三十九
死の宣告に啓介は声にならない悲鳴をあげると、ゼロに近い体力で女性の腕から脱走を試みた。だが努力もむなしく、最初に入った部屋にやすやすと運び入れられる。そこでは男性店員が相変わらず倒れていて、男は憎々しげに動かない彼を蹴り上げた。
「よし。そこの台の上にでものせて、動かないように固定しておけ」
「かしこまりました」
笑顔をなくした女性店員は、言われるままに行動する。啓介を固い台の上に寝かせ、右手でがっちりと身体をおさえこみながら、反対の手を伸ばして拘束具をつかむ。啓介はもはや無駄な抵抗をやめ、じっと耐えていた――女性のやる気スイッチを探りながら。
「音羽啓介君。残念だが、二号機には電源ボタンは付属していない」
男は先ほども居た隣室で様々な機材をいじくりながら、ガラス越しに断言した。啓介がなおも未練たらしく女性の背中をまさぐっていると、彼女は剛腕をもって啓介の手をたやすくねじりあげ、押さえつけた。
「っああああっ!」
骨が折れるのではないか、腕の痛みに啓介は身をよじって逃れようとした。だが、ねじりあげられていた手もたちまち台に縛り付けられ、彼は動けなくなってしまう。
「改良を加えた結果がそれだ。回数を重ねるごとにさらに素晴らしいものに進化していく。今回は果たして、どうなるだろうか……君は、なかなか感情の高ぶりが激しいようだから、期待はしているのだがね。いかんせん脳みそがあまり詰まっていないらしい」
自らの頭を人差し指でとんとん、と叩く男を啓介は痛みをこらえてにらみつけた。はらわたが煮えくり返るが、体を動かすことができない。恨みがましく男の一挙一動を見つめるしかなかった。