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登校高校生の恋情と秘密

よろしくお願いします。

前回投稿した話の続きです。



 遊具らしい遊具もない、そのかわり桜だけはどこよりも綺麗に咲き誇る公園、6号公園。

 休日は花見客などでそこそこ賑わうが、流石に平日の、それも朝には俺――異義(いぎ)人生(ひととせ)しかいない。

 ちらちらと目の前を掠める花びらをたどり、真後ろにある、公園で一番大きな桜の木を見上げる。


「……桜、綺麗だな」


 桜舞う公園で、大きめで新品の学ランで、好きな人を待つ、というシチュエーションは、なかなか春にぴったりじゃないか、とか考えていたら道の向こうから元気な足音が響いてくる。


「ようやく来たか」


 彼女を待つだけで、いわゆる一日千秋、という思いを体感できるなぁ秋が千日も続く安上がりーとか考えつつ、音源の方を見る。

 そこには少し息が上がり頬が紅潮した待ち合わせ相手の神羽(かんば)奏良(そら)が、真新しいセーラー服でたったったとリズミカルに駆け寄ってきていた。

 少し切ったらしい肩ぐらいの髪が、小さく可愛らしく揺れる。


「おはようヒート!」


 五、六歩程の距離まで近より、一度大きく深呼吸をして呼吸をただし、俺に向かって少し申し訳なさそうな笑顔でぱちんと手を合わせて謝る。


「ヒートごめん! ……待った?」

「いや、大丈夫。今来たとこ」


精々20分前程度だ、と言おうと思って止めた。というか、奏良を見た瞬間に妙な熱が灯ってもう口が次の言葉を紡げない。

 そわそわとして落ち着かなくて、つい視線をあっちこっちへ逸らしてしまう。あー情けない。


「どしたー?」


奏良のかくりと首をかしげて笑う仕草に、俺は思わず更に目をそらしてしながらも、どうにかこうにか答える。

 このヘタレめ。もっとしゃんとしろ。


「いや、セーラー、似合ってる」

「……へへっ、ありがと!」


奏良は素直に感想を言う俺に驚き目を丸くするも、すぐに照れて頭を掻く。

 どんなに大きくなって大人っぽくなっても、照れると後頭部を掻く癖は、小学校から変わらないな、なんて考えてニヤけそうになる顔を必死で押さえる。そんなことを知ってか知らずか奏良はえへへ、と小さく笑う。

 あーもう、反則だろそれは。主審どこだレッドカードだろこれ。


「それじゃあ、行こうか!」


そう言ってくるりとローファーで回ったその瞬間、春一番の強風が吹き桜が舞い散る。

 同時に、花びらと共に現実感もその風が吹き飛ばした。桜が奏良を包んで、楽しげに笑う彼女が、まるで映画――ドラマやアニメじゃなくて、映画――のワンシーンの様だった。


「あっちょっヒート! パンツ見えてない!?」

「見えてねーよ。てかテメーそれタイツだろ」

「タイツでも見られたくないものはいーやー」


 風が止み桜の結界が消え去ったとたん、すべてに現実味が沸いてきてしまった。

 ぼんやり彼女に見蕩れていた俺に、奏良はスカートを押さえて恥ずかしそうにわたわたして質問してくる。


「さっきの風景は所詮幻想か……」


 実際下着は見えていない。もしも俺に奏良の下着がちらりとでも見えていたら……首をくくるくらいでしか償えないと思う。


「本当にー? ほんとのほんとのほんとーにー?」

「だから、ほんとのほんとに見てないって!」


何度も何度も質問する姿は先程の美しさはかけらも残っていなかった。その様子に、俺は思わず心のなかで少し憤慨した。

 そして、俺の身勝手で自分勝手な注文にも、同じ様に苛立った。


「ひーいーとー! はーやーくーぅ!」


奏良の呼ぶ声でふっと我に帰る。

 奏良の方は俺のそんな葛藤など露知らず、お前が誘ったんだろー! という不満を訴えながら右手をブンブン振って急かす。

 そんな少し子供っぽい奏良に呆れながら、彼女が待ちくたびれないうちに向かう。


「あーもうわかってるって!」



「この学校来た同じ中学の人って、あたしと、ヒートと、(ほたる)(すい)ちゃんだけだよね」

「そう……だな。何でこう、見事に腐れ縁だけ揃うんだろうな?」


はあ、と、大きな溜め息をつく。

 俺としては、奏良と共に楽しい青春を新しい学舎(まなびや)で、しかも知ってる人間はお互いだけという状況の流れでさらりと告白するつもりだったのだが……。


「個人的には翠ちゃんが一番よくわかんないなぁ……。彼女、人気者グループだったし」

「いや、あのシスコンブラコン兄妹が離れるとは考えらんねーよ」

「それもそうだね。でも、やっぱり」


ぼっち同盟からはほど遠い人種だねー、と寂しそうに続けた。

 そこまで言ってはっと顔をあげ、俺の方を向きながら、神妙な顔をする。


「中学の時は、ごめんね。本当にごめんなさい。本当に迷惑かけたと思う。ヒートは、あたしのせいで、友達いなくなっちゃったと思うし……」

「そんなことねぇよ。最初っから居なかったし。お前と、蛍と、翠以外に友達っぽいやつなんて」


中学校の頃、奏良は、熱はないが顔を真っ青にして――まれに吐いて早退することが多々あった。

 それだけじゃなく、一度だけ家出もどきの様なこともした。その時、雨に濡れびしょ濡れの奏良を見つけたのは俺だった。

 家出の理由は教えてくれなかったが、恐らくその事をいっているのだろう。俺もその時かなり濡れたし。

 これは……行けるんじゃないか? うまくいけば、告白とか出来るんじゃないか? そんな下世話な思いも混ぜながら奏良を励ます。


「俺もこっちの方が気が楽だし、お前もこっちの方がずっと楽だろ。

 下手な奴と一緒の高校だったら、また変な噂とか流されるだろーし」

「……うん。ありがとう。ヒート」


 流されたガセネタを思い出しでもしたのか少し悲しい様な、嬉しい様な、複雑な笑顔を浮かべ、感謝の言葉を述べる。


「本当に、いつもありがとう」

「…………気にすんな。幼馴染みだろ」


うん、とまたいつものように笑う。

 俺はその笑顔に、少し違和感を感じながらも、気づかない振りをした。

 奏良は、今さら恥ずかしくなったのか、足と口調を早めて。


「あの、そう! 早くしないと遅刻しちゃうよ! 急がないと!」


と言って少し先まで行ってしまった。

その姿に、多少の後悔を滲ませ、小さく呟く。


「あーあ。今、好きだって言えばよかった」


でも、いつかは格好よく言おうと覚悟を決める。

〈いつか〉は、まだ未定だけど。


そう覚悟を、決めた時だった。


 不意に振り返ったあいつは、一瞬だけいたずらっ子の様に不適に、だけどすぐにいつもの様に笑って、爆弾を落としてきやがった。


「あたし、ヒートのこと好き」



同じ時、同じ場所



 もしかしたら、本当にもしかしたらで天文学的な確率で更に微粒子レベルの可能性で、そしてなおかつ究極的にあり得ないけど。

 人生は、神羽奏良、つまりあたしのことが好きなのかもしれない。

 あーおもっちゃったよあたしはなんて自惚れ屋なんだそんなことあるわけない、と思わなくもない。むしろ絶賛そう思ってる。

 だけど、追い付いたヒートに向かって、


「そういえばヒートって気づかないの?」

「少し髪切ったことか?」

「正解」

「……結構、似合ってると思う」

「えへへ……ありがと」


あたしの僅かな変化にも気付き、家出もどきの時、我が家のシスコンお兄ちゃんたちより先に見つけることが出来たくらい、こいつはあたしをよく見てる。気がする。

 ……ちょっと鎌かけてやろう。


「あたし、ヒートのこと好き」

「……俺も好き」

「……幼馴染みとしてー」

「知ってる」


あ、あれ? 思ったよりふっつーの反応? 精々知ってるーに安堵みたいな何かが混ざってただけ?

 ま、まあ更に別の鎌をかけてやればいいのだ! ……バリエーションがない! 今日にでも蛍に鎌のかけ方聞こうっと。


「…………、あたしのこと、好きでいてくれて、ありがとう」

「あ? 何で?」

「ううん。なんでも」

「そっ、か」


本当に、幼馴染みとしてでもいい。こんなあたしを好きでいてくれて、ありがとう。


「お前家出もどきしてからなんか変だぞ? 大丈夫か?」

「変わんないよ……ってそれ何度目? あたしが家出もどきしたの去年の今ごろだよ?」


あぁもう、こいつはよく見てんなあたしのこと。どんだけ鋭いのさ。……でも、言えないけど。

 どんなに言おうとも、あたしは絶対この秘密(・・)を抱えて、誰にも、たとえ人生にも言わないで生きると決めた。

 いや、正しくは、言えない、かな。

 だって、誰も信じてくれないもん。

 そんなあたしのことを知らずに、ヒートは変わらずごねている。


「いや、でもよ……」

「うるさーい! 気にすんなー!」

「はぁ……、わかったよ」


ヒートは大きく溜め息をついてこの話をいったんとめる。大抵少ししたらまた聞き始めるけど。チャンス。いまなら話変えられる。


「ヒートはさ、高校でどうしてもこれだけはしたいことって、ある?」

「え? あ、あるけど……。お前は?」


フフ、予想通りの反応。

 答えを用意してないあたしじゃないですよ。短く、そしてカッコよく答えてやる。


「青春」

「青春? ……たとえば?」


カッコつけたことに気づいているのかいないのか、いぶかしげな声をあげて訊ねられる。……えっ? たとえば? えーと。


「みんなで買い食いしたり、買い物したり、部活したり、夏祭り行ったり、勉強会したり、テストに一喜一憂したり、とか?」

「とかってなんだよ」

「とかはとかだよ。例えばだよその他だよ色々だよ。……そういうヒート君は、具体的に何がしたいんですかー?」


少し口調を意地悪にして、ヒートに意地悪をしてみる。


「俺は……」

「俺は?」


少し言いづらそうにしていたから、急かすように寄ってみる。


「……が、したい」

「え? なんて?」

「なっ……んでもいいだろ」


かなり気になったけど、本気で不機嫌そうだったから諦めて、別のことを伝える。


「ま、いいや。ねえ、ヒート」


家出もどきをする以前の夢を。


「あたし、同好会を作りたいんだ」

「同好会? なんの?」


人生、いったいどんな顔すんのかな。

 でも、多分。


「青春研究会」


活動内容を話す間、人生の顔はあたしの予想通りに変化する。

 目を少し見開いて、口を何か言いたげに動かすけど、すぐに笑って。


「いいな、それ。乗った!」


いたずらっ子の様に、楽しそうに、何度も見た大好きな笑顔で。

 ヒート。あたしはあなたが好きだよ。これが恋か幼馴染みとしてかはわからないけど。

 だけど、一生、それを口には出さないよ。絶対に言っちゃいけないことだから。

 だから、学生の間は一緒にいてください。

 前世で、大きな罪を犯した、あたしでも。

お目汚し失礼しました。

もしお時間がありましたら、今後の研究のために感想をお願いします。

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