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第一話

まぁ、流れで出来たものなので。

今、俺は最悪な状況下にいる。

まずは、今いる場所。見知らぬ王宮の中。

次に、装飾が施され、高級感あふれる長い机と用意された木造の椅子に座っている。

そして、イケメンな男達に囲まれてクソうざい。

最後に……俺、世界どころか性別まで変わってしまったようです。


「はい、エミリちゃん。あ~ん」

「あ、いらないです。お構いなく」

「んじゃあ、俺が」

「結構です。お構いなく」

「僕がやるよ〜♪」

「いらないです。一人で食べられますから」


 親愛なるヲタ友へ。俺は今、異世界にいるようです。




 そもそもの始まりは、ヲタ友である、淀屋と学校から帰る所からだ。いつも通り、クラスの女子から養豚場の豚を見る目で見られ、小声で「キモッ」と言われていた。まぁ、見た目がブチャイクな俺っちなら仕方あるまい。顔面偏差値下の下の限りなく中に近い下なのだ。肥えて、顔も丸く、髪も少々脂ぎっているかもしれない俺だ。仕方ないね♂

 そんな俺と友でいてくれる淀屋は長髪で、前髪によって目元とか隠されているが、切ればイケメンという残念な人なのだ。はいそこ、エロげの主人公みたいとか言わない。

 そいつと共に下校し、途中でゲーセンに寄ったあと、俺っちは一人で帰ったのだ。淀屋も予定があったしね。だけど、それがまずかった。

 突然光に包まれ、俺は異世界へと飛ばされたのだ。とある街のとある道。煉瓦造りの家々と、煉瓦で敷き詰められた道。外国の、特に欧州を連想させられる場所であった。目が覚めるとそんな場所にいて、暫くぼうっと呆けてしまう。

 状況を理解すると、自分の頬やら体やらに手を触れた。


「な、なんぞこれは……!?」


 学生服の上から分かる胸の大きさ。俺っちの好みの「大き過ぎず、小さ過ぎない、手にフィットする」この胸があるではないかっ!!……ん?俺の胸に?

 そこで、また数分呆けることになる。

 今、自分の体すべてが変わっていることを理解はできていた。先ほど出した声からもそうだと分かる。が、受け入れるのは少々難しく、理解とは別の話になる。いくらぶちゃいくだからとはいえ、自分の体が変わったのだ。動揺というか、なんと言うか……言葉では表せない類の恐怖を感じた気がしてならない。


「……」


 さて、何故おにゃのこになったのか。なぜ異世界にいるのか。色々と疑問が湧いて仕方ないが、一旦思考停止する。まずは、これからどうするかだ。

 俺はこういう形の始まりを、ネット小説の頃から最近のアニメまで、よーく見かけている。そこから考えるに、この後王族か誰かが俺っちを勇者として迎えに来ると思われる。

 そうして、今後のうへへな展開に現を抜かしていた。だが、結局その日は夜になっても誰も現れなかった。ほ、本日はみんなニートしてるのかなぁ〜と冷や汗をかいていたが、現実は冷たかった。

 しかし、ここを去ろうとした時にある一人のおじいさんが現れた。彼は身寄りのない俺っちに良くしてくれた上に、娘に迎えたいと言ってくれた。おじいさんはおばあさんと二人暮らしで、子供がいなかったらしく、この一週間俺っちを我が子のように接してくれた。

 ……まぁ、男のような性格をしている女の子になっちまいましたけどね。そもそも俺っち男ですしおすし。

 そんなこんな、どうのこうのあったある日のこと。いつも通り、異世界の朝を迎える。窓から差し込む日光は、丁度俺っちの瞼を照らした。


「……んっ……くぁ……」


 大きく伸びをして、欠伸をする。数秒ポケーっと天井を眺めて、両頬をぱちぱちと2回叩いてベッドから出た。そして、ワンピースのような寝間着から作業着に着替えて、腰の少し下辺まで伸びた髪をひとつに束ね、項あたりで結う。全身が写る鏡を見ると、金髪黒眼の作業現場にいるような服装の女の子が写っていた。

 いかにも元気溌剌で、でもどこか姉のような包容力のある優しそうな子である。自分をべた褒めしているのは、客観的にしか見られないからとも言えるが、一番の理由は俺っちの好みである。(キリッ)

 まぁでも、女の子かぁ……


「はぁ……まぁ、いっか。かわユイから良し!」


 そうつぶやいて小さくガッツポーズ。鏡に写る子も同じ事をしていて、不覚にも萌えた。まぁ、元々、顔面偏差値が低かったから、今の容姿は結構気に入ってたり。

 着替え終えた後、階段を降りてリビングに出る。おじいさんとおばあさんは朝食の用意をしていた。


「おはよー、じーちゃん、ばーちゃん」

「おはよう」

「おはよう。朝食を済ませたら、畑に行くよ。いいね?」

「はーい」


 おばあさんはパンとスープを作っていて、とても美味しそうな匂いがしていた。おじいさんはもう先に朝食を済ませており、上着を着て畑へ行く準備をしていた。


「あっ、行ってらっしゃい!あと、『いただきます』!」


 椅子に座り、両手を合わせてそう言った。おばあさんは「全く……」と苦笑いをして皿を洗う。この世界のこの国では食事前に王への感謝と神への感謝をして頂くらしい。

 郷にいっては郷に従えと言うけど、この日本人スタイルだけは止めようとは思えなかった。……あっちの世界への未練が、全く無いわけではないんだよ。


「ん〜!美味しい!」

「まだまだあるから、ゆっくりお食べ」

「はーい!」


 おばあさんとおじいさんには日本から来たことについて話していたので、理解はしてくれている。まぁ、信じてもらえてるかは分からないけど。でも、それはどうでもいい。こんなに家族のように接してくれるから。むしろ有難い。

 そういう考えを持つ俺は、その恩返しとして色々と手伝いをしている。食べ終えた俺は「ごちそうさま」と言うと台所に皿を運んで洗う。


「美味しかったよ!」

「ありがとう。さぁ、手伝いに行ってらっしゃい」

「うん!行ってきまーす!」


 そう言って俺は家を飛び出した。そして、田舎特有の整備されていない、土の道を少し歩く。すると汗を拭うおじいさんと、色んな野菜が育っている畑が見えてきた。


「来たよー」

「おぉ、来たか。見てくれ!」


 着いた途端に大喜びで俺に言うおじいさん。手に持つトマトは真っ赤に熟している。察するに、それを俺に見せたかったようですな。この一週間の中で、初めてトマトを作ってると知ったぜ。


「い、いつの間にこれを……?」

「わざと見せなかったのさ……エミリーに喜んで欲しくてな」

「わ、わぁい」


 赤いトマトを見て、とても嬉しいのだけど、やはりエミリーは呼ばれなれない。おじいさんは満足気にトマトを俺っちに渡した。


「これを」

「うはっすげぇ真っ赤だ!いただきます!」


 と、1口。口の中に甘酸っぱい味が広がる。しかも、とてもみずみずしい。うん、間違いなく街で売っているトマトよりも美味しい。


「ん〜!美味しい!」

「はははっそうだろう!エミリー、お前が来てからこの通りだ」


 俺は何もしてないのだけど、俺が来てから豊作なのだと。おかげでとても美味しい野菜ができて、売れ行きも上々らしい。と言っても、一週間しか経ってないし、どう考えてもおじいさんの努力の結果だと思うんだけど。


「そんなことないよ。本当に美味しい……街のトマトよりも」

「そ、そうか?ハハハ!」


 おじいさんは頭をかきながら、ニッコリと笑った。でも、その笑顔を見ると少し切なくなる。父さん、母さん。そして淀屋。いつも近くに居たから気づかなかったその大切さが、胸に刺さるのだ。

 まぁ、ブチャイクな俺っちにはその数人程度しかいないと思うと、より一層寂しくなるお。

 だから考えないことにした。生まれ変わったのさ。しかも、美少女にッ!(ここ重要)

 さて、そう自己完結させたことの何回目かの繰り返しをしている間に、畑の仕事の準備をしていた。「さぁ、やるぞ」と気合を入れて野菜に水をやったり、穴を開けて種をまいたりしていると、少し遠くから馬車が来るのが見えた。


「ん?……じーちゃん、あれはどこの馬車?」

「ほぁ……?どこかねぇ?」


 よくよく見ると、その馬車は白色でおおよそこの田舎道にはそぐわない装飾のついた豪華な馬車だ。次第にしっかりと見ることができるようになると、おじいさんは慌てて畑から俺を連れだして、道の端で片膝をついた。


「ど、どうしたのじーちゃん?」

「あ、あれは王族の馬車だ!エミリーも、早く!」


 良くはわからないが、おじいさんに引っ張られ、渋々片膝をついて頭を垂れた。音が近づくにつれ、馬車のスピードが下がってきているような気がして顔を上げた。


「うわぁ……」


 この「うわぁ」はその馬車の豪華さ等から出た、感嘆の声とは違う、至って単純に面倒事が転がり込んできたから出た、嘆きの声である。うん、嫌な予感しかしないぜ。

 そして、目の前で馬車が停まる。やべっ、頭下げ直そう。バッと下を向いたタイミングで扉が開いた。カツン、カツンと上質な革靴の底の音が聞こえる。それだけで、とても地位が高い人たちと分かるのだけど、まさか王族なんて……と俺は少し信じられなかった。なんで王族が……?


「顔を上げてください」


 若い男の声……というか、同じ年齢のような声音が聞こえた。俺っちたちは顔を上げる。そこには同い年の男がいた。

 目と目が合い、しっかりと相手を見ることができた。銀の少し長めの髪に、蒼く澄んで輝く瞳。整った顔立ちや体つきからも、好青年という言葉の似合う人物だった。一言で言うとイケメン。正直に言わさせて頂くのなら、気に食わん。イケメン滅ぶべし。慈悲も無しっ。

 しかも、彼は俺っちと目を合わせている間、口を開けて少し驚いているようだった。

 はっはーん、さては俺っちに惚れたかな?俺っちは心の中でゲラゲラゲヒヒと下衆笑いをする。俺っちはおにゃのこにしかキョーミないので対象外でぇすーはい。

 と、まぁ、冗談はさておき、王子様?は俺の顔を見たまま動かない。なので話しかけることにした。


「何か用があるのでしょうか?」

「……あっ、いや、んんっ」


 はっとして目を逸らし、咳払いをした。そして、じーちゃんの方へと向いて近くへ寄る。王子は道へ降りることを気にしなかったようだが、本来はそこまで気を配る必要があるらしい。奥にいる執事?が「靴が……まぁいいです」と呟いていたのを聞いたし……。王族って結構面倒な処まで気を配らんとイカンのか、と少しだけ同情する。


「アレス・グローリー・ウェーバー老騎士。先の戦争で私を救っていただいたことに感謝します。感謝の印に『ユニコーンの楯』の勲章を授けます」

「はっ……はっ?あ、有難き幸せでございます」


 じーちゃんは驚きと困惑の表情を隠せないままそれを受け取った。俺はじーちゃんのフルネームを初めて知ったとか、勲章がかっこええとか、王子ニコニコしてる上にイケメンで腹立つとか、こんな所にわざわざ来なくても、呼べばええやん?とかよりも、じーちゃんが本当は凄い人なのかもしれないというところに驚き、興味が惹かれた。


「……わ、私がいつ、殿下をお救いに……?」


 ……あくまで「かも知れない」だ。この様子じゃあ、とても凄い人には見え……ゲフンゲフン


「?まぁ、激戦の中でしたし覚えてないかもしれませんが、私の襟を引っ掴んで後衛に引きずり運んでくれました。こちらを見る余裕もなかったようでしたし、仕方ないかもしれないですね」

「……あ゛!?あの時に怪我をなされ、倒れていたのって……ででででで殿下でしたか!!?申し訳ございません!数々の無礼をお許し下さい!」


 頭をさらに深く下げた。無我夢中に王子を引きずったらしく、結果的には救ったのだと。ある意味では凄い人だった。

 王子は苦笑して「大丈夫です。あなたの勇気ある行動が私を救いましたし」と言っておじいさんの肩に触れる。


「たってください。私がつけましょう」

「いいいえ!そそれは」

「私の命令が聞けませんか?」

「……分かりました。この上ない幸せでございます」


 王子の無理矢理な命令に従って立ち上がると、王子はおじいさんの胸に勲章をつけた。その姿は本当に、騎士だったことを物語っていた。


「……ふふっ、よく似合っていますよ」

「ありがとう、ございます」


 そう言った後、王子は馬車に戻ろうとしてふとこちらを見てきた。なんやねん。


「……何か?」

「あ、いや……君、名前は?」


 頬をかきながら微笑んで聞いてくる。うっは、かっこええ。腹が立つほど優しく、女性を虜にするような良い微笑みだ。まぁ、おれっちには通用しないけどな!


「……エミリーといいます」


 立ち上がって礼をした。おじいさんの顔に泥を塗ってはいけないしなぁ。恩を仇で返さぬためにも、礼儀正しくいなくてはな。


「エミリーか……良い名前だね」

「ハハッ(某ネズミ声)ありがとうございます」


 笑みを見せてそう返すと、少しぽーっとして、数秒間俺を見つめる。なんやねん気色の悪い。


「……な、何か?」

「あっえっと……今度またここに来てもいいかな」


 ……嫌な予感がしたわけだ。おじいさんのことを考えると、あまり断れない状況である。だって王族様のお誘いを断るって、あれじゃん?なんか失礼だとか言われそうじゃん。主に世間体的な意味で。

 でも、やっぱりおれっちは会いとうないし、自身の気持ちは大切だよね。それに田舎だし、それなりに丁寧に断りゃゆるしてくれるっしょ。


「非常に魅力的なご提案ですが、お断りさせていただきます」


 苦笑して俺は言う。申し訳ないとは思う……いや、だってそもそも会ったところで何をするのさ。どうせ世間話とかお茶会だろ?この世界のことすら知らん俺が、んなもん話せるわけないじゃん。

 王子はアハハ……と苦笑する。……少し心が痛んだ。え、えぇい!何か、何かないのかっみんなが幸せになる方法ってやつは!!おじいさんの顔色が少々青くなってるし、執事さん笑顔怖いし、裏でひそひそ誰かと話してはるし……。


「ここに私達に会いにくるというのは嬉しいことですが、危険です。私も一応女ですので、そっちの方で変に噂されては何かしらのデメリットを受けます。そして、ここは田舎、草原が広がる見晴らしのいい場所とはいえ、草陰などに潜伏され、暗殺などがあれば最悪の場合終わりです」

「た、確かに……そう……だね」


 王子の様子から危険性があるのは承知の上でのお誘いであったことがわかる。改めて言われて歯切れの悪い感じかねぇ、しゅんとなっていた。犬耳があればへたりと折れていたことだろう。……あぁ、何か腹立つ。そのくよくよした感じ、目を合わせて文句を言わず、仕方ないで済ます感じ……過去の自分を見ているようで腹立つ(イケメンではなかったからという理由を含む)


「男なら、シャキッとせんかい!」

「うぁっ!」


 王子の背中をどんと叩いた。あぁ、やっちまったと思いつつ、腰に手を当て胸を張って構える。やっちまったもんはしょうがない。うはw俺氏カッコヨスwwという余裕を心に持ったおれっちは最強だお。裏を返せば、そんな余裕を心に持たなければ今やった行動の意味がなくなり、おれっちの人生が終わる。背水の陣というやつ?


「!?エミリー!?」

「!?王子!」

「招待してくれたら私は行くし、断られたって何だってできるでしょ?俺なら遊びたい友人の家にいけないなら自分の家に招待するし、どこかで待ち合わせして楽しんだりする(淀屋と二次のおにゃのこイベ限定)早々に諦めて、いいことはない……そうだろ?」

「そう、ですね」


 王子は目を見開いて驚いていたけど、私がそういった後に笑顔を見せると、苦笑する。そしててててて


「あただだだだ」

「え、エミリー!」

「不敬罪、暴行罪で逮捕します」


 腕を背に回されて、組み敷かれる。一瞬だった。……まぁ、そうなるわな。おじいさんは止めようとするが何もできなかった。いや、何もしないで。俺の自業自得だから。


「や、やめなさい。私はエミリーを許す。離してあげなさい」


 「しかし」という騎士たちに「ありがとう。だが私は許すといったぞ?」と目を合わせて言い、騎士たちを止めた。なんだ、目を合わせて物言えるじゃん。ツーことはあれかね?女の子と話すのは苦手系の王子なのかね。はは、ざまぁ。それと執事さん、ニコニコしているなぁ……いったい何を考えているんだ?

 おじいさんはほっとして私に駆け寄った。


「大丈夫か!?まったく、エミリー、今後は気をつけなさい」

「いてて……はーい」


 パンパンと服についた土を払いながら立ち上がる。まったく、レディー(中身は男)にこんなことしおってからに……。

 すると王子は「すまない」と一礼をした。


「確かに君の言うとおりだ。……だから、その、またいずれ招待状を出したときに来てはくれないかな?」


 俺っちはそれににこりと笑ってこう言った。


「はい、喜んで(高級菓子とか食べられたらいいなぁ。あ、そん時はじーちゃんばーちゃん用に貰わんとな)」


 ……まぁ、こう思ってしまうのも仕方がないよね♀

誤字脱字誤文乱文御免!

発見次第、連絡をください。

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