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出会い(3)

明くる日、ある筈の講義が休講になった。


これから梅田に向かうと約束の時間には早すぎるし、どうしょうか‥



そう思いながらも一先ず 梅田に向かうことにした櫻子は、駅へと続く坂道を歩き出した。



阪急沿線の本線から大学へは単線が敷かれてあり二駅乗ると最寄りの終点駅だ。



勿論、帰りは その逆で終点駅から本線へとほんの15分ほどの二駅の旅である。


櫻子は、お天気も良いし その二駅を歩こうと決めたのである。



桜の時期なら阪急沿線で一番の桜の名所である夙川沿いは、人、人、人で桜の並木を散策する気分にもなりはしないが、それはそれで、桜の花に酔いしれる。


そろそろ汗ばむような この時季に何を好き好んで歩くのやら‥



しかし、新芽が宿るこの季節も悪くない。


川面をぼんやりと眺めながら歩くと



スーパーの買い出しから戻る潤ちゃんにばったり会った。



「櫻子、何処に行くの?」



「ちょっと、梅田まで出ようかと思って!一限 休講になっちゃったの。潤ちゃんは買い物?」




「そっ、今日、シャンプーが安売りだったから」




私たち寮生は、そんな安売りを追いかけないと‥アルバイトも出来ないし仕送りの中では遊ぶお金が作れないものだ。




美学生は、製作の量が半端じゃなくバイトをする学生は 滅多にいない。しかも、寮生の門限は19時なんて高校生並みである。




では、機会があって合コンなど誘われた時は、どうしてるんだろうか?




「ねぇ、潤ちゃん!合コンなんて行く時は、寮の門限どうしてるの?」





「門限なんて守れるわけないじゃない!だから、最初から宿泊届けを出してるよ」




「そんなの〜でっ、何処に泊まるの?」




「届けには実家と書いて出すの。泊まる処は、その時に寄って‥友達の処とかビジネスホテルとか‥若しくは」





「若しくは?」




潤ちゃんは、ニタッと屈託のない笑いを見せた。



ははぁ〜ん‥そういうことか。



先日も それで合コンで知り合った土屋さんちに泊まったと言うのか!川岸のベンチに腰掛けた櫻子は、潤ちゃんの恋愛感を羨ましそうに また、不思議な感覚でおそるおそる訊ねては自分の感覚との違いに驚かされた。



「ねぇ、櫻子って‥まだバージンよね」



突然の潤の言葉に絶句した櫻子は、その言葉に観念したように応えた。



「う、うん!そうなんだけど‥なんで、なんで知ってるの?」




「そんなことは、知らないけど~櫻子を見ていたらそうじゃないかと思っただけよ!櫻子は、どう思っているの?私は、結婚する相手でなきゃ~とか思ってる?」





「そんなに重く考えてはいないわよ!出会いがなかっただけよ!」




「櫻子ほどの美貌の持ち主が出会いがなかったなんて変じゃない?出会いはあった筈よ、櫻子の気持ちが拘り過ぎてやしない?」



この時点で潤の言っていることが理解出来なかった。


何故なら、櫻子の家庭に問題があったので、父は家庭を顧みず女遊びにかけては時間を惜しまぬ精神の持ち主。

母からは、年がら年中父の愚痴を聞かせられていた櫻子にとり、男女の関係イコール不貞だと思い込んでいるところがあった。

愛とか恋とか言っても所詮、男と言うものは、女との関係が目的。母からは、そんな不埒な男の生理的欲求やら裏切り‥耳にタコができるほど聞かされていれば、櫻子だって恋愛に臆病になるのは当然である。



「余り、深く考えない方がいいんじゃない。櫻子、この二十歳って二度と来ないのよ。楽しいことしなきゃ」




「楽しいこと‥?」




「そっ!恋して!その人を好きになって!その人に触れたくなって!抱いて欲しくなる!自然よ~」





「抱いて欲しくなるねぇ~まだ、そんな気持ちになったことないなぁ~」




「じゃあ、これからね!とにかく、一度 土屋さんに会っておいでよ~櫻子のタイプじゃないかもしれないけど‥」




「実はね、今から会うの」





「そうなんだ!なんだかんだ言って ちゃっかりしてるじゃん。行っておいで、私は お似合いだと思うよ」




潤に尻を叩かれたように櫻子は足早で駅へ向かった。

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