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使い手たちの相談所  作者: 綴ミコト
第一章 炎と相談所編
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1、炎の少年と相談所ー前編

 散歩がてら近くのコンビニに寄り、とりあえず飲み物を買う。

 休みの日って嬉しいけど、よくよく考えれば、やることないと暇だよな。

 コンビニを出ると同時に、耳馴染みの音楽が頭上で流れる。店の中からは、「ありがとうございましたー!」という店員の声がした。

 これからの予定を考えながら、行くあてもなく道を進んでいく。

 もう家に帰ってしまおうか。ふとそんな考えが頭をよぎった時。

 どくん、と心臓が音を立て、それを拒んだ。家族の姿が脳裏に浮かぶ。

 ……はぁ、もう少しこのまま、ぶらぶらするか。

 気持ちが沈んだせいで、少しぼーっとしていた。そのせいで、目の前の曲がり角から人が出てきたことに、というか目の前に曲がり角があることに気が付かなかった。

 「うわぁ!?」

 俺と曲がり角から現れた人の、間抜けな声が重なる。

 曲がり角から出てきたのは少女だった。俺とその少女はかなり派手に、まるで漫画のワンシーンのようにぶつかった。俺とぶつかった少女は尻もちをつく。

 「はっ、すまん!大丈夫か?」

 俺は謝る。

 「もう、ちゃんと前見て……」

 文句を並べようとした少女が、俺を見て言葉を途切れさせる。

 ……なんだろう、どっか変か?顔になんか付いてるとか?黙られると怖い!

 数秒の沈黙の後、少女は目を見開きながら、おもむろに呟く。

 「炎の、使い手……?」

 少女の言葉は何やら厨二病をわずらった人のようだったが、俺には心当たりがあった。ついでにその時、俺は少女の上着のチャックにも似たような飾りが付いていることに気が付いた。

 「もしかして、このブローチか?」

 俺はその心当たりを尋ねる。

 その問いに少女は神妙な面持ちで頷いた。

 「……ああ。お前、この後時間ある?」

 俺の胸元の炎の形のブローチが、きらりと光った気がした。少女の上着のチャックに付いた、電流の形のチャームと共に。


 少女に連れられて、俺は歩いていく。

 「で、これからどこに行くんだ?」

 俺は少女に聞いてみる。

 「仕事」

 少女は淡々と答えた。

 仕事?このブローチをお持ちのあなたに、特別に職場見学をさせてあげます、って感じか?この後の暇つぶしになりそうという俺の勘は外れたってことか?

 俺はただ、暇つぶしになりそうだと思って付いてきただけなのだ。知らない人に付いて行ってはいけないと教わったが、まあ大丈夫だろう。相手は子供だし。俺もだけど。

 俺は無言で前を歩く少女を見る。高めの位置で二つに結った髪は黒髪だが、毛先だけが金色だ。地毛とはまるで考えにくいが、それにしては随分と自然で、染めたような感じがないのがすごかった。

 ふと横顔を覗くと、目つきの悪い茶色の瞳が見える。

 それから大きめの、スポーティな上着。だぼっとしていて袖で手が隠れているが、萌え袖というやつなのだろうか。

 その上着に、電流の形のチャームが付いている。雷の形、ともいうだろうか。

 別にいいのだが、どうも柄の悪そうな感じがしてならない。危ないところに連れて行かれたりしないだろうか。

 「おいお前」

 「ひぃっ!」

 そんなことを考えている時に声をかけられたので、思わず悲鳴を上げてしまう。

 「ひいって失礼な……。で、お前、名前は?」

 少しムッとしたような表情で、少女が尋ねてくる。

 「へ?な、名前?」

 「そう、名前。知っておきたいから。あとは…‥年齢とかも」

 俺がきょとんとしていると、少女がそう説明してくれた。

 びっくりした。もっとなんか怖いこと言われるかと……。

 「なんか失礼なこと考えてないか?」

 「いや、別に!」

 俺は慌てて否定する。

 そして、一息ついてから、俺は素直に少女の問いに答えた。

 「阿澄玲。高校一年生、男です。」

 「いや、男ってことは見ればわかるわ!」

 少女がツッコミを入れてくれる。

 「まぁ、うん、そっか。高一ね。じゃあ大丈夫だ。それに、同い年」

 少女はそう言った。何が大丈夫なのかはわからないが。

 それにしても、同い年なのか。目の前の少女を見て、俺は思った。てっきり年下だと思っていた。それもあってか、生意気なやつに思えていたのだが。

 「……またなんか失礼なこと考えてないか?」

 「いやいやそんな……」

 少女は目を細めてこちらを睨む。俺は思わず目を逸らした。

 「ま、いいや。アタシは来栖火花。一応高校一年生……いや、まあ、年齢的にはっていう意味で。えっと、十五歳だけど、数え年はお前と同じなはずだ。あと、女」

 俺に合わせて性別もきちんと言ってくれた。俺は小さく笑う。だがどうやら、年齢に関しては何やら深い事情があるのか、少し長かった。別に気にしないが。

 「よろしく、玲」

 「ああ、よろしく」

 不思議なもんだ。きっと、一日限りの付き合いだろうに、よろしくだなんて。俺が友達少ないからそう思うだけか?

 この時はそんな風に思っていた。だがきっと火花には、この時すでに先が見えていたんだろう、と後になっては思う。

 

 「これから行く先は、ちょっとした事件の現場だ」

 「え?」

 唐突に、火花は言った。

 事件、現場?

 「じ、事件現場って、まさか君、探偵?」

 「ちょっと違うな」

 火花は苦笑した。

 というか、事件現場って、俺もしかして、なんかヤバイことに巻き込まれちゃってる?

 「ええっと、事件というのは……?」

 「確か、銀行強盗だったかな?んで、中の人人質にして、立てこもっちゃったとか……」

 「全然ちょっとした事件じゃない!」

 軽く言った火花に俺は思わずツッコミを入れる。

 ……銀行強盗の事件現場に連れて行かれるなんて、分かってたらついて行かなかったのに!

 確かにね、と火花は言う。

 「だからホントは、こんな風にゆったり歩いている場合じゃないんだよね。ってことで、走ってもいい?」

 火花はコテンと首を傾げながら聞いてきた。

 俺は勢いよく頷いた後で、自分も走る羽目になることに気付いた。

 

 「はぁ、はぁ、君、足速いね……」

 ぜぇ、はぁ、と荒い息をしながら、素直に火花を称賛する。

 「お前も速い方だと思うぞ」

 火花も俺を労ってくれる。

 俺はさっきコンビニで適当に飲み物を買っていた自分を褒めた。これがなければ倒れていたかもしれない。

 俺はペットボトルの飲み物を、一気に半分ほど飲み干した。

 ちらりと隣に立つ火花を見る。あんなに走ったのに、随分と余裕そうだ。鍛えているのだろうか。

 火花は辺りをキョロキョロと見回している。そして、お目当てのものを見つけたのか、パッと顔を輝かせて、手を振りながら叫んだ。

 「おーい!所長!みんな!」

 その呼びかけに三人に人影が反応し、こちらへ向かってくる。

 「やっと来たのか、火花」

 周りには、警察がたくさん立っていた。事件の現場なんだと思わされる。

 そして俺たちの横には、事件の現場である、立派な銀行が建っている。

 こちらに向かってきた三人はそれぞれ、少年、少女、そして大人の男性だった。

 少年は、ふわふわした癖っ毛の髪をしていて、背は低め。うずまきの形のピアスを、片耳にだけ付けている。

 同い年の男子にしては、背が低く見えるが、火花同様見た目で決めつけるのはよくない。それに、身長にとやかく言われるのは、男として傷つくだろうから、何も言わないでおこうと思った。

 対して少女の方は、少女というのは似合わないかもしれないと思えるほど、大人びていた。胸あたりまでの長さの長い髪に、整った容姿。柔らかい雰囲気の女子だ。さぞかしモテることだろう。首元には雫の形のネックレスを付けている。

 そして男性の方は……青年というのだろうか。未成年の俺がいうのもなんだが、まだ若く、二十代だろうと言う見た目で、なにより容姿端麗だった。長めの髪を後ろで一つに縛り、優しそうな笑みを浮かべている。しなやかな、いるだけで目を引いてしまうような雰囲気。こちらもさぞかしモテるだろう。そういえば彼には、火花や少年少女のつけている、チャームなんかが見当たらなかった。

 「ごめん、遅れて!」

 火花が手を合わせて謝る。

 「火花、えっと、彼は?」

 大人びた少女が尋ねる。

 「ああ、こいつは……、さっき道で見つけたんで連れてきた」

 「捨て猫かなんかみたいに言うな!」

 俺は思わずそう言ってしまった。

 「えっと、阿澄玲です。ここに連れてこられた理由は……よく分かりません」

 一応自己紹介をしておく。ただ、肝心な部分は自分でも分からない。

 「……なんかごめんね。玲君」

 きれいな男性に謝られる。

 「いえ……、それより、中に人質になっている人がいるんですよね?早く助けたほうがいいんじゃないですか?」

 俺はおずおずとそう言った。

 その言葉に、少女は目を丸くし、少年は火花を睨み、火花は俺を睨み、男性は何やら考え込んだ。

 「なんでそれを?」

 少女が俺に尋ねる。

 「火花が教えたんだろ」

 俺の代わりに少年がきっぱりと答えた。

 「お前!なんで言っちゃうんだ!」

 火花は俺に向かって叫ぶ。そんなことを言われても困る。

 「つまり火花は、彼を仲間にしようと、ここに連れてきたわけでしょう?彼に、相談員の素質があると。」

 男性の声に、三人は静まる。

 みんなそれぞれ、驚きや怒りの感情があった中で、彼だけは冷静だった。

 彼はフッと笑った。きれいだけど、なんだか怪しい感じの笑みだった。

 「そのブローチを見れば、きっと彼には素質があるのだろうとは思います。ですが、相手に大事な部分を伝えず、事件のことだけを教えてここに連れてくるのは、あまり良くなかったですね、火花」

 うっ、と火花が呻く。そして、しょんぼりしたような顔で、「ごめん」と謝ってきた。先程までの生意気そうな雰囲気とは全く違う様子に驚いた。

 「まあでも、せっかく来たんですし、私たちの仕事を見ていきませんか?」

 男性がそう言った。

 「これから何をするんですか?」

 俺はよく分かっていなかったこと、つまりは、この現場における彼らの役割を尋ねる。

 その問いに彼らはそれぞれの表情で、声を揃えて言った。

 「事件の解決」

 「かな?」

 「おう!」

 「だな」

 「そうですね」

 その後に続く言葉はバラバラだったが。

 ただ、その四人の団結力のようなものは目に見えていて、少し眩しかった。

 そして、俺もその輪に入れたら、なんて、ほんの少し思ってしまった。


 「君は入口の方で、待っているだけで構いません。危険な行動は控えてくださいね」

 男性は俺にそう言った。もちろん、そのつもりである。

 警察が何やら男性に話しかけていたが、彼は一言、「いりません」とだけ言った。

 そして少年少女たちに向き合い、確認する。

 「澪、水は持っていますか?」

 「はい。二本しか持ってないので、これ以上の怪我は困りますけど……」

 少女は不安げに答える。俺は初めて、彼女の名前が澪であることを知った。

 「雄大、風はどうですか?」

 「問題ない。が、中は分からないな。さすがに扉は閉めるだろ?」

 「中のエアコンの風が使えるといいのですが……」

 少年の言葉に男性は少し考え込んだ。俺は、少年の名が雄大であることを知る。

 「火花は、中で能力は使えそうですか?」

 「電子機器ならいっぱいあるだろうから……。ただ、壊しちゃうかも」

 「……できる限り、自分の手持ちで済ましてくれるとありがたいです」

 二人はお互いに苦笑いをする。

 そしてもう一度、男性は三人を見渡す。

 「いいですか。くれぐれも、無茶はしないように。相手は銃を持って立てこもっています。銃弾は、当たりどころが悪ければ即死。そうなったら、治療も受けられませんからね。今回も、私は余程のことがない限りは、手を出しません。三人で、力を合わせて頑張ってください」

 「はい、所長」

 男性の言葉に、三人は声を揃えて頷いた。

 「では、開けますよ」

 その言葉に、閉ざされていた自動ドアが、再び滑らかに開いていった。

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