とある帽子や
何が起きたのか全く分からなかった。
現状としては、今は夜の真っただ中ということ。そして、昨夜の仕事と酒の酔いに疲労感をただ思い知らされていた時のことだった。
ちいさな小人が一人に大きな青年が一人。頭上で薄くぼんやりと彼らが自分を見ている様は、あまりにも無だった。
少し目を開くものならば、姿がより一層容どるようにハッキリと見えた。
「ここはどこ」
静けさを破くようにそう小人は呟いた。
僕が答えるまで何度も、何度も……
「僕の家…」
そう答えると、小人はにんまりと顔を崩した。
その時は何故か、小人の顔に見入り、目が丸くなった。
「そう、ぼうし屋さんの家だよね」
自分の職業を言われ思わず胸がドキリとした。
「ぼうし屋さんの家だな」
いきなりの低音の声に驚いたのと、またもや先ほどの胸の締りのようなものを感じた。
そう口ずさんだ少年の顔はどことなく微笑んでいた気がした。
少し沈黙すると、今度は僕の口が自然と開く。
「君たちは誰」
普通ならそう言わざるおえない状況だったのであろう。
だがしかし、今の自分は何の疑問も持たずただ、その言葉しか浮かばなかったのだ。
「誰だろうね~」
「誰だろうな」
二人はその言葉を飽きずただずっと同じ調子で繰り返した。
なぜだかその言葉に、嫌味やふざけは感じなかった。
「じゃあぼうし屋さんは一体誰なんだろうね~」
小人はまた不思議な言葉を発してきた。
ぼうし屋さんだと分かっているなら何故、誰だと聞いてくるのだろうか……
でもまた自然に言葉が出てきた。
「誰なんだろうな」
少し困り笑いをしながら言うと、小人と青年は黙った。というよりはむしろ、なにかを考えている様子だった。
さっきまで聞こえていた木の揺れる音も、風と共にいつの間にか静まり返っていた。
「だれでもいいんじゃないか」
「だって、目の前にいるぼうし屋さんは一人しかいないぼうし屋さんなんだもん」
心がいきなりポカンと穴が開いた。
目を覚ませば鳥ののどかな声と日差しの照りが襖の間から差し込んでいた。
(夢……)
何故だかその日は朝から庭に足を運んだ。
すると大きな帽子と小さな帽子が木にぶら下がっていた。
よく見ればそれは、最初に作った帽子だった。
あまりにも不格好でほつれもあるが、それからは暖みと懐かしさを感じる。そして悲しみでもなければ嬉しさでもない、そんな涙が自然と頬を伝っていた。
「そうか…」
彼らが何を伝えたかったのか。ぼうし屋の誰かさんだけが感じた二人の想い。