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二十六

「姉ちゃん、音を知ってるの、か……」


 突然の姉の告白に、啓介は開いた口がふさがらなかった。

 音を知っているのかなんて、聞くまでもなかった。音が見たと言っていた人影、あれは姉だったのだ。知っていて、音と生き写しの夏音を紹介したのだ。今になってそんなことを言う姉に不信感を抱きながら、啓介は何が起きてもいいように身構えた。


「知ってるってほどじゃないよ。あの一瞬で見えたのは、啓介が画面の中の女の子、しかも夏音ちゃんらしき子と向かい合ってる姿だけだったから。もう少し観察したかったんだけど、気づかれちゃってさ」


 彼女の話によると、本当にカラオケに行っているのか確かめたくなってひそかに啓介を尾行し、音の存在を知ったのだという。だが音にのぞいていることがばれ、慌てて空いていた隣の部屋に駆け込んだ。もう一度様子をうかがったが音の姿が無かったので断念、夏音と啓介を会わせて反応を見ようとしたらしい。


「誰にもそのこと話してないよな?」

「大丈夫、その点は安心してもらっていいよ。第一、啓介が挙動不審じゃなかったら、あれは見間違いだったのかも、で済んだ話だったのに」

「挙動不審?」

「うん。いっつも周りを警戒して、びくびくしてたし。そのくせ妙にハイテンションでうっとうしいったらありゃしなかった」


 そうか、確かに変な奴だったかな。音との会話を思い出してにやついたり、歌の練習の失態で身もだえしたり。反省。


「じゃあ、姉ちゃん以外音のことは誰も知らないんだよな」

「少なくとも私から漏れることはないよ」


 姉は慎重にそう言うと、他の誰にも見られていなかったらね、と付け加えた。その言葉に不安を覚えたものの、今さら気にしてもしょうがないことだ、と少々楽観的に結論づける。


「写真は?」


 肝心かなめのものの存在を思い出して啓介ははっと顔を姉に向けた。蔵の地下で意識を失ったとき、写真は扉に貼りつけられていたはずだ。あのままだとすれば、もう一度取りに行かねばならない。

 黙り込んでしまうだろうという啓介の予想に反して、姉はにやりとすると尻ポケットから写真を取り出した。人様の家のものを勝手に持ち出して、しかも尻ポケットに入れておくなんて不謹慎な、と言うのは今は置いておこう。啓介はかしこまってそれを受け取ると、もう一度じっくり眺める。


「夏音ちゃんに似てるけど、違うんだよね。カラオケの子でしょ」


 啓介が何か言う前に彼女は頭を横に振って


「言わなくていいよ。これに関して、私は何も聞かないことにするから」

「あの子が誰なのかとか、気にならないのか?」

「啓介は、あの子についての情報を何もつかんでないんでしょ?」


 いたずらっぽい笑顔で姉は首をかしげた。


「いや、知ってるよ――名前が音だとか、五〇三の部屋にしかいないことだとか」

「そう、有益な情報ね」


 姉は立ち上がると、軽く尻をはたいて呟いた。ああ、そうだよ。どうせ俺は情報収集能力ゼロの役に立たない奴だ。


「それじゃ、おやすみ」


 姉はひらひらと手を振ると、啓介を見もせずに出て行った。

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