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五十一
自分の命は助かった、しかし、音は――。
病室のベッドの上で、啓介は目を開いた。どうやら眠ってしまったらしい。救急車に強引に乗せられたところまでは覚えていたんだけど、とそっと頭を起こすと、椅子に座って携帯をいじくっている姉の姿が目に入った。
「やっほ、おはよ」
視線に気がついたのか、姉は顔をあげると微笑んだ。
「今日だけは泊まっていけってさ。念のために」
「平山さんは?」
「あー、帰ってもらったよ。もう遅いし、疲れただろうし」
姉は歯切れ悪く言うと、時計を指さした。二十一時。確かに外はすっかり暗くなっている。