四十五
男の問いに、姉は相変わらず顔に笑いを貼りつけながらうなずいた。
「そうか……助けに来たんだな」
彼は呟くと、今度は夏音に向き直った。先ほどとは異なって男のほうから夏音に近づくと、眼光鋭くにらみつける。
「春音のわけがない……ありえない、アレは死んでいるんだから。何か細工してあるに違いない……」
口の中でぶつぶつ言いながら、それでも夏音に触れる勇気はないらしく、あごに手を当てて彼女を見つめた。
「けいすけー。寝心地はどう?」
突如、女性店員に拘束されたままの姉がのんきな声をあげた。いきなり話しかけられ、啓介はびくりと両肩を震わせたが、努めて平静を装った。
「そろそろ背中が痛くなってきた」
「だろうね。でも、大丈夫じゃない?」
相変わらずののんびりした口調で姉が言った。
敵の根城までわざわざ来たからには、何か手を打っているんだろう。逃げ出す算段は、もうついているのか。啓介は期待が胸の中で大きく膨らむのを感じた。
「助けてくれるのか?」
どうしても、聞かずにはいられなかった。男のほうをうかがいながら啓介は言ったが、心配はいらないようだった。男はやはり夏音を見つめたまま、微動だにしなかったからだ。
「私たちに助けを期待してるなら、無駄だけどね、啓介」
希望に満ちた眼差しの啓介に、彼女はウインクしながらその望みを打ち破った。




