六十
なぜ、こんなところにいるんだ。
上昇する心拍数をおさえつけようと無駄な試みをしながら、啓介はぐるりとあたりの様子を見まわした。ソファにはずらりとクラスメイトが並び、テーブルにはたくさんのジュースにスナック菓子。おかしい、どう考えてもおかしい。なんで病院から直行でカラオケに来てるんだ。
「それではー。音羽啓介君の回復を祝いまして……」
「かんぱーい!」
大きな掛け声とともに、ジュースが入ったグラスがうちあわされる。
「一言喜びの言葉を言ってもらいたいと思います! おと! ほら、マイク」
友人からマイクを押し付けられ、苦笑しながら啓介は立ち上がった。
「えー、まずは……ありがとうございました。ご心配をおかけしました……と言っても、一日しか入院はしていなかったんですが……」
クラスの誰にも、病院で一夜を過ごしたなんてことは言っていない。どこからその情報を手に入れたんだ。ちらりと立川を横目で見ると、こともなげに「お姉さんから聞いた」と答えた。
現在、どうしても都合のつかなかった数名をのぞいて、ほとんどのクラスメイトがこのVIPルームに集まっている。部屋の広さと前方に設けられた小さなステージ、それに頭上できらめくミラーボールがその証だ。落ち着かない。早く帰りたい。
「それじゃ、まず本日の主役! おとに一曲目をお願いしたいと思います!」
立川がいつものようにSKYっぷりを発揮して、啓介を無理矢理ステージに上らせた。イェーイ、拍手なんて言って、場を盛り上げている。こいつ、俺に対してだけ空気を読んでないんじゃないか。立川の司会を見ながら今さら考える。思い返せば、立川は啓介よりも人望が厚かった。それがなぜなのかずっと疑問に思っていたが、ようやく謎が解けた気がする。
どうしようか。啓介は自分が窮地に立たされていることに、ようやく気がついた。




