使い魔召喚の儀
運命の出会いをした。
世の中には沢山の人間がいて、沢山の出会いがある。そんな中であなたは運命の出会いをしたことがあるだろうか?大半の人はないだろう。しかし、その出会い一つ一つは自分にとっては数ある出会いのうちの一つかもしれないが、他人にとっては運命の出会いかもしれない。そう運命の出会いなんて、しょせん人の感じ方次第だ。人の数だけ出会いもあるなら、人の数だけ運命に対する感じ方もあるだろう。そんな中で俺は、百人が同じ体験をしたら、百人が運命の出会いだと答えるだろうと思う出会いをした。その出会いは今俺の目の前で吸い込まれそうなほど黒い髪を長く伸ばした、少女との出会いだ。
「頼む、もう一度状況を説明してくれ・・・」
端からみたら黒髪ロングの超絶かわいい子との出会いなんだが・・・
「何度言えば分かるのよ?あんたは私の使い魔になったの」
これだもんな・・・
「やっぱり、マジなのか?」
「あなたがどう思おうがこれはマジね。」
まるで死刑宣告を受けた、人かのように天を仰いで嘆きたくなる。
だって、使い魔だぜ!?使い魔!
「そんな簡単に言うが、急に光に包まれたと思ったら異世界とかどう信じたらいいんだよぉぉ!!」
そうここは日本でもなければ地球でもない。異世界だ。
「そ、そんなこと言われても私だってあんたみたいな人間を召喚したくなかったわよ!」
「それは流石に酷くない!?勝手に召喚しといてその言いぐさは酷くない!?いくら心の広い俺でも流石に泣くよ!?」
「ち、違うのよ!人間を召喚しようとはしてなかっただけで、別にあんたを否定したわけじゃないから!」
「あ、何だそういうことか。それならそうと早く言ってくれよ。」
「勝手に早とちりしたのはそっちじゃない!」
「そうだっけ?」
「そうよ!」
「そうかそうかそれは悪かった。」
「心がこもってない!」
「そんなことより、何故俺が召喚されたかだが。」
「流すの!?このタイミングで流すの!?」
さて、ホントに何故こんなとこにいるんだろ・・・
まぁ、考えてもしょうがない、とりあえず今の状況を一から思い出してみよう。
えーと、たしか・・・
一時間前
「ありがとうございましたー」
行きつけのどこにでもあるコンビニでどこにでもある決まり文句を背中に俺、里見祐二は帰り道についた。
「ん~、これこれ!やっぱりアイスはいつ食べても美味いな~」
買い物の内容も極々普通のアイスクリームを買っただけである。しかし、祐二の機嫌は普通よりとてもよかった。アイスは祐二の大好物であるからだ。自分の小遣いで自分の好きなものを買う。小さなことかもしれないが、祐二はこのことを確かな幸せだと考えているからこその上機嫌である。
しかし、そんなアイスの美味しさに浸ることが出来たのは数秒だけだった。
「な、なんだ!?」
突如として、全身が白い光に包まれだしたのだ。あまりの出来事で自分の大好きなアイスを落としてしまうが、落としたことにすら祐二はきずかなかった。だが、慌てていたのはほんの数秒だった。声が頭の中に響いたからだ。
我、魔道を理する者なり
「っ!?誰の声だ!?」
この道は、遠く、深く、美しく、尊いものなり
この道は、近く、浅く、汚く、卑しいものなり
力ある言葉が紡がれていく度に祐二の全身を包む光は強くなっていく。普通なら慌てるところのだろうが、祐二は不思議とその光と声が嫌ではなかった。むしろどこか懐かしい感じすらした。そう感じている祐二をよそに言葉は次々と紡がれていく。
魔は全を一、一を全とするものなり
故に魔は全ての道を切り開く
始祖ゼロが切り開きし道を祝福せし者達よ
主を祝福し主を導く光となれ!
最後の言葉が紡がれた瞬間、その場所に祐二はもういなかった。
更に五分前
「すげぇな、マルコ!使い魔がサラマンダーなんてよ!」
「ははは!当然だろ!なんたって僕はこの学校きっての天才なんだから!」
男子達が騒いでる。どうやらマルコが使い魔召喚の儀でサラマンダーの召喚に成功したらしい。そう今日は二年に進級したもの達が使い魔を召喚し使役するという、使い魔召喚の儀の日だ。使い魔の強さや希少性は魔道士としてのステータスであり、強さの証と言ってもいい。使い魔は主の魔道への知識、素質、そして魂のあり方によって変わってくる。だから、より魔道に精通しているものほどより強い使い魔を使役することができるのだ。さっきマルコが召喚したサラマンダーなどレア中のレアだ。
「いや~、ホントにすごいぜ~。先生が言ってたぜ、サラマンダーはこのフェスト大陸でも十人しか使い魔の出来てないって。」
「十人!?マルコ凄すぎだろ!」
「まぁ、僕からしたら大したことではないけどね。」
みんなにちやほやされ天狗になってるマルコだが、彼の周囲の人間の熱気は増すばかりだ。それも当然だ。使い魔には種族や特性などによって、ランクが分けられている。サラマンダーなどどんな他の特性があろうとなかろうと基本能力で十分にランクAに分類される強さだ。
「なぁ、何かコツとかないのか?」
「コツねぇ~、普通にしてたら出来ただけだしね~。」
「またまた!俺なんか土妖精だぜ?」
「土妖精もランクCに入る高位精霊じゃないか。」
「そうだけど、サラマンダーと比べるとな~」
「ははは!そんなことを言ってはいけないよ?なんせランクCを召喚できる人がここに何人いることやら。」
「そうだったな、悪い悪い。」
「それに、あそこにいる召喚できるかすら分からない落ちこぼれもいることだしね~。」
そんなことを言いながらマルコをこっちを向いて話しかけてきた。
「どうなんだ?言い返してみろよゴミが。」
流石にこれ以上言わせておくにはいかないと思い一歩前にでてから。
「はん!サラマンダーがなによ!私がそんなものよりもっと高位の使い魔を呼び出すんだからね!」
「お前が?あの落ちこぼれのリリスがか?みんなー、聞いたか?あのリリスが俺のサラマンダーより高位の使い魔を召喚するってよー」
「リリスが?絶対無理無理。」
周囲の者はみな笑い出す。しかし、そんなことはリリス本人が一番理解していた。ただの売り言葉に買い言葉だ。
「いいわ!なら見せてあげる!先生、次の召喚私がやります!」
「ん?リリス君か。君は成績が芳しくないようだが大丈夫かね?」
少し心配そうに先生が聞いてくるが、当の本人は。
「はい!大丈夫です!やれます!」
やる気満々だった。
「じゃあ、リリス君、魔法陣の上に立ってもらえるかな?」
そういわれ、リリスは緊張をほぐすように深呼吸を繰り返しながら魔法陣の上に立った。
「では、初めてくれたまえ。」
そういわれ、リリスは集中力を限界まで研ぎ澄ましだす。見ている生徒たちも息をのむほどだ。そして、集中を終えた、リリスが力ある言葉を紡ぎ出す。
我、魔道を理する者なり
途端に、魔法陣が光り出す。しかし、リリスは次々と言葉を紡いでいく。
この道は、遠く、深く、美しく、尊いものなり
この道は、近く、浅く、汚く、卑しいものなり
そして、次の瞬間、魔法陣の上、リリスの目の前あたりに人が楽々通りそうなほどの大きなゲートが出現した。周囲から、声が上がる。ゲートは召喚される使い魔の大きさによって変化する。だから、ゲートの大きさからして、人と同じくらいの大きさの使い魔を召喚しようとしているということだ。そして、ゲートの光は詠唱の最後の部分に差し掛かり、より一層強く光だす。
魔は全を一、一を全とするものなり
故に魔は全てに道を切り開く
始祖ゼロが切り開きし道を祝福せし者達よ
主を祝福し主を導く光となれ
「来なさい!私の使い魔!」
そういった瞬間だ。ドンっと何かがゲートから落ちた音がした。そして、周囲の者達はまたも息をのむことになる。それもそのはず、人間大のゲートから何の使い魔が出てきたかと思ったら、まさか、ほんとに人間が召喚されるとは思わなかったからだ。すると、ゲートから出てきた人間、少年は動きだした。
「いてて・・・まさかいきなり地面にほうりだされるとはな・・・」
召喚された時に尻から落ちたらしく、尻をさすりながら少年、祐二はのそのそと立ち上がりだした。
「あ、あんた人間?」
「ん?変なことを聞くんだな?見ての通りお前と同じ人間だが?」
「いや、だって私今使い魔を召喚しようとして・・・」
「使い魔?お前何言ってんの?頭大丈夫か?」
「な!大丈夫よ!失礼ね!」
周囲がざわつく。みんな、先生も含め使い魔の召喚で人間が召喚されたところを見たことがないのだ。すると、リリスが。
「先生!やり直させてください!」
「リリス君気持ちは分かるが、初めに召喚した使い魔を変更することは認められないんだ。」
「そ、そんな・・・」
「では、リリス君早く契約を済ませなさい。」
「ほ、ほんとにやるんですか?」
「あぁ、例外はない」
「うぅ・・・」
リリスは小さく唸るが、祐二は目の前の2人が何の会話をしているのかよく分からなかったが少なくとも自分が関係しているのは雰囲気で分かった。
「そこのあなた!こっちにきなさい!早く!」
「お、おう。」
少女の声の迫力が尋常ではなく、祐二にはうなづくことしか出来なかった。
「いい?絶対にめを開けないでね?絶対よ?」
「?あ、ああ分かった。」
祐二は少し疑問に思ったが素直に従うことにした。
「チュッ。」
「っ!?」
すると不意に額に暖かい感触がした。そう額にキスされたのだ。
「な、なにするんだよ!」
「な、なにって使い魔との契約の儀式じゃない!」
「は?」
それを聞いた祐二は呆けた顔をする。
「使い魔?ま、まさかと思うがそれって俺のこと?」
「そ、そうよ!文句ある?」
「文句ないほうがおかしくね!?」
それは、そうだ。急に召喚されて見ず知らずの人に;あんた今日から私の使い魔ねっていわれたのである。文句がないほうがおかしいだろう。
「と、とりあえず後のことは部屋で説明するわ!ここじゃみんなの目があるし。」
「お、おう。わかった。」
周りの目が気になっていたのは祐二も同じなので異存は無かった。
・・・・・・
そして、今がこの状況である。
「うん、改めて考えても全然意味わかんね。」
それはそうだ、祐二はただ異世界に召喚されただけなのだから。それ以下でもそれ以上でもない。困ったと頭を抱えるがやはりそう簡単に理解でいるものではない。その時祐二はふと思った。まだ自己紹介をしていないことを。
「そういえば、自己紹介がまだだったな。俺は祐二。里見祐二だ。」
「ユージ?変わった名前ね。」わ
「そ、そうか?結構メジャーな名前だと思ってたんだが。ちなみにお前は?」
「お前は?じゃない!仮にも主なんだからね!」
「はいはい、いいから名前は?」
「あんた・・・私の扱い雑じゃない?まぁ、いいけど・・・。私の名前はリリスよ。唯のリリス。
「リリスね~。可愛い名前じゃん。」
「か、可愛くなんてないわよ!」
名前をほめただけでこの照れようだ、しかもとても照れた顔が可愛いのだ。祐二は密かに今度機会のある時に褒め倒してやろうと一人心の中で決意したのであった。
「何にやにやしてるのよ!」
「いやー、すまんすまん。リリスが可愛くてつい。」
「な!か、可愛くないってさっきからいってるでしょ!」
「分かった分かった、じゃあ、話を変えるけどここってどこなんだ?」
「ユージは不思議なことを聞くのね?こんなに魔道士がいるのよ?この大陸で魔道士の学校と言えばこの王立リベル学園しかないじゃない。」
「当たり前のようにいうが、忘れてるようなのでもう一度行っておくが俺は異世界人なんだよ。」
「あー、そんなこともいってたわねー。でもそれホントなの?」
「あぁ、ホントだ。」
「ふ~ん。まぁ、使い魔のユージがいう事だものね一応信じといてあげるわ。」
「一応って・・・。まぁ、いい恩に着る。」
やや、不安の残るところがないこともないがとりあえずこの問題は放置することにした。
「じゃあ、私もう寝るわよ?今日は召喚で魔力を使いすぎて疲れたの。」
「ん?あぁ、それはすまなかった。でもまだ聞きたいことは山ほどあるからな!」
「わかったわ、明日ちゃんと説明するから。」
そういいながらベッドに倒れこむようにベッドに入る。ホントに疲れていたのだろう。
「すぅすぅ。」
十秒も経たないうちに部屋に規則正しい呼吸音が聞こえ出した。
「リリスも寝ちまったし、情報収集はまた明日するか・・・」
ユージはこれからのことを考えると溜息の一つもでそうになったが喉元でギリギリ堪える。
「俺、これからどうなるんだろう・・・。」
確かに、運命の出会いだ。しかし、異世界をまたいでとか過酷すぎるだろとぼやくユージだった。