神が選んだ娘
[投稿日]2011.11/11
[再掲載]2011.11/19
[設定]神が選んだ異世界の勇者と、その世界の神子の出会い
この世界は、魔王の脅威が訪れる度に異世界より勇者となる人物を呼び、勇者に魔王を倒して貰っていた。呼ばれた方にしてみれば、『いや、自分達の世界の問題くらい自分達で片付けろよ。どこまで他人任せ?』と思うだろうが、何千年も昔からそれを繰り返して来たので、世界の人々には罪悪感など微塵もない。『だって昔からそうだったし』うん、便利な言い訳だ。
そう言う私は、日本に生まれて日本で死に(病死だった。闘病生活で、何度『何故自分が?』と思ったのは懐かしい話……)気が付いたら、この世界の母親の膝の上に乗って、ご飯を食べていた。年齢にして4歳。転生したと気付いた時、赤子からの羞恥プレイじゃなくて良かったと安堵したのは言うまでもない。
さて、先程の話に戻るが、この世界は魔王を倒す為の勇者を異世界より召喚する。その人物の選択は、この世界の神と異世界の神が人物を選んでくれるのだが、勿論この世界からも勇者を支える〝神子〟の娘が選ばれる。選ばれた瞬間、勇者が攻撃に特化、神子は守りに特化し、ある意味2人で1人の勇者となる訳だ。
これは『お前の所、こっちの世界の人間に頼り過ぎじゃね?』『んじゃ、こっちからも勇者っぽいの出すかなぁ』って事で、役割分担をしてこうなったと言われる。それが数百年前の話で、最初に勇者が呼ばれて数代は勇者が両方兼ね備えていたと言われている。
要するに、世界の人々は魔王に関して、異世界の勇者と神子に頼りきりなのだ。勿論、サポートはしてくれる。勇者と神子の一行は道具や装備半額、食事代半額、宿半額、宿がない地域だと村長もしくはそれに該当する立場の家には、必ず勇者が泊まる部屋がある。
サポート万全にするなら、アイテムも宿もタダにしろよ、と言いたい所だが、こっちも生活があるので無理! と言う事だ。10歳の頃、このシステムを聞いた時に『ケチだな』と思ってしまったのは、私だけだろうか。
話は再び勇者の召喚に戻るのだが、数ヵ月前に魔王が現れた。何故わかったかと言えば、この世界の神を祭る神殿が魔王が現れたと言う神託を受け取った事により、各国の王が民に向けて発信したのだ。
そしてそれより少し遅れて、勇者の召喚と神による神子の選出が行われた。勇者の召喚は神殿の神官達にて行われるが、神子の選出は当人しかわからないようになっている。勇者の印は利き手の甲に神の印が入るのだが、神子の印は額に印が入るのだ。
ここまで言えば、なんとなくわかって頂けるだろう。いつも付けていたバンダナ(頭を覆う形ではなく、細く畳んで額に付けていた)を外して顔を洗おうと水面に顔を近づけた時、デコに金色に輝くソレを見つけて、私がどれだけ卒倒しそうになったか。
『今回の神子様は、どんな方なんだろうねぇ』『きっと、インフェルの王女様のように美しい方だよ』と近所のオバちゃんが立ち話をしていたが、まさか近所に住む私が神子として選ばれるなんて、思いもしないだろう。私も思わなかった。
なんせ、歴代の神子様は皆美しい人で、勇者と恋仲になって末永く幸せに暮らしたと言う伝説が多々あるのだ。実際、インフェルと言う国の王女は祖母に神子を持っていたが、その美しさは孫である王女に引き継がれていて、世界中の貴族や王族が彼女を妻に、と欲している。
彼女自身はそれを全て跳ね除け、運命の相手を待っているそうだ……要するに、魔王が再び光臨して、自分が神子になるのを夢見ていたのだろう。その儚い夢を木っ端微塵にぶち壊したのは、他でもない私だが。
それに、そもそも……そもそも、だ。
「おい、正気か!? どう見たって、男じゃないか!」
「うーん、そうなんだけどさぁ……。勇者の刻印は、神子はこの人だって言ってるんだよ」
「何かの間違いじゃないの!?」
「神の刻印が、神子を間違うかぁ?」
「確かにそうだが……」
ただいま私は、勇者一行に囲まれております。今回の勇者はここに訪れるまで仲間を見つけ、1人旅ではなく数人で私の居る村を訪れました。勇者(男)、武道家(男)、魔術師(女)、聖騎士(男)、と言った面子です。
訪れた勇者が私を神子だと言い、戸惑う面々。何故なら、神子は通常女性だから。男である私が、神子に選ばれる訳がない──本来ならば。しかし選ばれてしまった、男神子。きっと、実際の性別ではなく、魂の性別で選ばれてしまったのでしょう。私、日本では女で、この世界で男として転生しましたから。
っと、そんな事を考えている間に、額のバンダナが、バンダナがぁぁぁぁ!! 武道家と聖騎士が私を取り押さえ、魔術師が私のバンダナを外して……あああ、遂に見られてしまいました、額の神子の刻印を……!
「ほ、本当に神子だ……!」
「ほら、俺の言った通りだろ?」
「うううぅ……、酷い、もうお嫁にいけない……」
「嫁にって、あんた男なんだから、嫁になんて最初からいける訳ないじゃないか」
「ってか、もしかして神子ってオネエ系なのか? だから神子に選ばれたのか?」
オネエ系、の意味がわからず首を傾げる勇者一行の3人と、村の人間、しかも男が神子として選ばれた事に驚き、しかし喜んでいいのかわからない村人達の微妙な表情。
はたと、逃げるなら今しかないんじゃないかと私は思い、よよよ、としな垂れて泣いていた体を起こし、勇者一行からダッシュで逃げた。魔王と戦うとか無理! 回復役が居ないけど、回復薬で頑張って! 心の中でそうエールを送って、私は逃げる。勇者達から逃げる!
「あっ、勇者、逃げたぞ!」
「神子、待ってくれ! 俺達と一緒に魔王を倒しに行こう!」
「嫌だ、怖い!!」
「皆、神子(仮)を追いかけろ!」
「待て、神子(仮)!」
(仮)を付けられて神子と呼ばれるなら、いっそ神子と呼ばれない方が良い……! 私は神子となった後に得たスキル・ステルスを使って勇者一行から逃げ回り、遂には勇者ではなく母親に『どうぞ不肖の息子ですが是非連れまわしてやって下さい』と差し出され、泣く泣く村を出る事となった──。
後、初の男神子として私は有名になったのだが、日本人と元日本人としてつい互いにしかわからないネタをやってしまい、『今代の勇者と男神子は男色家で相思相愛だった』と言う伝説を後世に残してしまった事など、私も勇者も知る由もなかった──。
魂が娘だったので、神子に選ばれてしまった主人公(しかし体は男)
ネタはきっと「うほっ…いい男」「やらないか?」「そんな装備で大丈夫か?」「大丈夫だ、問題ない」とかやってたんだと思います。
ちなみにBLではなく、勇者と主人公は友情を築くのですが……回りのお姉様方にはそんなの関係ねぇ、なのです。
裏話としては、勇者と神子は同級生で同じクラス。しかし中学入学前に入院し、1度も中学に通う事なく神子は死んでいたので、面識はありません(年齢が同じ位なのは、時間の流れが違うって事で)
後に勇者は勇者で相手を見つけ日本に戻らず結婚、神子は魔術師の子と色々あって結婚……したのにも関わらず、男色家にされちゃったと言う……(笑)