基礎魔法 後編
「そ、そんな顔するなら自分がしてみなさいよ!」
俺に哀れな目で見られたのがよっぽど悔しかったらしく、次は俺がやってみろと言い出した。
まぁ、どうせ次は俺の番だし結局やるんだがな・・・。
「いいけどどうするんだ?スペリングと詠唱するのは分かったんだがやり方がいまいち分からんぞ。」
「えーと、まず指先に魔力を込めるのよ。そして魔力を込めた指で魔法文字を書くのよ。そして、それと並行しながら書いた文と同じ言葉を詠唱するのよ。」
「なんかアバウトすぎじゃね・・・。指に魔力を込めろと言われても・・・。」
「試練の宝玉に魔力を込めたでしょ?あれと同じ要領でやってみて。」
「あ-!あの要領でいいんだな。それなら多分できるぞ!」
「なら、やってみてよ。」
「分かった!・・・てか、まずこの世界の文字かけないじゃん・・・。」
「あぁーそういえばそうね。なら、自分の知ってる文字でやってみたら?意味は同じなんだし。」
「ホントにお前って結構アバウトだな・・・。まぁいいや。やってみるか!」
集中だ集中。昨日のあれは手に持っている玉に魔力をそそぎこむイメージだった。
あれをもっと指先に集中させるんだ。
しかし、指に集めたはいいものの集約されておらず、とても大きくて文字をかくことができなかった。
もっと、小さく。小さく。小さく・・・・。
すると次第に指の周りを覆っている魔力が小さく。否、圧縮され高密度なものになっていく。
それは今、クラスの中にいる誰のものよりも凄まじい魔力であった。
その魔力の凄まじさは教室にいる全ての者を圧倒していた。
何だろうこの感じ・・・。
こんなこと前にもあったような・・・。
頭の中で何かがよぎる。
人だ。男の人だ。男は恐らく魔法を使おうとしているのだ。
その者の周りは炎で包まれていた。
顔は見えない。しかし、不思議と懐かしい気持ちがこみ上げてきた。
俺は・・・。あいつが何をしようとしているのかが分かる・・・。
そう思った瞬間、祐二の手と口は動き始めていた。
冥界の咎を背負うもの達よ
我はそなたらを灰に返す者なり
煉獄の黒炎はそなたらの肉も血も骨も咎をも燃やす
咎人よ今こそ審判の時は来たれり
そして我は全てを無に帰そうぞ
「黒の審判〈ブラックジャッジメント〉」
その瞬間祐二の目の前に直径六メートルにも及ぶ黒い炎の玉が出現した。
その玉はとても黒くまがまがしいほどの魔力を発していた。
もう十分だと判断した祐二は魔力を込めるのをやめた。魔力の供給をなくしたその玉は徐々に小さくなり消えていった。
「ふう、何とか出来たな。リリスこれで、いい、、か?」
その時祐二は周りの目線がこちらを向いていることに気づいた。
皆夢でも見ているような目でこちらを見ている。
それは当然の反応だと言える。今祐二がやって見せたことは凄腕の魔道士5人で同じことをやろうとしても中々出来ないことであるからだ。そもそも、この大陸に一人で5階梯にも及ぶ魔法を使うことが出来るものは祐二を除いて2人しかいないのだ。それほどこの魔法は衝撃的なものだったのだ。
「ゆ、ユージあんたこれ・・・。」
リリスが腰を抜かしてしまっている状態で声を震わせながら聞いてきた。
「え、えーと、なんか出来ちゃった。」
「嘘!だってあなたこの世界の文字を使ってたじゃない!」
「んー。説明しずらいんだけど、指に魔力を込めた時に頭の中に誰か知らないけど人がよぎったんだよ。そしたら何故かは知らないけど出来たっていうか、真似たというか。」
「真似た?その頭の中をよぎったっていう人がその魔法を使ってたの?」
「あぁ、そうだよ。」
「てか、ユージ!あんな大魔法をこんなところで使うなんて何考えてるの!?私たち丸焦げになるところだったでしょう!」
「いやぁ、それに関しては悪かった。まさかあんなに強力だとは知らなくてな・・・。でもあれでも結構抑え気味だったんだぞ?」
「あ、あれで抑え気味ですって!?」
またもや周りに動揺が走る。
それを見た先生がふと我に返り俺に話しかけてきた。
先生ですら放心してたのかよ・・・。
まぁ、でもいきなりメラ○ーマみたいなの出されたら誰でもビビるか。
「まさかユージ君にここまでの才能があったなんてね。ユージ君が今使った魔法は黒の審判と呼ばれる炎の第5階梯の魔法よ。私も使われているのを見るのは初めてね。」
「先生でも見たことないんですね。」
「もちろんよ。まずこの魔法は膨大な魔力が必要だし、そもそも一人で出来る魔法じゃないのよ。」
「そうなんですか。だから皆動揺してるんですね。」
「えぇ。ところで体は大丈夫?あんな魔法をいきなり使って魔力を失い過ぎたってことはない?」
「多分、大丈夫だと思いますよ。ふらついたりするわけでもないですし。それにまだ何回かさっきの使えそうなくらいは元気ですよ。」
「第5階梯の黒の審判を何発も打てるって・・・。驚異的な魔力保有量ね。」
んー、どれくらいが凄いのかよく分からないから何とも言えないが先生がこれだけ驚いているんだからめちゃくちゃ凄いんだろう。でも、なんで異世界に来たばかりの俺に魔法が使えたのかな?しかも知らないはずの文字もすらすら書けたし。それにあの男は一体誰だったのだろう・・・。
そんなことを考えていると後ろから。
「おい!ユージ!さっきの凄いな!どうやったんだ!?」
「ユージ君実は魔道士の名家の跡取りだったり!?」
「バカ!ユージはついこの間異世界からきたんだぞ!そんなわけないだろ!」
「そ、そうね。でも初めての魔法で第5階梯よ!?そんな魔道士大陸中探したって誰もいないわよ!」
「ねぇ、ユージ君今度私に個人レッスンしてよ!色々とサービスしちゃうから!」
「あ!抜け駆けはずるいわよ!」
「おいおい!ユージは男だぜ!俺たちが先に教えてもらうんだ!」
「あんたら何言ってんのよ!」
おいおい、こいつら昨日まで俺を腫物みたいに扱ってたやつらか?別人じゃねーの?
本気でそんなことを疑いたくなるレベルの態度の変わりようだった。
そういえば、リリスは?
こんな話題あいつが一番見逃さなさそうなはずなのに。
俺は人ごみの中でリリスを探した。
あ、いた。
リリスは一番後ろでうつむいたまま固まっていた。
「おい、リリスたす・・・。」
その時俺は見た。いや見てしまった。
リリスの頬に一滴の涙が流れていたのだ。
誰も興奮の熱でそのことに気付く者はいなかったが、ユージだけは見てしまった。
だが、涙を流していたのは極々わずかな時間だった。リリスはすぐに涙をぬぐうといつもの調子に戻り
「ユージ!私にも魔法教えなさいよ!」
「あ、あぁ。」
なんで泣き止むんだよ・・・。
クッソ!
俺は心の中で毒づいた。
悲しいときくらい泣けよ・・・。
周りの騒がしさも虚しく俺は密かに心を痛めていた。
今回も読んでいただいてありがとうございます!
最近、投稿ペース落ちてますが頑張りますのでついてきてください!