四十一
「なにか上が騒がしいな」
機器の調整をしていた男が苦い顔で天井を見上げた。確かに、何か争っているような物音が聞こえる気がする。
「見て参ります」
女性店員がぺこりと頭を下げて出て行こうとするのを、男が慌てて引き留める。
「もうすぐだ、少し待っていろ。何かあったとしても、バイトがやっておいてくれるだろう」
ずっとこんな感じなのだろうか。女性がかしこまりました、とうなずくのを啓介は暗い気持ちで見た。出来損ない、失敗作とののしられながらも主に尽くして生きて行かねばならない。ロボットだから、心はないのだから――。分かってはいるものの、正直かわいそうだ。一番憐みを受ける立場にいるのは殺されそうになってる俺自身なんだけどな、と啓介は自虐的に笑った。くだらないプライドは早々に捨てるべきだった。高校生活において大事なもの? 今なら言える、それはブランドではない、命だ。命あっての物種、というではないか。今さら気づいてももう遅いけれど――。
突如、エレベーターの到着音が鈍く鳴り響いた。続いて、廊下を全力疾走しているかのような足音も聞こえてくる。だんだんと誰かが近づいている。啓介は動かせる範囲でわずかに頭を持ち上げた。
男が何か言いかけるのと、ドアロックがされていなかった扉が勢いよく開け放たれるのは、ほぼ同時だった。
「啓介!」
啓介の目に飛び込んできたのは、ドアの向こうで肩を大きく波打たせている姉と、彼女の背中からそっと部屋をのぞきこんでいる夏音の姿だった。