表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
使い手たちの相談所  作者: 綴ミコト
第一章 炎と相談所編
5/25

3、初めての依頼ー前編

 次の日。俺は学校が終わるとすぐに相談所へ向かった。一度通ったとはいえ、立地が立地なので、スマホのマップを頼りにしても少し迷ってしまった。

 「ふぅ……。ようやく着いた」

 曲がるべき路地裏を間違えて、しばらく辺りをうろうろすることになった俺は、ようやく見えた相談所に安堵した。

 「おっ、玲!」

 相談所の中から現れて、俺を見つけ声をかけてくれたのは火花だった。

 「お前、早いな」

 「……アタシ、学校行ってないんだ。中卒。それで、ここの二階の部屋に住まわしてもらってるから」

 なるほど。通りで早いわけだ。

 俺が一人で納得していると、火花が怪訝な目で俺を見る。

 「?」

 「お前、驚かないんだな」

 視線を感じた俺が首を傾げていると、火花が静かな声でそう言った。

 「いや、割と驚いてはいるぞ。けど、高校からは義務教育じゃないんだし、普通に就職とかする奴だっているだろ。住み込みとかも、あんま聞かねぇけど、あってもおかしくはないわけだし……」

 そう言った俺に、火花は目を丸くした。そして、少し笑って俺に「ありがとう」と言った。

 「少し、楽になった。それより、ナイスタイミングだ。客だぞ」

 ……ここに相談に来る人、いたんだ。

 また警察からの依頼だったりするのだろうか。そんなに連日事件が起こるほど、この国は物騒だったのか?

 そう思いながら俺は中に入った。だが以外にも、ソファに座っている相談に来たと思われる客は、一般人の男性だった。向かいのソファには、昨日のように所長と雄大が座っている。澪はまだいなかった。

 「こんにちは、玲。ちょうどいいところへ。では君にこの仕事を任せようと思います」

 「え!?ちょ、ちょっと待ってください!」

 来て早々仕事を任された俺は慌てふためく。

 「雄大と火花は別の仕事が入ってるから、君にしか頼めないんだ。私がここを留守にするのも難しいし……。大丈夫。君を一人にはしない。澪も付いて行ってくれるはずだ」

 「……」

 それなら、仕方ないかもしれない。俺はそう思い直し、まずは話を聞くことにした。

 「ええ〜、本日のご用件は?」

 俺はたどたどしく口にする。後ろでは、雄大が笑いを堪え、火花が「硬い。おかしい」と言ってきたり、所長が、「接客についても教えた方がいいな……」と呟いている。

 ……俺、これが初めてのバイトなの!想像と周りの見様見真似でやってるんだし、仕方ないと思うんだけど!

 そう叫びたくなるのを抑えながら、相談者の話に耳を傾ける。

 男性はおもむろに口を開き、こう言った。

 「町の少年少女の、誘拐事件について、捜査して欲しいんです」


 事件の始まりは、今から二週間前。

 自分の娘と同じ小学校の男子生徒が、下校中に何者かに攫われ、帰ってこないというものだった。

 当時は攫われたのかすらも分からなかった。なにせ、その少年は二人の友人と共に帰っていたはずだったというのに、その二人は口を揃えてこう言ったのだ。

 「彼は気づいたらいなくなっていた」と。

 彼らもおかしくは思いながらも、自分たち二人で話が盛り上がり、彼と二人で少し距離ができてしまっていたことが彼を怒らせてしまい、彼は早々に一人で帰ったのだろう、と考えた。

 しかし、彼は夜になっても家に帰らず、彼の母親は警察に連絡した。

 警察はその電話に応じ、調査を開始した。町にも注意が呼びかけられた。だが、その調査は難航していた。

 手がかりがほとんど残っていないのだ。少年が攫われた時、通っていた道は車の通れない小さな小道。その道の周りに建つ家の住民に、犯人らしき人物は見当たらなかった。彼の身に付けていたものなども何も残っていなかった。

 そんな中、さらに被害が出る。少年が攫われてから三日後。今度は同じ学校の別の少年が攫われた。彼はその時一人で帰っていた。そのため、現場を目撃したものはいなかったが、代わりに、防犯カメラにその誘拐の一部始終が残されていた。

 その映像は、驚くべきものだった。一体どんなトリックを使ったのか、彼は突然、地面に引き摺り込まれるようにして消えたのだ。

 そのことを聞いた町民たちは、何が何だか分からないという風だったが、警察たちは違ったようで、彼らは新たな調査を開始した。攫われた子を隠しておけるような場所、もしくは空間を、この付近で探し始めたのだ。

 そうして警察たちは、見当をつけた建物を一つ一つ洗っていくことで、見事に誘拐された子たちが隠されている建物を見つけ出した。これが、五日前の出来事だ。

 しかし、その見つけ方は非常に悲しい結果で、突入した警官が戻ってこなかったことが、そこが犯人の拠点であることを裏付けるものとなった。歯痒い思いをする我々を嘲笑うように、その翌日、また新たに女子生徒が攫われた。

 警察は方法を変え何度か突入を試みたが、どれも失敗に終わり、今となっては警察はこの件に手出しすることをやめている。

 そんな中、三日前、私の娘が攫われた。警察はもう何もできない。そこで、この相談所の話を聞き、相談に来たのですがーー

 

 男性がひとしきり話し終わった後、部屋には重い沈黙が流れる。

 子どもが次々と攫われているなんて、町の人たちは今も怯えながら暮らしているのだろうし、今なお戻ってこられない被害者の子供たちは、もっと酷い恐怖に晒されているのだろう。

 いや、そもそも、まだ無事なのかも分からない。もしかしたら、今頃はもう……。

 最悪の想像をしてしまい、俺はそれを振り払うように頭を振った。そこでふと、疑問が頭に浮かび、それを口にしてみる。

 「……犯人の目的は、一体何なんでしょうか?」

 「確かに……。こういうのって、身代金の要求とか、そういうのがあるもんじゃないのか?」

 俺の言葉に同意する雄大が、さらに言葉を重ねる。

 「そういうのは、なかったですね。我々も疑問に思ってはいたのですが……」

 男性はそう答えた。

 そんな中所長は顎に手を当てて考え込んでいた。少しして彼は、「うん。やっぱり今回の件は玲が適任だ」と呟いた。

 「どういうことですか?」

 俺はその小さな呟きに対してそう尋ねてみたが、彼は「なんでもないよ」と言ってはぐらかした。

 「ところで雄大、火花。君たちはこの件について、思い当たる節があるんじゃないか?」

 そう言われた火花は、慎重な面持ちでコクリと頷いた。

 「そうなのか?」

 「そうなんですか!?ぜひ、教えてください!」

 俺と男性の声が重なる。その気迫、主に男性のに気圧されながら、火花は答える。

 「あ、ああ……。たぶん、これは”影の組織”の仕業だろ」

 「”影の組織”……?」

 またまた俺と男性の声が重なる。

 影の組織……。聞いたことないな。それにしても随分安直な名前……。

 「ただの巷での呼び名だよ。本当の名前は知らないんだ」

 俺の心を見透かしたように、火花は苦笑しながら教えてくれた。

 「あいつらとはこの相談所もなにかと対峙することが多くて……。戦いではこっちが優勢なことが多いけど、あいつらは影を使って逃げる。だから、取り逃がすことが多くてな」

 雄大もそう説明してくれるが、俺はよく分からなくて首を傾げる。

 「……まあ、実際に戦り合えば分かるぞ」

 彼はそう言った。

 正面を見ると、男性も、何が何だか分からないというような困惑した顔をしている。

 そんな彼に、所長は優しく声をかけた。

 「話してくださってありがとうございました。この依頼、確かに承りました。ではここに、先程おっしゃっていた犯人の拠点の住所を……、ああ、料金はまだ結構です。この相談所は成果報酬型なので」

 男性は所長に言われるがままに犯人の拠点の住所を書き記して、「では、よろしくお願いします」と言って相談所を後にした。

 その後、澪が相談所にやってくるまで、俺と雄大と火花の三人は、相談所に置いてあるゲームをして遊んだ。誰かとこんな風にゲームをすることはあまりなかったので、新鮮な気分ですごく楽しめた。

 その最中に聞いた話によると、澪はそこそこ名の知れた名門のお嬢様学校に通っているらしい。俺は学校から家、家からこの相談所まで、そんなに距離はないが、澪はここに来るまでそれなりに時間がかかるらしい。それでもほぼ毎日のようにここに来ているそうだから、やはり彼女にとっても、ここは大事な居場所なのだろう。

 ゲームを始めて三十分ほど経った頃、澪が来た。

 「おはようございまーす」

 そう律儀な挨拶をして入ってきた澪に、「おかえりなさい、澪」と返した所長は、すぐに彼女に今回の件について話し始めた。

 「そういう訳で、今回は玲と澪の二人で行って欲しいんだ」

 俺と同じようにいきなり仕事を振られた澪は、「分かりました」とあっさり了承する。熟練度の差だな、と思った。

 すぐにでも現場に向かった方がいい、と澪が言ったため、俺たちは出発することにした。念の為、母親に連絡をしておく。遅くなる、と。

 ……まあどうせ、あの人は俺のことなど心配しないだろう。

 ささっとメールを送って、すぐにポケットにスマホをしまう。ふと、疑問が浮かんできて、思わずそれを所長に聞いてみる。

 「所長、ここって給料……」

 すると所長はそっと近づいてきて、耳元で小さく囁いた。

 魅力的な数字に俺はしばらく立ち尽くした。

 「成功報酬だけどね」という彼の言葉と「大丈夫?行くよ?」という澪の声は、右から左へと流れていった。


 「ここか……」

 犯人が拠点としている場所は、空き家となった大きな屋敷だった。俺たちの前には、立派な門がそびえ立っている。

 最近は日が長いため、まだ辺りは明るいのだが、これは夜が怖いなと思うような雰囲気だ。

 「なんか……お化け出そう」

 澪が隣で小さく呟いた。手を胸の前でキュッと握っている。

 「怖いか?」

 俺が尋ねると、彼女はふるりと頭を振った。

 「大丈夫。それに、ここに出るのは、お化けじゃなくて誘拐犯だからね」

 澪は瞳に強い光を宿して目の前の屋敷を見る。それを見て、俺も頑張らないとと思った。

 「お二人とも!」

 ふと、俺たちに声がかけられる。振り返ると、一人の警察官がこちらに向かって小走りで近づいてきた。

 「お話は伺っております。ここに入られるんですよね」

 彼の問いかけに、俺たちは頷く。

 「ここに囚われている人は現在、小学生の男の子と女の子が二人ずつ、警察官が六人の計十人です。救出の最優先は子どもですが、出来れば他の彼らも……」

 「分かっています」

 躊躇いがちに言った彼に、澪は安心させるように言った。

 そういえば……と俺は思い、念の為彼に尋ねる。

 「あの……俺が力を使うと、最悪この建物が全焼するんですけど、大丈夫ですか?」

 「えぇ!?えっと……」

 驚きに目を見開き、それから少し考え込んだ彼は、別の警察官の方へ行ってしまう。しばらくして戻ってきた彼は、少し困惑しながら言った。

 「えっと、大丈夫だそうです」

 それを聞いて、俺はホッと息をつく。まぁ、彼の心配も尤もなので、できる限り被害を抑えられるように頑張ろうと思う。

 「準備オーケー?」

 澪が聞く。

 「ああ」

 俺は答える。

 そうして俺たちは、数人の警察に見守られながら、屋敷へと入っていった。

 


 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ