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使い手たちの相談所  作者: 綴ミコト
第一章 炎と相談所編
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1、炎の少年と相談所ー後編

 建物の中へと入っていく。順番は、先頭が雄大、次に火花と、少し後ろを澪、最後が俺だ。

 「……誰だ」

 ロビーのような場所まで辿り着くと、中から声がかけられる。犯人の声だろう。

 「誰だと思う?」

 雄大が煽るように相手に尋ねる。俺にはハラハラしながらそれを見ることしかできない。

 「警察……ではないな。……ん!?子供!?」

 声からなんとなくどんな時も動じない冷酷な悪者を想像していたが、どうやらそうではないらしい。俺たちが姿を現したのを見て動揺している声が聞こえる。

 「な、何をしに来た。警察の囮か!?」

 「違う!助っ人だよ!」

 「ちょ、火花!?」

 馬鹿正直に答えてしまった火花を慌てて澪が止めようとしたがもう遅い。

 「ほぉ……。なら、容赦はいらねぇな!」

 犯人はこちらに銃を向ける。

 ひぅっと息を呑んだのは俺だけで、他の三人は冷静に、銃口を見据える。

 「火花」

 「了解」

 雄大と火花は目線だけを合わせて頷いた。言葉にせずとも分かることから、二人の絆と信頼が感じられた。

 次の瞬間、二人は床を蹴ってバラバラの方向に散らばった。

 「澪は玲をお願い!」

 火花は走りながらそう伝える。

 その言葉を聞いた澪は、俺を連れて犯人から隠れられる場所へと移動する。

 「ここなら……」 

 そう言って隠れたのは、犯人からある程度距離のある椅子の裏だった。

 「こんなところで大丈夫なのか?」

 不安になって俺は尋ねる。

 その言葉に澪は、俺を安心させるように微笑みながら、落ち着いた声で言った。

 「多分大丈夫。すぐに終わると思うから。ほら、見て」

 俺たちがここに避難している間に、二人はそれぞれ左右から、カウンターの向こうにいる犯人を挟みうちにしていた。

 そこで俺は、信じられないものを目にする。

 「おら!」

 雄大のそんな掛け声と共に、犯人が大きくのけ反った。そう、まるで、強風に煽られたように。

 「がっ!」

 そのままその場に倒れた犯人は、呻き声をあげる。

 しかしすぐに起き上がった彼は、再び銃を構えた。そして、近づいてきていた火花に向けて、発砲する。

 「危ない!」

 俺は思わず声をあげ、目を瞑る。

 あんな至近距離で、突然。脳裏を最悪の事態がよぎる。が、恐る恐る目を開けた俺の視界に映ったのは、犯人の背後を取り、その背に手を当てている火花だった。

 火花がさっきまで立っていたはずの場所には、バチバチと電気の走るような跡が残されていた。

 「まだ、降参しないのか?」

 火花は静かに、犯人に尋ねる。

 「……っ」

 問いには答えず、また銃を構えようとした彼の反応を、火花は肯定と受け取ったようだ。

 「やれやれ、じゃあ、くらえ!」

 火花がそう言うと、突然犯人の体に、バリバリと電流が纏わりつく。

 「ぐあぁっ……!」」

 犯人は再び呻き声をあげ、今度こそ床に倒れ込んだ。

「ふぅ……」

 火花が息をつく。

 「終わった、のか……?」

 俺はその様子を見て、尋ねるように声に出す。

 「うん、おそらくは。おーい、二人とも!人質にされていた人たちは?無事?」

 澪が少し大きな声で、離れた場所にいる二人に聞いた。

 「ああ、ここにいる。全員無事に見えるぞ」

 雄大がそう報告して、人質になっていた人たちの拘束を解いていく。

 「私たちも行こう」

 澪は俺にそう促し、二人でカウンターの方へと向かう。

 ふと、歩き出した俺の視界の端で何かが動いたのが見えた気がした。

 気のせいか、と思ったが、そうではないことを、次の瞬間に悟る。

 ……殺気?

 ぞくりと背筋が震え、思わず振り返る。俺の少し前を行っていた澪も、振り返ったのが分かった。おそらく、気のせいではない。

 振り返った俺は、目を見張る。

 視界の先に映ったのは、もう一つの銃口だった。

 「っ、二人とも!」

 その銃口が向けられた先にいる二人に、俺は思わず叫んだ。

 だが遅かった。俺が叫んだのと同時に、銃弾が放たれる。

 銃声が鳴り響く。俺は銃弾の行った先を目で追う。

 「雄大!」

 澪が叫びながら駆け寄る。しかし、俺の足は恐怖で動かなかった。

 「大丈夫だ。直前に風を操って軌道を変えたんだ。けど、危なかった……」

 雄大は無事だったようだ。俺は安堵にその場にへたりと座り込んだ。

 しかし、それも束の間だった。再び殺気を感じた。それも今度は、俺自身に向けられたものを。

 銃を持った、さっき倒れた奴とは違う、別の男が、俺に向かって歩いてくる。

 ひゅっと息を呑んだ。心臓が早鐘を打つ。俺は自分に向けられている銃口を見ながら、動けずにいた。

 足が動かない。逃げることもできず、恐怖に顔を引きつらせる。

 「玲!」

 雄大が俺を呼びながら、男に向かって手をかざす。

 男はそれを見て、少し後ろに飛んだ。直後、男が立っていた場所を通るその先の壁が、抉られたように凹む。

 「ちっ、玲、逃げ……ぐあっ!」

 雄大の言葉が途中で途切れる。俺は顔を動かさずに目線だけをそちらに向けた。

 そこでは、倒れていたはずの男が、雄大を羽交い締めにしながら、火花に銃を向けていた。

 かつかつと足音が迫ってきているのを感じ、俺は視線を前に戻す。男は至近距離にまで来ていて、俺に銃を向けていた。

 男が銃を構え直す。チャキッという音に俺は再び息を呑んだ。

 「お前は、何もできないんだなぁ」

 目の前の男は俺にそう言った。

 その言葉はあまりにも図星で、俺は唇を噛んで僅かに俯いた。

 「なら、お前は後回しだ」

 そう言って、俺に向けていた銃口を逸らし、今度は火花の方へと向けた。

 雄大を助けるために動こうとしていた火花だったが、二つも銃を向けられては、彼女も易々とは動けない。

 「くそっ……」

 火花が悔しそうに口にする。雄大も、図体のでかい相手の拘束に苦戦しているようで、もがいていた。

 男は今度は火花の方へと銃を向けながら歩いていく。雄大も火花も動けず、澪は人質になっていた人たちを庇うように、二人より少し離れた場所にいた。

 三人は動けない。動けるのは俺だけだ。しかし俺は、恐怖から動くことができない。

 男が火花の元へ辿り着いた。逃げようと動いた火花の後ろを、もう一人の男が撃ち抜く。その隙に男は火花を拘束した。

 「二人とも!」と叫んだ澪の方に銃を向け黙らせると、二人の男は雄大と火花のこめかみにそれぞれ、銃口を当てた。

 「っ……」

 「くっ……」

 二人がそれぞれ悔しそうな呻き声をあげたのが見えた。

 それを見た瞬間、俺の中で、何かがプツンと切れたのを感じた。

 

 時を同じくして、現場の外。待機している警官たちと共に、三人の雇用主である青年が、防犯カメラを通して室内を見ていた。

 「これは、まずいのではないですか。やはり、我々が突入を……」

 「いや、まだです」

 焦りを滲ませた声で言った一人の警官の言葉を遮り、青年は断った。

 「まだ一人、残っているでしょう?」

 彼は静かにモニターを見据える。

 「ですが彼は、まだ相談所の一員ではないのですよね?」

 警官は確認するように尋ねる。

 「ええ、まあ。だからこれは、一種のテストのような……彼の素質の確認です。彼が戦えないようであれば、私が行きます」

 そう言うと彼はまた、モニターを見つめる。そこに映る少年を見極めるように。

 「きっと彼なら……」


 俺は自分の中の何が切れたのか、ふと理解した。そうか、これが、堪忍袋の緒というものか。

 体の中で煮えたぎるこの感情は、怒りなのだろう。

 こんなに怒りが煮えたぎるようなことは初めてで、体は熱いのに頭は冷静なのが新鮮だった。

 今ならこの力を、うまく使いこなせる気がする。

 立ち上がって、一度目を瞑る。そうして再び目を開けると、そこに映る景色が、なんだか鮮明に見えた気がした。

 「玲……?」

 小さな呟きが聞こえた。澪の声だ。不安そうに震えていた。

 助けなきゃ。その一心で、俺は前方へと駆けていく。

 相手との距離を詰めながら、俺は手の中に揺らめく炎を宿す。それを火の玉のようにして、目の前に掲げる。

 殺してはいけない。冷静な声が頭の中で響く。俺はその声に頷きながら手を下の方へと降ろし、男の足元を目掛けてその火の玉を放った。

 爆発音のような音と共に床にそれは着弾した。その衝撃で思わず男は手を緩めた。その隙を見て、雄大は拘束を抜け出した。

 次は火花。彼女を拘束している男は、銃口を火花から離し、俺の方へと向けている。

 俺はそれに対抗するように再び火の玉を作り出して掲げた。そして、男が放つ銃弾と同時に、それを放った。二つは空中でぶつかり合い、爆発する。

 その爆発を抜けて俺は男に近づく。俺に気を取られていた男は、すでに火花が動ける状態にあることに気が付かなかったようだ。

 男の腹に火花が手を当てると、男の体に電流が流れる。

 「ぐあぁっ……!」

 呻き声をあげながら、彼はその場に倒れた。

 俺はバッと振り返ってもう一人の、雄大を拘束していた方の男の方を見る。あいつにも、とどめを刺さなくては。

 しかしその必要はなかった。雄大がすでにその男をのしていたようで、気絶した彼の上に馬乗りになっていた。澪もいて、どこからか取り出してきたロープで彼を縛っている。

 二人仕留めた。他に敵もいない。それを確認した俺は、力が抜けて、その場に倒れそうになった。

 「危ない!」

 そんな俺を助けたのは、近くにいた二人のどちらでもなく、澪の方だった。

 体が触れている。柔らかい感触がして、シャンプーの匂いか、いい香りが鼻をくすぐる。なんとなく恥ずかしくなって顔を赤らめた俺を、白けた目で火花が見ていた。

 「……あっ、ごめんね!」

 彼女も恥ずかしくなったのか、澪は慌てたように俺を離し、近くにあったカウンターの壁に俺を寄りかからせた。

 「お前、すげぇじゃん!」

 寄りかかって一息ついた俺の肩をグッと抱きながら、雄大がはしゃいだ声で言った。

 「うわっ」

 俺は驚いて思わず声を上げる。

 「ああ、ホントに。まさかあんなに動けるとは!」

 火花も雄大同様に興奮しながら、俺を褒める。

 「うん。……玲、すごくかっこよかった」

 「えっ」

 頬を紅潮させながら、満面の笑みで澪がそう言った。俺は思わず聞き返す。

 「すごいね。元々あんなに動けるの?」

 「あ、いや、あれは……。なんというか衝動的に、体が勝手に動いてた感じで……」

 「そうなの?すごいね……。ねぇ、二人もそう思わない?」

 素直に褒めてくれる澪にしどろもどろになって答える。雄大と火花はというと、呆れたような表情で澪を見ていた。

 「澪……そいつも一応男なんだぞ」

 「そうそう。やましい目で見られちゃうよ」

 「見ねぇよ!」

 そんな会話をしながら、四人で笑い合った。その後に、改まった表情で、雄大が俺に言った。

 「本当に助かった。お前がいなきゃ死んでたかもしんねぇ。ありがとな」

 「アタシも、ありがとう」

 火花も笑顔でお礼を言ってくれた。

 「……感謝なんて、いつぶりだろうな」

 俺は小さく呟いた。その呟きを拾った澪が、「二人だけじゃないよ」と言った。

 ふとカウンターの裏から、何人かの人が出てくる。銀行の制服を着た人や、老人、母娘など。彼らは口々にこう言った。

 「本当に、ありがとうございます」

 「若いのに、こんな老いぼれにために体を張って……」

 「感謝しています。私も娘も、助かってよかった……」

 「ありがとう、おにいちゃん、おねえちゃん!」

 他にも何人かの人たちが俺たちにお礼を言ってくれた。それから程なくして、警察たちと、さっきの男性が入ってきた。

 「相談所の皆様に感謝します。それから、そちらの君も」

 警察の人は俺たちに向かってそう言った。警察に感謝される日がくるとは。なんだか誇らしい気分だった。

 彼らが人質になっていた人たちの保護や犯人の逮捕に向かって俺たちから離れると、代わりにさっきの男性が俺たちの方へと来た。

 「みんな」

 「所長!」

 火花が嬉しそうな声をあげる。

 「お疲れ様。……先に謝らせてくれ。私たちも、まさか敵が二人いたとは知らなくて……。みんなを予想外の危険に巻き込んでしまった。無事でよかった。怪我はない?」

 彼は申し訳なさそうに言って、そう尋ねる。

 「大丈夫です。犯人が二人だったのも、所長たちのせいじゃないですし、謝らないで」

 火花は礼儀正しく答えて、優しく笑った。

 俺は火花が彼に対してだけ態度が変わるのを不思議に思いながらも、この容姿なら仕方ないかと思い考えるのをやめた。

 「それから、玲君」

 彼が名指しで俺の名前を呼ぶ。

 「はい」

 俺は反射的に返事をした。

 「この度は、みんなを助けてくださり、本当にありがとうございました。あなたがいなければ、この子達は無事ではなかったかもしれない……」

 「いえ……」

 俺は小さく笑いながら答えた。

 そんな俺を見て、彼はフッと微笑む。そして俺にこう言った。

 「玲君」

 「はい」

 「我々の仲間に、相談所の一員になりませんか?」

 俺は目を見張る。そんな俺に、彼はおもむろに手を伸ばした。

 

できる限り、毎週月曜の15〜16時頃に投稿していく予定です。よろしくお願いします。

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