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使い手たちの相談所  作者: 綴ミコト
第一章 炎と相談所編
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8、仇討ちの決意、そして開戦

 「うわああああ」

 涙は溢れて止まらなかった。大泣きなんていつぶりだろう。

 恐怖を感じた。なぜ俺は狙われたのか。そして、俺のせいで巻き込まれて亡くなった人たち。その家族は俺のせいと知ったら俺を責めるのだろうか。怖かった。

 罪悪感。みんな、みんな俺のせいで亡くなった。俺と同じ日に、同じ時間に、たまたま居合わせただけなのに。ごめんなさい、とどれだけ謝ったところで、それが彼らに届くことはもうない。

 怒り。どうして、あんなことをするのだろう。どうして、簡単に、表情ひとつ変えずに、彼らは人を殺すなんてことができるのだろう。許せなかった。

 そんな感情が全部全部ごっちゃになって、悲しくなった。

 「俺のせいで……。全部俺のせいで……っ。俺のせいで何の罪もない人たちが死んだんだ!こんなの……、俺が殺したようなものじゃないかっ!」

 泣きながら俺は叫ぶように言った。ぐちゃぐちゃになった感情を吐き捨てるように。

 全部俺のせいなんだ……。全部俺が悪い……。

 ……きっとそもそも、俺が生まれてきたこと自体が……。

 「そんなことないっ!」

 絶望して、何もかも嫌になった俺のそばで、誰かがそう叫んだ。

 顔を上げると澪が、俺と同じようにぼろぼろと涙を流しながら、まっすぐな瞳で俺を見ていた。

 「そんなことないよ。だから、玲のせいだなんて思わないで。玲は何も悪くないもの!」

 そう言った彼女の言葉に同意するように、雄大と火花も頷く。

 「ああ。お前は悪くない。悪いのは、あの冥王星とかいうやつらだろ?」

 「そうだよ!いくらあいつらの狙いが玲だったからって、亡くなった人たちが殺されたのは玲のせいってことにはならない!」

 雄大と火花は口々にそう言って、俺を慰めてくれた。その優しさに、胸が温かくなって、心の傷が少し癒えた気がした。

 その時、所長が立ち上がって、俺の手を取った。そして、真剣な目で俺に問いかける。

 「私たちに今できることは、何だと思う?」

 「できる、こと……?」

 俺は訳がわからなくて、ポカンとしながら彼の言葉を繰り返した。

 所長はそんな俺を見ながら続ける。

 「そう。まず、悪いのは君じゃない。どんな時だって、どんな理由があったとしても、悪いのは手をかけた人になる。今回の場合だって、悪いのは手をかけた相手だ。君は昨日、彼らに許されると思ってるのかと言ったね。確かに許されないことだ。あの言葉は、彼らに対する怒りからだろう。今、君が、私たちが、そのためにできることはなんだ?命を落とした人たちのために。彼らに罪を償わせるために」

 ……そうか。そういうことか。

 「仇討ち……」

 所長は俺の言葉に頷いた。周りを見れば、澪も雄大も火花も、「やってやろう」というような顔で、俺の方を見ながら頷いていた。

 俺の心が、新たな目標を見つけて、また少し晴れていく。

 仇を討つんだ、殺された人たちのために……!


 「冥王星は神出鬼没。とはいえ、玲が狙いなら、また近いうちにあちらから手を出してくる可能性もあるだろう」

 俺たちはどのようにして仇を討つのかを話し合い始めた。

 仇討ちといっても、相手を同じように殺すわけにはいかない。相談所はどんな相手であっても殺しはしないことが決まりになっている。どんな極悪犯であれ、刑罰の判断は警察に任せるのだ。

 だから今回も、俺たちにできるのはおそらく、冥王星のメンバーたちを見つけ出して捕らえること。それが、俺たちなりの仇討ちの形になるだろう。

 そのためには、彼らの居どころを掴まなくてはならない。

 冥王星は謎に包まれていて、彼らが今どこにいるのかも、こちらには分からない。故に、こちらから攻撃を仕掛けるのは難しく、俺たちは動きようがない状況だ。

 ……それにしてもこの相談所、敵が多いな。影の組織に冥王星。逆に、味方になってくれる組織とかはあるのか?

 ふと気になったので、俺はそのまま所長に質問してみた。

 「この相談所に味方してくれるような人たちはいないんですか?」

 「あるにはありますよ」

 所長はいつも通りの敬語に戻ってそう返した。

 「あ、あるんですね。なんかこう、ここって敵が多かったから……」

 俺は疑ってしまったことに申し訳なかったかなと思いながら言った。

 「ところでそれってどこなんですか?」

 俺は再び尋ねる。

 「警察ですね」

 そう言われて俺は納得した。思えば、誘拐事件の時に俺たちを中に入れて外から見守っていてくれたのも警察だ。いや、それ以前に、俺が相談所と初めて出会った銀行強盗の事件の時も、警察と協力していた。

 「ただ、こちらから協力を仰ぐことはあまりないので……」

 「確かに。アタシや雄大が犯人ズッタズタにしちゃった時、助けてもらったことはあるけど」

 火花の口から何やら物騒な思い出話が飛び出して来る。とにかく、こちらから協力を要請することは稀なようだ。

 「まあでも、こちらは彼らにいろいろと恩を売っているわけですし、協力を断られることはないでしょう。彼らなら確かに、冥王星に関する情報を持っている可能性もあります。お願いしてみましょうか」

 所長は早速受話器を取って電話する。

 その間、俺は電話の邪魔にならないよう、小声で三人に質問する。

 「お前らは所長が今電話をかけてる相手が誰か、分かるのか?」

 「まぁ多分?森田さんじゃないか?」

 俺の質問に火花が答えた。彼女は続ける。

 「この相談所ができてすぐの頃に会ったことがある人で、所長と仲がいいんだ」

 「へー。……そういえば、この相談所ができたのって、いつなんだ?」

 その質問に、火花は少し過去を懐かしむように目を瞑ってから答えた。

 「今から、一年くらい前だよ」

 「機会があれば、いつかその頃の話もお話ししましょう」

 ちょうど電話を終えた所長が、彼女の言葉を引き継いだ。

 「どうでしたか?」

 俺が所長に尋ねると、所長は笑って返す。

 「情報を教えてくれるそうだよ。みんなで行こうか」

 その返事を聞いた俺たちは、パパッと出かける支度をする。

 そして俺たちは相談所を出て、協力者となってくれた警察官のいるところへ向かった。

 

 向かった先はテラス席のあるカフェだった。俺たちがそこに着くと、そのテラス席の一つに座っている男性が、こちらに手を振ってきた。

 「おっ、待ってたぞ」

 筋肉質で頼り甲斐のありそうな人だった。気さくに笑いかけてくれる様子に安心感を覚える。年齢は所長と同じくらいだろうか。所長は見た目より若いようにも年上のようにも見えるので、よく分からないが。

 「火花ちゃんに雄大くんに澪ちゃん。と、初めましての子かな?俺は森田健。龍弥とは腐れ縁ってやつかな。君は?」

 「阿澄玲です。よろしくお願いします」

 俺が名乗ると、森田さんはニカっと笑いかけてくれる。

 「おう!よろしくな。それじゃ、頼まれてた情報についてだが……」

 そう言って話を始めようとした森田さんを、意外にも、所長が止めた。

 「ちょっと、私に挨拶はないのかい?」

 ムッとしたような表情でそういう所長は、いつもより子供っぽく見えてびっくりした。ますます、彼がいくつなのかの見当がつかないな、と思う。

 そもそも所長はいつも穏やかなので、こういう感情が表に出た顔は珍しい。俺は驚いた。

 「悪かったよ。久しぶりだな、龍弥」

 申し訳なさそうに眉を下げて謝る森田さんを見て、堪えきれずに吹き出した所長は、楽しそうに笑いながら返した。

 「冗談だよ。続けてくれ」

 そんな所長を見て森田さんはやれやれ、といった様子で再び話し始めた。

 「一応許可が下りたんで情報は教えられるんだが……」

 森田さんは何やら悩んでいるようだった。所長の方をチラリと見ては、また視線を落とす。

 「言いにくいことなのかい?一体どんな情報なんだ?」

 所長が顔を曇らせながら聞いた。

 森田さんはまだ少し悩みながらも口を開いた。

 「奴らの拠点に関する情報だ」

 その言葉には相談所のみんなが驚いた。俺もびっくりして思わず固まる。

 だが、それがどうして言いにくい情報なのかは分からなかった。そのことに内心首を傾げていると、森田さんはそのことについて言及した。

 「だが、怪しい。隠す気を感じさせないというか、むしろこちらをおびき寄せているように感じるんだ。それでも聞くか?」

 森田さんは真剣な目で所長に確認する。

 それに所長もまっすぐな目で返した。

 「今は少しでも情報が欲しい。それに、おびき寄せているとしても問題ない。だから、教えてくれ」

 「分かった」

 森田さんは頷いた。

 「二日前、パトロール中の警察官が一人、殺された。無人のはずの倉庫に明かりが付いていたため、不審に思って連絡したところで殺されたらしい。その後、捜査で岩の下敷きになって死亡したことが判明した」

 俺は目を瞑って亡くなった警察官を追悼する。同時に、彼もまた自分のせいで死んだんじゃないかと考え、さっきの感情が再び湧き上がってきた。

 そんな俺に気づいたのか、澪が心配そうに顔を覗き込んできて、背中をさすってくれた。さっきのように、あなたのせいじゃない、と言ってくれているような気がして少し落ち着いた。

 そして、森田さんの教えてくれた情報に考えを巡らせてみた。

岩という言葉には引っ掛かりを覚えた。確か、冥王星のメンバーの中に、石の使い手がいたはずだ。亡くなった警察官を下敷きにしたのは岩で、彼は石の使い手だったが、この流れからして、彼が犯人なのだろう。警察もそう判断したから、これを冥王星絡みの情報として扱っているはずだ。

 だが、なぜこれが怪しいのかは分からなかった。

 俺が首を捻っていると、森田さんが説明をくれる。

 「まず、電話中に殺しては、そこに敵がいますと言っているようなもんになるだろう?あと、現場に捜査に向かったやつを殺さないのも、まるでこの様子を見て世間に広めてくれと言っているようなもんになる。まあ、単にそこまで余裕がなかったって可能性もあるが。昨日は忙しかっただろうからな」

 最後の言葉は皮肉そうに言っていた。確かに昨日は俺たち会わなければならなかったのだから、忙しくてそっちに手を回せなかっただろう。昨日の件はニュースになっているので森田さんを含め、世間にはすでに知られている。

 だが、少なくとも話の前半に関しては、確かに怪しかったと俺も納得し、思わずこくこくと頷いた。

 「もしおびき寄せているのが私たちだとすれば、彼らは前もって、何らかの形で私たちがこの情報を入手しそちらへ向かって来ることを想定していたわけだ……」

 所長が小さな声でそう言った。その声には悔しさが滲んでいるように思えた。

 対する森田さんは「教えるべきか迷ったんだが……」と暗い顔で言った。

 「いや、大丈夫だ。教えてくれてありがとう」

 顔を上げた所長がそう言ったのを聞いて、森田さんは尋ねる。

 「行くのか?」

 所長は「もちろん」と答えた。

 森田さんは不安そうな顔をしながらも、止められないことを悟った様子で、「応援してるぞ。頑張ってくれ」と俺たちを見送ってくれた。

 「それじゃあ行きましょうか。みんな、行けますか?」

 所長の問いかけに、俺たちは揃って頷く。

 そして、森田さんに別れを告げると、俺たちは敵の拠点である可能性がある、森の中の倉庫へと向かった。


 「こんな場所あったんだな」

 俺は呟いた。

 俺たちは人気のない森の中を歩いていく。あるのは木だけ、聞こえるのは風が時折木の葉を揺らす音と、鳥の囀りくらいだ。

 そんな静かな森の中、突然人の気配を感じた。

 振り返ると澪が、黒い服の怪しい男に捕まっていた。

 「澪!」

 俺が手を伸ばして澪を助けようとした時、さらに車がすごいスピードで走ってきた。

 「危ない!」

 俺は雄大にパーカーのフードを掴まれ、なんとか車に轢かれずに済んだ。

 キキッと音を立てながら急停車したした車から手が伸びてきて、澪を引っ張り車の中に引き摺り込む。俺たちは 狭い森の中の道で車を避けなければならなかったせいで、体勢を崩していて、澪を助けることができず、車はそのまま走り去っていく。

 所長は澪を助けるために、力を使って時を止めようとした。しかしその時、何者かが混乱に乗じて、所長を後ろから刺した。

 「所長!?」

 誰よりも先に、火花が悲鳴を上げた。

 その場に崩れ落ちた所長を見て、火花はみるみるうちに怒りを募らせていく。

 「あいつ、許さない……!!」

 火花が怒りを抑えきれない状況であることを表すように、辺りにバチバチと電気が舞っている。それに加え、目の錯覚か、彼女を包むような黄色いオーラがうっすらと見えたような気がした。

 火花が彼を殺しそうな勢いで追いかけようとするのを、所長が止める。

 「火花……、落ち着いて……」

 所長が苦しそうな声で火花を宥める。それを聞いて火花も足を止めた。

 「所長!大丈夫……?」

 さっきより怒りが収まった分、今度は泣きそうな声で火花が所長に駆け寄る。

 そんな火花を安心させるように力無く笑うと、所長は今の状況と今後の作戦を説明し始めた。

 「おそらく、私や澪がいると相手の勝率が下がることからの冥王星側の行動だと思われる。彼らは私たちがすぐにでもここへ来ると分かっていたのだろうね。となると、おそらく敵も本気だ。全力で、君を捕らえに来るだろう」

 所長は俺の方を見る。俺は自分が狙われていることを改めて自覚し、心臓がスッと冷えるような心地がした。

 「私は澪の救出に向かう。すぐに戻るけど、もしかしたら時間がかかってしまうかもしれない。三人は、頑張ってそれまで持ち堪えてくれ」

 所長のいつもと違う命令口調に、身が引き締まる。

 所長は言い終えてから、再び苦しそうにうずくまった。火花は心配そうに所長に寄り添っていたが、傷口の上に時計の文字盤が浮かんできたのを見て、僅かに安堵したように息をついた。

 それから、所長は立ち上がった。まるで傷口が塞がって回復した、というようにいつも通りの様子に俺は驚く。

 それから、指をパチンと鳴らした。その音が俺の耳に届いた時には、すでに所長はいなかった。

 やっぱり時の力はすごいなと感服してから、ふと思い出してさっきのことを火花に尋ねる。

 「なあ、さっきのあの……文字盤?なんだったんだ?」

 「あれは多分、傷口部分に流れてる時を止めたんだと思う」

 傷口部分に流れてる時を止める!?理解できなくて俺は開いた口が塞がらなかった。

 「そ。まあ、理解しようとしても無駄だよ。こんなこと、時の使い手である所長にしかできないし、その感覚も所長にしか分からない。お前が手から炎を出して、その大きさやら形やらを自由に変えられるのが、アタシたちには理解できないのと同じ。とにかく今は、所長が力を使って、傷を負っていても動けるようになったことだけ理解してればいい」

 そう言われた俺は考えるのをやめて、目の前のことに集中することにした。

 先に三人で敵のところへ向かい、戦いを始める。それが所長の命令、俺たちの任務だ。

 ……俺たちはやれるのか?所長に澪という貴重な人材を失った状態で。

 不安になって俯いていた俺に、雄大と火花が手を差し伸べてきた。

 「行くよ。所長の命令だ」

 火花がやる気に満ち溢れた瞳で俺に言った。

 「俺たちだけでもできるってとこ、見せてやろーぜ」

 雄大も同じように、その目からやる気を感じさせる。

 やれるかやれないかじゃないんだ。こんなところで、自信をなくしてる場合じゃない。

 そう思わされて、俺は二人の手を取り、立ち上がった。

 

 それから少し進んだ先に、倉庫はあった。

 その倉庫から、俺たちが来るのを待ち侘びていたというような様子で、人影が現れる。

 「いらっしゃい!」

 石の使い手、泉琥太郎……。

 俺はゴクリと唾を呑み、拳を握りしめた。


 石の使い手と俺たちの戦いが、始まった。


また長くなっちゃいました……。

警察が出てくるんですが、結構適当に書いているので、ここおかしい!とか、ここ違う!とか、そういうのがあったら、ぜひ教えてください。もちろん、普通の感想も待ってます。

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