テンプレ死因で転生したら逆ハー設定付けられたんですが、ぶっちゃけキモい。
[投稿日]2011.10/27
[再掲載]2011.11/15加筆修正
[設定]逆ハーにドン引きする主人公と、周りを囲む男達の話。
ライトノベルによくある設定で、死因は神様のミスだった。
先の見えない不景気と、父親のリストラ、母親のヒステリー、兄はネトゲマニアで引きこもり、妹は女子高生だけど彼氏をとっかえひっかえで『前の彼氏に性病移されちゃった~』などと笑って軽く話せるとんでも女子高生。
自分もまた就職活動の真っ最中で、なんとか内定決まった直後に内定出してくれた会社が倒産、振り出しに戻る、などと言う世知辛い世の中を味わっている所だったので、死んだと言われてどこかホッとしてしまったのは、仕方の無い事かも知れない。
出口のない迷路をずっと彷徨い続けていたみたいに不安で孤独で、だけど家族も友人も皆自分の事で精一杯で、愚痴を聞いてくれる〝誰か〟なんて居なくて、神様と名乗る人物に自分のミスで死んだと言われた時『もう苦しまなくていいんだ』と言う開放感を抱いてしまった。
両親に何も返せずに死んでしまった事は申し訳ないし、悲しいし悔しいけど、神様と一緒に覗いた〝下界〟では私の遺体が運ばれていく所で、もう戻れないと言う事は十二分にわかった。
いや、そりゃ、下界での死因がトラックに積まれていた10トン近くのコンビーフに押しつぶされてってのは、どうかと思うけど。寧ろなんでそんなにコンビーフ乗っけて走ってたの、そのトラック。
コンビーフなら、バラバラッと降って来るから重度の打撲程度で済むんじゃないか、って? コンビーフがバラバラに詰め込まれてる訳ないでしょ、自販機くらいの大きさの木箱に入ったコンビーフが襲撃して来たんだってば。しかも幾つも。『あ、これ死ぬわ』って普通思うじゃん。実際死んだし。
下界ではトラック運転手の過失って事で、遺族への保障や入っていた保険が入るだろうから、暫く家族は生きていけると思う。お父さん、再就職頑張って。お母さん、ヒステリックに叫ばず、もうちょっと落ち着き持って。兄さん、部屋から出て来いや。妹、どっかで節操を購入して来なさい。
──と言う事で、私・岡里 詩織は、神様のミスによって死亡し、神様の力によって別の世界に参ります。回復魔法・防御魔法・魔法能力共に最高ランクと言うチートを持って! では、グッド・ラック!
そんな風に地球の家族に別れを告げたのは、いつの話だったでしょう。もう、5年前? いえいえ、たったの5ヵ月前。神様の力によって異世界にて生まれ変わった私は、治療師としてある世界に移動しました。
その世界にて違和感のないように、髪は金に近い茶髪で、瞳は金色、髪の色に合わせて顔立ちも若干変わりましたが、元々の顔をちょっと濃くしているだけなので、強い違和感はありません。
魔力の使い方も、魔法の使い方もチートの一環として、頭に叩き込まれています。旅を出来る程度の体力をオマケしてくれたのは、神グッジョブ! としか言いようがありません。
治療師を選んだ理由は、ただ一つ。魔物と戦う? 馬鹿言うでねぇ、地球でも平和な国日本に生まれてオラがそげな事出来る訳なかっぺよ! と言う事です。何故訛ったのか、それはなんとなく、です。
そもそも美術部の幽霊部員である自分が、ゲームの世界よろしく剣を持って敵と戦えるスペックがあると? え? チートで貰え? 馬鹿言わないで下さい、何が嬉しくて眼前スプラッタを体験したいと言うのですか。自分の遺体見ても、吐きそうだったのに!
まあ、そんな感じで目の前で血みどろ劇を見たくなくて、敵から比較的距離の遠い所に居ても大丈夫そうな治療師を選んだのです。自分の身は自分で守る事も忘れておらず、防御魔法も付属で付けて貰って。
でも、こんなのは望んでません。神様、あの時私の前に現れた、ボディコンな神様、セックスアピール度がカンストした神様、胸の谷間に小銃を隠せそうな神様、唇が厚ぼったくてキスをねだっているように見える神様……!
「シオリ、疲れていないか? 疲れたら直ぐに私に言うんだ。休憩を取るからな」
テンプレ的な金髪碧眼美形の剣士が私を気遣います。こちらの世界に訪れた時に、迷子になった私を最初に保護してくれた人です。王国の騎士団団長を務めていました。
ですが、保護された後、ギルドに登録・治療師として旅をすると決めた私を心配し騎士団を辞め、この世界の物見遊山の旅に同行して来ました。簡単に辞められる筈のない重い立場を捨ててまでの気遣い、立場だけでなく気持ちも重い、重いです……!
何より、『大丈夫か?』と気遣ってくれるのは有り難いですが、何故私の下唇を指でなぞりながら聞くのでしょうか? 時折、優しい瞳に獰猛な肉食獣の雄が見え隠れします、怖いです。
「シオリ、あんまりオレから離れるなよ!」
そう言って私の腕を取り、金髪碧眼美形剣士から離してくれたのは、赤毛ハチマキがトレードマークの拳闘士です。こちらも美形ですが金髪碧眼美形──長いので、金髪剣士にします。
金髪剣士とはちょっとタイプの違う美形です。あっちが静ならこっちは動、と言う感じの美形……って言えばわかりますかね? 金髪剣士保護された後、宿の食堂で酔っ払いに絡まれた私を助けてくれました。
その後も私が心配だと一緒に行動してくれるようになったのですが、『一緒に入ろうぜー!』と入浴中に押しかけて来たり、『一緒に寝ようぜー!』とベッドに入り込んで来たり、突然の行動に驚きを隠せません(無邪気でもやっていい事と悪い事あんだろ)
若い男女が一緒に風呂には入りません、恋人同士でもない限りは。若い男女が一つのベッドで眠る事はありません、恋人同士でない限りは。それを言うと『今はそうかもしれないけど、今後どうなるかわからないだろ?』と笑顔で言われるのですが、私の気持ち、ガン無視です。スルーです。
「好い加減にしたまえ。シオリが困っているだろう。大体、君達は安易に女性の体に触れすぎる」
そう言いつつ拳闘士が私を掴む腕にチョップをしてくれたのは、魔法使いの青年です。長い銀髪で切れ長の目、銀縁の眼鏡を掛けた彼は、今にも〝再結合〟したがりそうな顔立ちですが、残念ながら私は貴方のお母さんの細胞は持ってません。そんな彼も、私の腰をがっちりホールドしている辺り、安易に触れすぎと言えるでしょう。
彼はギルドに登録しに行った際に出会った人で、同じ魔法使いとして少し話しをしていたのですが、いつの間にか知らない間に同行が決まっていたと言うか、ナチュラルに傍に居たと言うか、メンバーに組み込まれていました。
ギルドレベルも高く、駆使する魔法は主に氷を使うのですが、時折剣士と拳闘士も狙っているように見えます。彼等が避けたり魔法を弾いたりすると、『チッ、しぶとい奴らだな』と呟くのですが、彼等を殺す気ですか……?
「ああ、シオリ。これを飲んで下さい、この近くで取れた果実の絞り汁です。疲れが取れますよ」
笑顔で水筒を差し出してくれたのは、黒髪碧眼の弓士です。勿論美形。旅に出始めた頃、訪れた村にて出会い、それから旅に同行してくれます。このメンバーの中では一番良い人で、常に笑顔を絶やさす、皆に気配りしてくれます──普段なら。
戦いになると人相が変わり、一切の感情を削ぎ落とし、無表情で言葉少なくなって、冷たい瞳で獲物を見据えて弓を引く姿は、まさしく最強の狩人と言った所でしょうか。
時折、間違って(ですよね?)私以外の仲間に、弓を向けちゃう事もあるようですが、戦いの後で『申し訳ありません、狙いがズレてしまいまして』と頭を下げています。……間違って、ですよね?
「まだ次の街までは遠いから、ここらで休憩でも取るかぁ?」
そう皆に言ったのは、槍使いで青い髪で翠の瞳の美形です。弓士の彼が合流した後、次の街に向かっている道中の戦闘で出会いました。
明るく、空気を読んで会話をするムードメーカーな所があるのですが、時折お尻を触るなどのセクハラかまして来ます。その度に仲間内での戦闘が始まるので旅が遅れるのですが……好い加減、学習して欲しく思います(待たされる私の身にもなれ)
女好きっぽい感じはするのですが、あくまでもそんな感じなだけで、実際は全くそんな人ではありません。時折、『昔は女遊びが激しかったけど、今は本気になった女が居る。その人以外は要らねぇんだ』と言って見つめられました。
以上で私の旅のメンバーの紹介を終わりますが、彼等、皆、私をとても大切にしてくれます。ええ、本当にとても。優しくされすぎて、ぶっちゃけキモいです。
なんでって言われると、これ、恐らく……チートの付属である、逆ハー補正です。逆ハーレム。女の子なら、1度でも夢見た事があるでしょう。
自分を好きだと言う、男の人達(イケメンに限る)優しい言葉で自分を励まし、体を張って守ってくれる、だけど見返り期待・強要したりなどしない男の人達(イケメンに限る)
……現実でそれが起きると、ぶっちゃけドン引きしますよ? 夢だから良いんですよ、逆ハーなんて。実際自分に来られてみなさい、まず疑いません? プラカード持って『ドッキリ大成功』っていつ出て来るかと。
そもそも自分の魅力なんて神様から貰ったチート能力だけなのに、どこに惚れてるんですかね、この男等。だって、当初なんて金の使い方わからない、ギルドの登録の仕方わからない、って言うか、文字も読めないし書けない(勉強して書けるようになりましたが、知識としてあったのは魔法の使い方云々のみでした)
そんな女を見て『そうか。知らないなんて可愛いな』とか言う言葉、出て来ます!? 文化として就学率は少ないかも知れないですが、知らない事が可愛いとか、意味不明過ぎる……! 勉強教えて貰った時も、腰に手を回されて、ちょっと貞操の危機を感じましたけどね!?
神様、能力チートは嬉しいですし、貴方のミスで死んだとは言え、死んだ事を放置せず、生き返らせて下さった事はありがたいのですが、オマケか何かで付けて下さった〝逆ハー〟設定、心の底から必要ないです、直ぐに外して頂きたい。じゃないと……
「シオリ、今日は私と一緒に寝ようか」
「駄目ー! オレと一緒に寝るんだよな!」
「馬鹿を言うな、自分とに決まっているだろう」
「僕と一緒にどうですか?」
「俺様に決まってるよな? シ・オ・リ・ちゃん」
いつか、この5人のうちの誰かに喰われそうです。切実にお願いします、神様……!
「馬鹿ねぇ、折角群がって来てくれるんだから、手当たり次第食べちゃえばいいのに……」
死んだ人物が女性だったので特典として逆ハーレム要素を付け足してあげた所、予想に反してドン引きした彼女に興味を持ち、日本とは違う下界の様子を見て楽しんでいる色気ムンムンな神は、周りに従えた男を見、「キミタチも、そう思うでしょう?」と問えば、皆はうっすらと微笑みながら『ええ、私の女神』と声を揃えて返事をした。
ハーレム・逆ハーレムを傍観する話はあっても、自分に設定が付いてドン引きする話ってあんまりないなぁ、と思って書いてみました。