七十二
よく晴れた日曜日だった。恋人たちが手と手を繋いでお外でいちゃつく、いわばデート日和とでも言いたくなるさわやかな秋晴れだ。
「あ、おと!」
朝から外に出た啓介は前を歩くカップルを足早に追い越したが、男のほうに後ろから声をかけられた。分かっていたから、わざと無視したのに――
「まさか休みの日に会うなんてな!」
話しかけてきた男、立川は能天気に笑って手を振った。そして、その隣には当然夏音がいる。彼女は少し困惑したように頭を下げると、ちょっぴり微笑んだ。
「お久しぶりです」
「え? 何、知り合いだった?」
立川はすっとんきょうな声で叫ぶと、啓介と夏音を交互に見た。
「うん。先輩の弟さんだったから」
夏音は手短に説明し、啓介にもう一度頭を下げた。
「色々、ありがとうございました。家の掃除も手伝ってくださって……お蔭で母の調子もだいぶ良くなったんです」
「いや、あれは姉ちゃんが――」
「え、えっ? おと、お前夏音の家に行ったことあるのか?」
啓介の言葉を遮り、立川は必死な形相で彼に詰め寄った。
「ん、まあ。ちょっとだけだけど――」
「ええ⁉ 俺もまだ行ったことないのに? なんでお前が……」
立川は大げさな身振りで頭を抱えると、今度は夏音に向き合った。
「じゃあさ、俺も当然夏音の家に行ってもいいよな。おとが行ったんだからいいよな!」
「えっ、ちょっと、それは……」
「よし、じゃあ今から行くか!」
大胆にも夏音の手をつかむと、立川は手を引っ張りながら張り切って去っていった。
「あ、ありがとうございました!」
夏音の困ったような、それでいて嬉しそうな声が啓介の耳に届く。あんな感じで、告白されたときも断れなかったんだろうな。それはそうと、立川。そっちは多分逆方向だぞ。
心の中でそう呟いて友人の雄姿に背を向けると、啓介は再び歩き出した。
今度は、自分の仕事を果たすために。