光
真っ暗な場所。
「ここはどこ?暗い。私…」
手にはハサミが握られている。
「そうだ、私、髪を切ろうとしていたんだっけ。」
この長い、お母さん譲りの黒い髪は、私の宝物だった。でも…
「私は、変わらないといけないの。だから早く元の場所に…!」
「それは無理な話ね。だって、手、震えてるじゃない。」
振り向くとそこには壁があった。その奥から声が聞こえているようだ。
「あなたは誰?」
「わたしは、………光莉。私は光莉っていうの。」
「私は千影。ねぇここから出る方法、知ってる?」
「ええ、もちろん。あなたをここに呼んだのは、わたしだもの。」
「だったら早く出して。私は変わらなきゃいけないの。」
しばらく沈黙が続く。そして光莉が話し始める。
「……どうして変わらなきゃいけないの?」
「私は陰気で、いつも隅っこで本を読んでるような人だから。変わりたい。私は、変わる!今の私と真逆なくらい、明るく、なるの…!」
「うーん変わりたいというのは止めないけど。今のあなたが本当のあなた。押し殺して生きても、苦労するだけだよ。」
「あなたに、私の何がわかるの……」
「わかるよ。全部。一人で、さみしいんだよね。本を読むのは好きだけど、たまには友達とおしゃべりしたりもしたい。誰も話しかけてくれないし、誰にも話しかけられない。話しかける勇気もない。だから変わる。変わって、みんなと仲良くなりたい!……でしょ?」
私は驚いた。私が思っていたことをそのまま書き写したかのように、当たっていたのだ。
「……そうだよ。あなたも私と同じなの?ならわかってくれるよね。私は変わりたい、明るい新しい私に。」
「違うよ。あなたは変わらなくていいの。」
「どうして!!!このままだと、ずっと私は、ひとりぼっち……」
「そうじゃなくて、今のあなたにも良いところがあるよ。だから…」
「いいところなんてないよ!!暗くて、一人で、みんなに変な態度を取っちゃうの。本当は人見知りなだけで、みんなと話したいのに…」
「あなたの良いところ、いっぱいあるよ。例えば人に気を使えて、いつも誰かのことを考えて動いてる。それって、誰にでもできることじゃない。明るくなって、真逆の私になりたい?…それじゃあ今の良いところはどこにいっちゃうの?」
「……じゃあ、どうすればいいの!!!今のままなんて、いやだよ…」
「ほんの少しだけ、勇気を出せばいいの。あなたは変わらなくても、今のままでみんなと打ち解けられるよ。ちょっとの勇気と、一歩踏み出す足があれば、あなたは何にでもなれる。あなたのままね。」
「どういうこと?変わる、とは違うの?」
「うん。あとは自分で考えてごらん。きっと分かるはずよ。」
変わらずに、私のまま、何にでもなれる……r
「なんとなく、わかった気がする。ねぇ、あなたは誰?どうしてそんなに私のことをわかってるの?」
「もうそろそろ良いかな。」
壁がまるで魔法のようにぱっと消えた。
「………私?」
「そう。わたしはあなた。あなたのなかのわたし。」
「そっか。私、だったんだ。どうりで私のことよく知ってるわけだ。」
「そりゃわたしだもん。当然でしょ?」
「ふふ、それもそうだね。……私、髪切るの辞める。今のままの私でいたい。」
「それがいいよ。わたしもこの髪気に入ってるもん。」
「うん。…元気出た。私そろそろ戻ろうかな。」
「そうだね。戻ろう。」
「ねぇ、また、会える?私の中のあなたに。」
「ええ。もちろんよ。わたしはいつでもあなたの中にいる。わたしはあなたの光。あなたの硬い殻の中に、光を届ける。あなたが殻に閉じこもりたくなったら、いつでも話を聞くわ。」
「ありがとう。私。」
「いつでも見守ってるわ。わたし。」
ふわりとした温かい光につつまれて、いつのまにかわたしは元の場所に戻っていた。
「あなたは私。私の中のあなた。そして、私の光。」
窓から差し込むまぶしい光は、キラキラと、私を照らしていた。




