まえがき
梅雨の中休みなのか、今日はやけに陽射しが眩しく 息子の三者懇談の為、一時間も高速を飛ばしてきた櫻子は、懇談の時間を勘違いしていた。
腕時計に目をやると、三時間も余裕がある。
この三時間をいかに有意義な時を過ごすか?
そう考えるとウキウキ胸が踊った。
折角、仕事からも解放されたのだから。
街をぶらぶら歩くだけでは物足りない。
美容院には先週出掛けたばかりだし、一番リフレッシュ出来るであろうエステサロンなんて気の利いたお店は こんな田舎街には充実していないだろうと
取り敢えず、駅前に車を停めた。
そもそも なんで三時間もの時間の誤りがあったのか‥?
息子は、これまでの懇談会で櫻子が懇談会を優先したことがなく 毎回、夕方の最終で仕事が終わってから来るものだと思い込んでいたようである。
懇談の日程の用紙を貰ってきた日、
「お母さんね、今回から懇談会を優先するから一番に予約していてね!」
息子は軽く
「了解。じゃあ、先生に訂正しておくよ」
そう言っておきながら 訂正せずに最終で予約したままだったらしい。
まぁ、息子を責める必要もなし 櫻子は自分に与えられた天からの贈り物でも戴いたようにプレゼントされた三時間に感謝した。
ふとっ、駅前の看板が目に留まった。
『眉山‥』
さだまさし原作の映画のロードショーをしている。
昨年、原作本は読んではいたが、この話が映画化になれば‥自分自身で勝手に配役をキャスティングしていたことを思い出した。
櫻子は、すぐさま車を駐車場に入れた。
田舎街だと認識していたが これほどまでとは思わなかった。
櫻子は、たった一人で大きなスクリーンを独り占めすることが出来た。
昨年、本屋で『眉山』を手に取ったのは訳があった。
懐かしい『眉山』という響きが櫻子を青春時代へとブラッシュバックさせたのだった。