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短編集  作者: 一嘉
目覚めれば、魔王の息子
3/14

目覚めれば、魔王の息子

[投稿日]2011.11/02

[再掲載]2011.11/15加筆修正

[設定]転生したら、魔王の次男。





薄暗い城内。風に揺らめく蝋燭の灯りを頼りに、俺はある人の部屋に向かっている。自分の部屋とは反対側の棟にある部屋に。通り過ぎる衛兵が驚きの眼差しを向ける中、やっと到着した彼の人の部屋前で立ち止まると、ドアをノック。4回ノックなのは、互いの立場故の事。



「……誰だ」

「兄、俺。話があるから、入っていいか?」



部屋の中で呟くように尋ねて来た声でも聞こえるのは、俺が、俺達が魔族である所為だ。例え暴風雨の中で誰かがすかしっ屁をしたとしても聞こえる程の聴力を持っている。……あまり有り難くない能力だ。


ついでに言うと、態々誰だと聞かなくても気配で俺だと兄はわかっているの筈。何故か、と問われれば、それも〝魔族だから〟で済む理由。しかし態々誰かを確認したのは、一応の確認だろう。


暫くの間の後、入室の許可が下りたので扉を開く。ちらりと周りを確認すれば、兄の部屋から離れて立っている衛兵が慌てたような顔を見せていた。にっこり笑って手を振ってやると、ますます慌てている。


部屋に入ると、扉を閉めて背中を扉に預けた。外開きの扉なので、誰かが開けたらそのまま倒れるが、父、もしくは母以外の者が入室を許可する前に扉を開けると物理的に首が飛ぶので、そんなチャレンジャーは居ない。


兄は部屋に入って来た俺を振り返る事なく、勉学に勤しんでいる。きっと、魔王になる為に必要な知識を叩き込んでいるのだろう、毎日、毎晩。そっちの勉強には全く手を付けていない俺から見ると『まあ、よくやりますねー』と言った所だ。



「何の用だ。……いや、貴様が言わずともわかっている」



何も言わなくてもわかっていると、兄は俺の事をわかったように言うが、はっきり言って全くわかっていない。言葉の後に、少しの殺気が表れたのがその証拠だ。きっと兄は、俺が宣戦布告をしに来たと思っている。


生まれてから、16年間。同じ親から生まれ、同じ城でずっと共に暮らして来たのに、双方が〝第一位王位継承権〟を持っている為に親しくはなれず、ずっと敵視されて来た。俺が、歴代の魔族や魔王よりも遥かに高い魔力を持っていた為に。


だけど、それも今晩で終わり。俺はその為に護衛も何も連れず、この部屋に来たのだから。



「そっか。じゃあ、話は早い。父と母と皆の事、宜しく! 一応、1年に1回は手紙書く予定だから。んじゃ!」

「……何?」

「何って、王位継承権を放棄して、旅に出るんだってば」

「貴様、それはどう言う事だ!」

「いや、だって何も言わなくてもわかってるって言うから……」



何? の辺りでやっと振り向いた兄。久し振りに見た顔は、困惑に満ちている。仕舞いには怒り出した兄に対し、自分がわかるって言うから説明省いたんだけど? と小首を傾げて言ってやれば、彼はぐっと口篭った。


自分と同じ黒髪で、赤い瞳に尖った耳。この3つは魔族である証。黒髪で青い瞳ならばエルフにも居るが、赤は魔族の象徴。顔立ちは兄が父に似ていて、俺は母に似ている。どっちも美形なので俺や兄も必然的美形になるが、兄は知性的な美形と言えるだろう。まあ男の美形に興味はないから、どうでも良いが。



「兄は俺も魔王の座を狙ってると思ってたみたいだけど、それ、すげぇ勘違いだから。俺、魔力高いだけで、魔王としての素質ないし。そもそも魔王になりたいと思った事ないし」

「馬鹿な事を……貴様、魔族としての誇りを失ったか!」

「その誇りって、俺の誇りじゃないもん。先祖の魔族が積み上げて来たモノであって、俺自身が作り上げて来たもんじゃないから、吹けば飛ぶようなモンだぜ? 魔族に生まれた事で、誇りを持つ訳じゃねぇし。そんな俺が魔王になって、魔族引っ張ってくとか無理。超無理」



魔王として父の後を継ごうとしている兄が居るなら、俺は別に必要ない。そもそも魔王になるつもりもない。周りが囃し立ててるだけ。魔王は兄がなればいい。兄ならきっと、立派な魔王になれる。


そう説明すれば、兄は複雑な表情で下を向いていた。これでもまだ信じられないのかと思い、先程父に継承権放棄の書類を渡して宣言して来たと言えば、驚きに目を丸くし、口をポカンと空けている。ちょ、美形なのに間抜けな顔だから、兄!



「父も母も了解してくれたから」

「何!? 父上も、母上もだと!?」

「や、だって、2人共、俺が魔王になるつもりないの知ってたし」



愕然、と言った顔の兄に畳み掛けるように、これから自分は地階(魔族が住むのが魔界・人間や亜人達が住むのが地界・神や天使達が住むのが天界)に行ってギルドに登録し、旅をするんだーとwktkしながら予定を話すと、魔族が受け入れて貰える訳ないだろう、と否定の言葉を頂いた。


俺はふふんと笑ってから、魔力を使って瞳に細工をする。赤い瞳を青色にしたのだ。ちなみにこれは赤色の上から、青い色を被せている。言わば、魔力で作ったカラコンだ。



「って事で、後は宜しく!」

「お、おい、待っ──」



兄の言葉を聞く前に部屋を出て、向かうのは窓。突然出て来た俺に驚いている衛兵に『じゃーなー!』と声を掛けてから窓を開き、付けていたマント(長い奴じゃなくて、短い奴な)をはためかせて暗い空へと飛び出す。目指すのは、地界。


16年間過ごした城を飛び出、新たな世界を求める俺。数秒後、背後から閉めた筈の扉が叩きつけるように開く音がし、部屋から飛び出して来た兄は窓から俺の背を見て声を掛ける。発しているのは、俺の名前。



「待て、ラクス! ラクレイシス=フォトン=ベルサミン=アビレボル=フェリオット=オマ=エノカ=ア=チャンデ=ベソ=ピエール=ポムポム=アバラオレタ=ガシェット=バルサミコス=バックライト=チュウ=シャキン=シダ=ベルガモット!!」





……いつも思ってたけど、俺の名前って、長すぎね?




     ◇    ◇    ◇




「ああ、お待ちしておりました、ラクス様。既に旅立ちの準備は整っております」

「サンキュー、クロード」

「勿体無いお言葉に御座います」



瞳の色を変え、訪れた地界。森の中の開けた場所で待っていたのは、俺の執事兼護衛であるクロード。黒髪で、本来なら赤い瞳をしているが今は緑色の瞳を持ち、剣を装備している。


王位継承権を放棄し、魔族である事も捨てた俺と共に来たいと懇願、断られたらいっそ死ぬと脅された日には、断る事など出来ないだろ? 俺としても、1人旅より2人の方が嬉しいし。


クロードが持って来てくれた服に着替えて杖を持ち、長い黒髪を緩い三つ編みにして貰う。その間にこの辺りにある村や町の話を聞きながら、最初の目的地を決定。俺が魔術師、クロードが剣士として旅をする事に。


目的地はまず近隣にある町へと決めた。俺とクロードは森を出て、その町へと向かう。魔族の俺はもう居ない、ここに居るのは地球に生まれて地球で死に、魔王の息子として生まれて人として旅立った、ラクス=ベルガモットだけ。



「よっし、行くか」

「はい、ラクス様」



恭しく一礼したクロードに頷き、俺達は歩き出す。冒険者としての、始まりの1歩を……。






書きたかったのは、兄が名前を呼んだシーン。お前、よくそれを噛まずに言えたね!? って名前を主人公に付けたかったのです(笑)

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