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短編集  作者: 一嘉
▼短編▼
11/14

ヘタレでトリップ

シモネタで突き進んでます。





俺はただ、茫然と立ち尽くすしかなかった。足元には白く光る魔方陣。周りをグルリと囲んでいる、白いローブを着た者達。皆、顔を殆ど隠していて、見えるのは目元だけ。男女の区別は身長差や、体つきで判断出来るが、長身な女性や細身で身長の低い男性、成長期を前にした少年も居る可能性があるので、はっきりとした区別をつける事は出来ない。


誰も言葉を発する事なく、黙って視線を俺に向けている。きっと声を掛けるタイミングを失ったのだろう。原因は、もっぱら俺にある。いや、と言うよりも、原因は俺しかない。


俺は、近所のスーパーに菓子とジュースを買いに来ていた。今日は金曜日、明日は学校が休み、2日間びっしり家でネトゲをする予定だった。その食料調達の為、近所のスーパーに来たのだが──俺は、菓子を探している間に、生理現象の訪れを感じた。大きい方でも、小さい方でもない。空気の方だ。


空気の方なら、人の居ない場所で出して即行逃げれば問題はない! 隠し切れない残り香が漂うだろうが、暫くすれば消える! そう思って俺は菓子のコーナーから、隣にある醤油やミリンなどを置いてあるコーナーに移動。母親に頼まれた醤油を買うそぶりをしつつ、誰もいなくなったのを確認して、発射した!


──筈だったのに、発射前に召喚され、ローブの集団の前で、〝ばぼぉ〟と言う音と共に屁をこいた。……誰にも気付かれないように、態々移動したと言うのに、こんな大勢の前での羞恥プレイ。


喚んだであろう彼等も、相当気まずい筈だ。相手が屁を放つタイミングで召喚したなんて。唯一の救いは、出した屁が臭くなかった事。しかし、俺は、俺は言わせて貰いたい。



「なんでこのタイミングで……」



がくりと膝を突き、〝orz〟の状態になった俺に対して、ローブの人物達はやっと我を取り戻したのか、慌てて俺を慰め始めた。『さすが異世界の勇者様、ご立派な音で御座いました!』『あんなに素晴らしい音は、今迄聞いた事はありません!』『あれ程の音を出せるなんて、素晴らしい肛門をお持ちなのですね!』『いやはや、召喚されて直ぐに我々をこんなにも驚かせるとは、素晴らしい勇者様ですぞ!』──フォローになってない。


慰められれば慰められる程、俺は段々自分が情けなくなってくる。態々陳列棚を移動したのに、こんなに大人数の人に見られるなんて。恥ずかしさと情けなさと、こっそり『どこここ!? この人等誰!?』と言う混乱もあってか、俺はその場に座り込んで泣き始めてしまった。情けないとか言うな、初対面の人々の前で屁を垂れてしまった俺の気持ちにもなれ!



「ああ、勇者様! 申し訳御座いません、我々が喚ぶのが早過ぎたば所為で……!」

「気になさらないで下さいませ、勇者様! 誰だって、出すものなのですから!」

「そうです、皆が出るものですから! 例え高貴な人物である王様だって王妃様だって、普通に出るものなのですから!」

「お主等! 勇者様のお気持ちをお慰めする為に、屁をするのじゃ!」



老人の声に、『はいっ!』と皆が声を揃えて一斉に返事をし、気張り始めるローブの人物達。所々から、小さく空気の出る音が鳴り始める。だから、俺の慰めにもフォローにもなってねぇって……。ってか、この空間ってそんなに広くないから……。



「ちょ、お前、臭ぇ!! 昨日何食った!」

「あ、やっべ、ニンニクたっぷり入れて、バウルの肉食った……」

「く、臭……うぉぉぉえええぇぇぇぇっ」

「ばっ、吐くなー! 吐くんじゃねぇー!」

「う、うぇぇぇぇぇぇっ」

「貰いゲロしてんじゃねぇ! 臭い、すっぱ臭い!」

「あ、実まで出ちゃ……」

「出すなー!!」



俺を放置し、混乱するローブの人物達。あっちで異臭を放ち、こっちで嘔吐し……ラノベの通りなら、召喚の儀式の間って、神聖な場所じゃねぇの? そんな所で屁ェ出したり、その匂いで吐いたり、吐いた人見て吐いちゃったり、力み過ぎて実まで出しちゃったり……。気になった俺は、誰ともなく聞いてみた。



「あのー、ここって、神聖な場所なんじゃないんすか?」

「ええ、召喚儀式の間はとても神聖な場所なんですがねぇ……」



俺の声が聞こえたのか、ローブを着た長身の人物が近づいて来て、混乱している人達を見、呆れたような声を上げる。唯一ローブが隠れていない目を見ると、綺麗な緑色の瞳。声は男の物だった。



「異世界から訪れた勇者様、取り敢えず移動しましょうか。行き成り知らない場所に来て混乱しているでしょうが、こんな状態だと話もゆっくり出来ませんし」

「はあ……。自分よりも混乱してる人を見ると、混乱って収まるもんなんですねぇ……」

「あっはっは。では行きましょうか」



彼はそう言って、俺にこの部屋から出る扉を指差し、歩き始めた。俺は彼の後に付いて行きつつ、背後を振り返ると、直ぐに前を見た。俺にこの混乱を収める能力はない。彼等が俺の姿が見当たらなくて、正気に戻ってくれるのを待つとしよう──別の場所で。






屁を垂れ流す、って事で〝ヘタレ〟なトリップ話でした。

放屁でトリップと言う、「なんでそれで!?」って思う話が書きたかったんです、ええ、書きたかったんです。

ちなみに混乱は30分程で収まり、ローブを着た人物達が慌てて勇者を探したら、第三王子(一緒に部屋を出た人物)と優雅に茶を飲んでました(笑)

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