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三十一
「さあ、入るんだ」
部屋の扉を開くと男は一歩脇によけ、啓介の背中を強く押した。啓介は勢い余って部屋の中に倒れこみ、何するんですか! と大声で抗議した。
「感情に任せて行動するのは危険だよ。音羽啓介君」
男は唇をゆがめて言い捨てると、すぐさま扉を閉じた。啓介ははっとして出口に駆け寄ったが、頑丈な扉はびくともしない。……閉じ込められてしまった。
「え? これ、どういうことですか、監禁ですか!」
閉ざされた扉を拳で叩きながら、啓介は半ばパニックになって叫んだ。頭が状況に全然追いつかない。
「だから、冷静になれと言っているのに」
ため息交じりの声が頭上から聞こえて、啓介は叩くのをやめて上を向いた。そして、気づいた。さっきの男がスピーカーを通して話しかけていること、しかもガラス張りの隣室から啓介の様子を見て、にたりと嫌な笑い方をしていることに。
「落ち着いたかい?」
「ここは……」
「カラオケ店の地下、だよ」
男は小ばかにしたようにひらひらと手を振りながら、マイクに口を近づけた。
「音羽君、お疲れさま。君の役目はここで終わりだ」