十八
「ちょっと、それよく見せてください」
啓介は夏音の手元にあったアルバムをぐいっと引き寄せた。姉が抗議の声を上げたが、啓介の耳には届かない。真剣な顔で一枚一枚写真を念入りに見ながら、一心にページを繰る。
アルバムの中身は、ほとんどがかわいらしい笑顔を浮かべた少女が一人で写っている写真だった。両親らしき男女に挟まれて無邪気に笑っている写真、三人そろっている写真は数えるほどしかない。
「この女の子は、平山さんではないんですか?」
全ての写真を見終わると、啓介は顔を上げて夏音に尋ねた。彼女は怪訝そうに首をかしげ、「はい、多分……」と頼りなげにうなずく。
「写真を見ても、何も思い出せないし……。でも、その女の子、私に似てますよね?」
「いや、どう見たって夏音ちゃんでしょ」
姉が横から口をはさむ。
普通はそう考えるだろう。この女の子は、どう見ても夏音だ。だが、夏音自身が懐疑的なのもあって啓介はいまいちそう思えなかった。
啓介は改めて写真と実物の夏音を見比べてみる。
「もしかして……双子の妹とかいますか?」
「まさか」
夏音は心底びっくりしたように、力強く否定した。
「双子なんていたことないですよ。いたらいいな、とは何回も思いましたけど。だいたい、姉妹とかがいたら、一緒に暮らしてませんか?」
「そうですよね……」
啓介はあごに手を添えると、写真を見つめたまま考え込んだ。
夏音とそっくりな女の子を、彼は知っている。夏音より少し顔つきが幼く、妙になれなれしい女の子を。もし、この写真が音だとしたら? 音は平山家と関係のある人物だったのか? それがなぜ、カラオケ画面の中にいるのか?
手がかりらしきものが見つかったのに、何の解決にも結び付かないことに啓介は歯噛みする。前進するどころか、分からないことが増えてしまった。
「双子の線、ありえるんじゃない?」
少し興奮した面持ちで姉が口走った。啓介と夏音、二人とも姉に注目する。
「ほら、実は生き別れた妹でした、とか。訳あって遠方で暮らしているけど、定期的に手紙をお母さんに出している、とか。夏音ちゃんには今まで黙っていたけど……って感じでさ」
「そんな空想、昔は良くしましたよ。実は、自分はここの家に預けられているだけで、本当の両親は別のところにいる、とか」
なにか思い出しているのだろうか、夏音は目線を上げると懐かしそうに言った。
「それか、夏音ちゃんの生霊が形を成した、とか」
「生霊ですか、これ」
「もしかしたらドッペルゲンガーかも。会ったら死んじゃうって評判の!」
女子二人の話は、いつの間にかオカルト方向に転がっていってしまった。いつだってそうだ。話題はめまぐるしく変わっていく。
啓介はそんな彼女たちの様子を気に留めることもなく、黙って写真をのぞいていた。もしかしたら、何か見逃したものがあるかもしれない。そんな淡い期待を抱きながら。