五十九
三人は、押し黙ったまま音羽家を目指して歩いていた。姉は脇目もふらずに足早に、夏音はうつむきかげんに。そして、啓介は疲れ切ってうなだれたまま足を運んでいた。早くベッドに倒れこみたい。考えられるのは、ただそのことだけだ。
だから、家の前に人が立っているのを見たときから嫌な予感がしていたし、その人物が立川悟であることに気づいてからは、あからさまに嫌な顔をした。
「おと! 元気か!」
啓介の不興そうな表情を気にも留めず、クラスメイトである立川は走り寄ってきた。啓介の傍らにいた夏音と姉を見ると、慌てて一礼する。
「あ、すいません。何か今から予定があるんすか」
「ううん、何もないよ」
姉はすかさず答えると、にこやかに啓介が持っていた荷物を強奪した。
「啓介、ほら行ってきなよ。私と夏音ちゃんはあんたの分まで家でくつろいでおくから」
「でもさ、めんどくさ――」
「帰ってきたばっかで悪いけど、早速行こうか」
相変わらず空気の読めない立川は待ちきれないように足踏みすると、期待を込めて啓介を見つめた。助けを求めるように夏音を見たが、彼女はあいまいな表情で視線をそらすだけだった。
「じゃ、いってらっしゃい」
姉は手を振ると、夏音を促してさっさと家の中に入ってしまった。孤立無援。どうしようもない。
啓介はあきらめて立川にうなずいてみせた。ここで抵抗しても、こいつがひくわけない。無駄な労力を使うくらいなら、いっそ大人しく言うことを聞いていたほうがましだ。
啓介の反応に、立川は嬉しそうにガッツボーズしてみせた。
「じゃ、早く行こう。カラオケに!」