味しい。リリス、サンキューな。」
「べ、別にお礼なんていいわよ・・・。」
口ではそういうが内心嬉しいらしく顔を赤くして照れている。
その後も俺たちの口と手は食べ終わるまで忙しく働き続けた。
もう少ししたら魔法とかを習っていくので頑張ってついてきてください。
これからもお願いします<(_ _)>