プロローグ
その力が与えられるのは、神の選びし者のみ。
かつて神は、この世の森羅万象を操り、世を治めてきた。
やがて神はその力を、人間に託すことにする。
力与えられし者たちは、炎を操り、風を操り、水を利用し、電気を纏い、神に代わってこの世を守った。
しかしその力が必ずしも、それを与えられた人間を幸せにするわけではなかった。
蔑まれ、恐れられ、避けられ、辛い目に遭う者もいた。
それでも、この世を守ること、そのために戦うことが、彼らの使命だった。
使い手。神から与えられし力をもって、この世を守る役目を背負いし者。
そんな彼らは今日も、街を駆け回り人々を助ける。
「ヤバイ!遅れる!」
一人の少女が懸命に街を駆けていく。
そしてその先の曲がり角の向こうには、どこか浮かない顔の少年がとぼとぼと歩いている。
二人の出会いは偶然か。はたまた神の仕組んだものなのか。
この先に待つ、大きな敵を討つための。
少女の上着のチャックに付いたチャーム。少年のパーカーの胸元に付けられているブローチ。
二つは不思議な光を放っている。
その光はこの世に無数に存在する。この世の森羅万象の数だけ。
「あいつ、遅くね?」
「道にでも迷ってるのかしら……」
そんな会話をする少年のイヤリングと、少女のネックレス。そんな二人を見守る後ろの青年の服の内側にしまわれている時計。
神社で掃き掃除をしている青年の数珠。地下の空間で一人佇む青年のチョーカー。
遠く離れた欧米の国で、街を歩く団体の、男の帽子の飾り、女性の首飾り、幼女のリボンに付けられた飾り、青年のネクタイの飾り、もう一人の青年の腕輪の飾り、少年のブローチ。
森の中でボロボロになった服を着て立っている少女の髪飾り。近未来な施設の中で会話をしている少年の髪飾りと男のポケットに隠されたチャーム。
教会で祈りを捧げる者たちの中の、少年のベルトに付けられた飾り。
中華の国の人里離れた村の、周りとそぐわぬきらびやかな建物の中で過ごす青年の手にしている扇子に付いた飾り。
そして、その世界の全てが見渡せるのではないかと思うほどの高い建物の最上階で、一人静かに座っている老人の、ポケットの中のもの。
それらの輝きが交わり、協力し合い、ぶつかり合う、使い手たちの物語。
街の路地裏にひっそりと存在する、使い手たちの相談所を中心として起こる物語である。