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高閑川皀莢

作者: 黒幕宰相

 あらすじ参照。ほぼ自分用。

 高閑川皀莢(たかがわさいかち)と云う天狗は、幻想卿発祥以来の一大事変である「吸血鬼異変」が勃発する以前は、一介の報道鴉天狗に過ぎなかった。彼が発行していた「八朔新報(はっさくしんぽう)」も、毎年催される新聞大会での評価はそれ程芳しいものではなく、彼自身、自分の新聞は天狗社会に於ける「娯楽としての役割を担った新聞」でないと云う事実を誰よりも理解していた。彼がそう判断する具体的な原因を挙げるとするなら、八朔新報は他の大多数の鴉天狗が発行する、所謂醜聞誌(ゴシップ)と比較した場合、その記事が余りにも資料的過ぎると云う点であった。他の新聞は山で起こった事件や天狗内部の権力闘争等を記事にしている只中に在って、彼の新聞は、妖怪の山の人里に対する支援状況や、それに付随して変化する人里の生活の変化等、新聞と云うよりかは、ある種報告書に近い性格を持った新聞だったのである。日々、生活の中に刺激と事件を求める天狗社会の環境の下、彼のそう云った新聞が評価される事は酷く困難な事であり、事実として、評価される事は無かった。

 しかし、そんな彼に一つの変化が訪れる。そう、幻想卿第112季に於ける「吸血鬼異変」の勃発である。高閑川等、報道鴉天狗は皆例外無く「報道省」の隷下に在る。この報道省と云う組織は、異変勃発時、天魔勅令によってその名を「軍事情報担当委員会」へ改称し、報道鴉天狗の多くは兵部省と連携し、各地への伝令や斥候、諜報活動を担当する手筈となっている。そこで高閑川に与えられた任務は、吸血鬼軍に対しての諜報、及び破壊工作(サボタージュ)であった。より具体的に云うのなら、電撃的な速度で侵攻を行なっている吸血鬼軍の後背に浸透し、敵の総兵力の把握や展開状況の報告、可能な限りの兵站破壊である。その第一陣に、彼は選ばれた。詰まり敵の状況をほぼ与えられないまま敵の後背に進出し、任務を遂行せよと云う、挺身隊であった。彼の他に8名、計9人の鴉天狗が選出され、それぞれを3名に分けた3分隊による形で、任務は開始された。吸血鬼軍が侵攻を開始してから僅か8刻後の事である。

 高閑川班は迅速に敵の後背に回り込み、早速敵の兵力展開状況や進軍ルートを参謀部へ報告した。吸血鬼軍も、妖怪の山の常備軍こそが最大の障害となる事は重々承知していたようで、霧の湖から妖怪の山へと続く狭い隘路は、瞬く間に吸血鬼軍の兵で溢れ返った。本来であれば、この隘路を利用して、吸血鬼軍が山へ到達する前に出血を強いる戦略を採るべきではあったのだが、山の防衛体制が整う前に敵の進出を許してしまった為、その地形を利用した伏擊等は行われなかった。

 開始当初は順調に遂行されていた彼等の諜報活動も、日が経つに連れ、徐々に困難の色を深めつつあった。その主な原因は、吸血鬼軍が新たに展開した空中哨戒部隊の存在である。この哨戒部隊の展開に因って、それまで比較的安全に行われていた戦略、戦術偵察や本部連絡隊との接触が著しく困難な状況が形成されてしまい、迅速な情報伝達手段が限定されてしまった。幾ら飛翔速度に秀でた鴉天狗と雖も、端から迎撃体制が整っている敵の制空権域に於いて具に敵情を観察すると云うのは至難の技であり、何より情報の確度に欠ける。超高々度からの偵察も考慮されたが、抑も幻想卿全てが黒い霧に覆われている以上、そんな高度からでは、録に地上を見渡せる筈も無く、試行の余地すら議論される事は無かった。3隊の挺身隊の内、2隊は無事に本部まで自力で帰還したが、高閑川班との連絡は困難な状況であった。殊、高閑川班は吸血鬼軍の最奥部、敵司令部付近まで浸透していた為、生還の可能性は絶望的であり、司令部が最早帰還の可能性無しとして、新たな情報獲得手段を模索し始めたその時、司令部の戸が叩かれた。


 「高閑川皀莢二等記士官以下二名、敵情更新に付き、只今参上致しました」

 

 騒然。正に騒然であった。

 

 「失礼、大縮尺とコマをご用意頂けますか?」

 

 暫く放心状態であった兵等が、直ぐ様卓上に大縮尺を広げる。

 

 「有難う御座います。まず、吸血鬼軍は目下攻撃中である正面主力とは別に、一個連隊相当の兵力を九天方面に動かし始めました。数からして、恐らくは増強連隊と思われます。正面予備は未だ攻撃の兆し無し。恐らく、この九天方面からの強行で我が軍左翼を側面から攻撃。我が軍の正面が予備を左翼に差し向けた機会を伺い、全力を以て正面攻撃、戦線に穴をこじ開け、流れ込んで来るものと思われます。九天方面に動いている別働隊には予備兵力が見当たらない所を鑑みるに、この攻撃さえ防いでしまえば、彼等の息が切れるのはそう遠くないのでなないかと推察致します。以上、報告終わり」

 

 大縮尺にコマを置きつつ、高閑川は淡々と偵察情報を報告した。どうやら吸血鬼軍は現在攻撃中である正面の突破は難しいと考えた様で、妖怪の山の偵察手段をを封殺してから、九天方面、詰まり山の軍左側面に強行進出し、一番兵力の手薄な左翼を集中攻撃する事で、山の軍の目を左翼に釘付けにしようと画策した。その隙に、吸血鬼軍は予備を含めた最大兵力で正面に対する総攻撃を敢行し、一気に山の防衛戦の瓦解を目論んだのである。この頃、山の軍は丁度左翼の予備兵力を決戦用として中央に抽出したばかりであり、正に左翼は張子の虎であった。

 

 「現在、我が軍左翼にて展開中の兵力は一行院中佐麾下の一個支隊のみです。これでは恐らく防ぎ切れません」

 

 参謀の一人が言う。


 


 


 


 


 

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