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使い手たちの相談所  作者: 綴ミコト
第一章 炎と相談所編
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7、冥王星からの招待状

人によってはそれほどでもないかもしれませんが、残酷な描写が出てきます。苦手な方はご注意ください。

 今日も学校を終えて相談所へ向かう。ドアを開けるといつもならすぐに聞こえてくる出迎えの言葉が、今日はなかった。

 ……いつもっていっても、俺がここで働くようになってから、まだ一週間も経ってないんだけどな。

 でも、到底そんなとは思えないほど、いろんなことをここ数日で経験してきた。彼らともかなり親しくなれたと自分では思っている。

 相談所の中は静かで、いつもと様子が違うように感じた。俺が部屋に入ると、所長、雄大、火花の三人は、テーブルを囲って何やら考え込んでいた。

 「あっ、おかえりなさい、玲」

 俺が入ってきたことに気づいた所長がそう言った。すると他の二人も俺に気づいたようで、顔を上げて「おかえり」と言ってくれる。

 「ただいま。えっと、何やってるんですか?」

 俺の問いかけに、所長がテーブルの上にあった一枚の封筒をこちらに見せてきた。

 「今朝相談所に不思議なものが届きまして……」

 そう言いながら中に畳まれた手紙を封筒から取り出して、俺に渡す。その手紙は、どうやら招待状のようだ。

 「噴水のある公園での、私たちのショーへご招待……?」

 俺はそれを声に出して読んでみる。

 招待状は非常に綺麗な字で書かれており、ご丁寧に日時も記載されている。しかし肝心の差出人が書かれておらず、逆に宛先も書かれていない。間違えたのでないなら、直接ここのポストに入れたのだろうか。

 子供の手紙のやり取りならありえそうだが、この字ではそうとは思えない。そもそもここは路地裏で、確か周りの店に子供が住んでいるところはないはずだ。間違えて入れるとは思えない。

 となると、本当にこの相談所当てなのだろう。

 「噴水のある公園っていうと……、この近くだと、ススキ公園か?」

 雄大が言う。

 所長は招待状に書かれた日時を確認しながら、

 「五時なら澪も行けるでしょうし、みんなで行ってみましょうか」

 と言う。

 「えっ、行くんですか?」

 俺は思わずそう聞き返した。どう考えても怪しいと思う。怪しい人たちが俺たちをおびき寄せているか、ただのいたずらかのどっちかな気がする。しかし所長はこう言った。

 「大丈夫。怪しい人物なら仕事の一環として何とかする必要がありますし、これがいたずらで無駄足になったとしても、みんなで散歩ができるいい機会になるわけですから」

 俺は感心した。見習うべきポジティブシンキング。

 雄大と火花も乗り気のようで、「ショーだ!」と楽しみにしている。

 二人に水を差すようなこともできず、俺は何かを言うこともしなかったが、ただやっぱり怪しいと思っていた。

 一体なぜ、俺たちを招待するのだろうか。一体何が狙いで……?

 考えたって答えなんかわからない。

 そのうち、澪が帰ってきて、また招待状を見せ、行ってみるという話をする。

 澪も少し怪しいものを見る目で招待状を見ていたが、行くことに関しては何も言わなかった。

 今までの経験からなのか、俺以外は不安そうな素振りを見せない。俺ももっと経験を積むべきなのだろうと思った。

 そして俺たちは、相談所を出て公園へ向かった。


 その頃ススキ公園では、噴水の前に怪しい五人組がいた。

 何かコソコソしているとか、怪しい行動をとっているとか、そういうわけではなく、ただあまりにも彼らとその周りの風景が合わないからこそ、彼らが怪しく見えているのだった。

 その中でもとりわけ周りと合わない、派手な身なりの男が、ちょうど噴水の前の他のメンバーと合流したところだった。

 「皆さん喜んで受け取っていただけました。あなた方もお一つずつどうです?」

 そう言って花を取り出した男を、他の四人は丁重に断った。

 一瞬落ち込んだように見えたが、すぐに別の楽しみを思い出したように顔を輝かせる。

 「さて、そろそろかなぁ……」

 白いシルクハットに長めのトランプ柄のコート、ストライプのズボンという奇抜なファッションの彼は呟いた。シルクハットには花の飾りがついていて、手にはステッキを持っている。

 「楽しみですわね」

 彼にそう返したのは、美しい見た目の若い女性。結い上げた髪に赤紫のロングドレス、高いヒールを履いている。名前の通りススキだらけの公園には不釣り合いな衣装だ。真珠が並ぶネックレスには音符のチャームがついている。

 その後ろで黙って噴水の縁に座っているのは、まだ幼い少女だった。

 可愛らしい洋服に身を包み、亜麻色の髪をハーフアップにして、大きなリボンをつけている。そのリボンには本の形をした飾りがつけられている。そして、手には大事そうに「シンデレラ」の本を抱えていた。

 「アッシュ大丈夫?暇?せっかく招待してあげたのに、アッシュを退屈させるなんて……。まったくひどい奴らだねぇ」

 そんな幼い少女にしつこく話しかけては無視をされ続けている青年。チェック柄のスーツという、この中では目立つような服装ではないものの、その様子から視線を集め、若干引かれていた。そんな彼のネクタイには雪の結晶の形の飾りがついている。

 「お前……、相変わらず気持ち悪いな。しかし、これから楽しいショーができるってのに、来れないあいつも可哀想だなあ……」

 ここにいないメンバーに想いを馳せながらそう言うもう一人の青年。ハンチング帽にベストにピエロパンツ。そして、岩の形の飾りがついた腕輪。

 そんな五人がそれぞれ気ままに過ごしていると、公園に新たに人が入ってきた。それを見た道化師のような格好の男は不敵に笑う。

 「さあみんな……、お客様だよ」

 彼らこそ今回のゲスト、もりすけ相談所の所長と相談員たちだ。その中に、炎のブローチをつけた少年がいることを確認し、男はさらに笑みを深める。

 相談所の一行がこちらに向かってくる。そして、目の前までやって来ると所長が一歩前に出てこちらに尋ねる。

 「あなたたちですか?この招待状の差出人は」

 その問いに、男も周りのメンバーより一歩前に出て、帽子を外してお辞儀をする。

 「そうです。ようこそお越しくださいました、相談所の皆様。それでは……イッツ・ショウタイム」


 俺たちが公園に着くと、噴水の前に目立つ五人組がいた。あの人たちだろうな……と俺は見て思った。

 彼らのところへ向かうと、所長が一歩前に出て尋ねた。

 「あなたたちですか?この招待状の差出人は」

 対する五人組の中で、最も目立つ男が、前に出て答える。

 「そうです。ようこそお越しくださいました、相談所の皆様。それでは……イッツ・ショウタイム」

 帽子を外して、西洋のお貴族様とか、それこそショーのキャストがやるようなお辞儀をしながら彼はそう言った。

 そして、その外した帽子を持ち替えて、もう片方の手に持っているステッキでコンコンと叩くと、中から鳩が飛び出してきた。

 「わぁ……」

 俺は思わず声を上げる。隣では雄大と火花も同じような反応をしていた。

 次に、彼の持っていたステッキが花に変わった。男は前に立っている所長を通り越して俺の前にやって来ると、その花を俺に差し出してきた。

 「えっ、俺?どうも……って、トゲだらけで持てませんよ!?」

 茎が大量の棘で覆われていて握る場所のない花を見て俺はそう言った。

 「おや残念」

 彼はすんなりと手を引っ込めた。花も元のステッキに戻る。

 「では自己紹介をしましょうか。貴方達とは長い付き合いになる予定なので」

 彼は帽子を被り直して意味深にそう言った。所長は彼らを鋭い目で見ている。彼らが、敵か味方かを見極めるように。

 そんな所長の視線を気にすることなく、男は自己紹介を始めた。

 「私の名はアレン。花の使い手です」

 その言葉に、俺たちの警戒心は一気に高まった。マジックを楽しそうに見ていた雄大と火花も目つきを変える。

 使い手なら、味方としては頼もしいが敵だとしたら大変だ。しかもこの人数。もし全員が使い手だとしたら……。

 明らかに空気を変えた俺たちに構わず、自己紹介は続く。次に、隣の女性が優しく微笑みながら自己紹介をした。

 「私は麗美。歌の使い手ですわ。よろしくお願い致します」

 次はスーツの青年が自己紹介をする。

 「次は俺か。一ノ瀬。氷の使い手だ。……次はアッシュだけど、自己紹介できる?」

 ……なんか態度がコロコロ変わるな。幼女にデレデレで話しかけてる……。

 「じこしょうかいくらいできる。アッシュ。本のつかいて」

 小さな少女は淡々とそう言った。そして、横で「すごいねぇ〜」と言っている一ノ瀬と名乗った青年に冷たい視線を送っている。

 「最後は僕だね。琥太郎だよ。よろしくね」

 もう一人の青年は、ニカっと笑いながら言った。

そしてまた最後は、アレンという男に戻って来る。大袈裟な身振りで、バッと手を広げて、彼は高らかに言った。

 「我々の名は”冥王星”!破壊と再生を司る星の名の下に、世界を正しきに導く存在です!」

 俺たちはそれを聞いてざっと青ざめた。

 「”冥王星”!?他の人たちを、早く避難させないと!」

 所長が焦りを滲ませた声を出す。

 冥王星という名には、俺も聞き覚えがあった。

 一ヶ月ほど前に、ニュースで取り上げられていた。確か都内の公園で、その時公園にいた人たちが皆殺しにされた……というようなニュースだったはずだ。

 彼らは元々国内のみならず海外でも活動していたテロリストで、彼らがテロを起こした現場には必ず、とあるメッセージを残していくという。

 “破壊と再生を”という文字と、冥王星の惑星記号を。

 そんなテロリストが今ここに現れた。それは、これからここでテロが起こることを意味する。

 俺たちは走り出す。ここは危険だ。今すぐにこの公園にいる全員を避難させないと、このままだとここにいる全員がみんなーー

 「無駄だよ」

 突然背後から肩を掴まれて、耳元で冷たい声が囁いた。

 次の瞬間、辺りに血飛沫が飛び交う。

 公園にいた人たちが全員、大きな花の棘に刺されて死んでいた。

 目を閉じることもできずに、心臓を貫かれて……。

 殺された人たちは皆、あの男、アレンに花を渡されていた。その美しい花たちが、彼らの命を絶ったのだ。

 どうすることもできず、俺はその場に立ち尽くす。そんな俺に再び、耳元でアレンが囁く。

 「さて……、今ここで絶望に満ちた君たちを殺してしまうのも悪くはないけど、それではあまり面白くないからね。今日はこの辺で」

 所長と澪たちが走って来るのがぼんやりと見えた。けど俺の視線は、殺された人たちに釘付けになっていた。

 冥王星のメンバーたちがその場を離れようとしていくのを感じる。彼らは殺すだけ人を殺し、去っていくのだ。

 「待て……」

 俺は怒りに満ちた声で、振り返りながら彼らを呼び止める。

 「こんなことをして、許されると思ってるのか……!」

 体が怒りで燃えている。でも自分でも理解していた。その奥に、冷え切った恐怖があることを。

 その恐怖は、彼の言葉に呼び覚まされることになる。

 「大丈夫だよ。またすぐに会えるから。なにせ、我々の狙いは阿澄玲、君なんだから」

 ーー俺が狙い?

 彼らはそう言い残して去っていった。最後に彼らが残していった、大きな一輪の花を、所長が拾い上げる。

 「破壊と、再生を……」

 花びらにはそう書かれていた。別の花びらには冥王星の惑星記号も書かれている。どんな時であれ、彼らはこのメッセージを残すのだ。

 一方で俺は、彼がさっき言ったことに、心が崩れ落ちていくような感覚を味わっていた。

 俺が狙い?それじゃあこの人たちは……。

 俺はもう一度殺された人たちの方を見ながら思う。

 俺のせいで殺されたのか……?

 彼らの狙いだった俺が、公園を訪れた時、たまたま公園に居合わせたから。

 何の罪もないのに、俺のせいで。

 「玲」

 そんなの、俺が殺したようなもんじゃーー

 「玲!」

 澪が横で俺の名前を叫んでいた。俺は彼女の方を向いて、その心配するような優しい顔を見て、思わず涙がこぼれそうになる。

 ああ、こいつらも、俺のせいで巻き込まれたのか……?

 所長が俺に手を差し伸べる。

 「帰りましょう」

 本当に俺は帰っていいのか?あの相談所に。

 こんな、誰かを巻き込んで殺してしまったようなやつに、居場所なんてあるのか?

 所長の顔が少し険しくなる。そして、無表情になって俺に言った。

 「今は何も考えるな。何も考えず、立って、歩いて、いつも通り過ごして、また明日相談所に来て。そしたら、今起きたことについて、もう一度話そう。……君には時間が必要だ。肉体的にも、精神的にも」

 そう言われた俺は、まるで感情が剥がれ落ちて操り人形になったように、彼のいう通りに過ごした。きっと俺ももう、今はこのことについて考えたくないと思っていたのだろう。

 何も考えず、立って、歩いた。いつも通りに過ごした。

 そしたら朝が来て、休みの日だったから、いつもより早く相談所に行って。

 俺はソファに座って、他のみんなもソファに座って。それから、所長が俺に「玲」と声をかけてきた。

 それを合図に、まるで俺を操っていた見えない糸が切れてしまったように、抑えていた感情が一気に溢れてきた。

 そしたら、昨日の恐怖と、罪悪感と、怒りと、悲しみとが蘇ってきて。

 俺は泣いた。

新しいキャラが五人も。本人も言っていましたが、長い付き合いになる予定です。

今までにない酷な場面を目撃してしまった玲は、果たして立ち直れるのでしょうか……。

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